24、かぎわける幼女
前世の記憶について、抜け落ちている部分が多々あると気づいた私は、こういうことは都度メモにとっておこうと心に誓う。
うん。分かってる。
前世での記憶と現状を照らし合わせて齟齬をメモとるとか、もっと早くやっておくべきだったということくらい私にだって分かっている。
でも、なぜか大丈夫だと思ってたのよねー。なんでだろう。
「……かしん、よくない」
「お嬢様どうした? 腹でも減ったのか? いや、腹がぽっこりしてるから、むしろ腹いっぱいとか?」
「オル様、なんてこと言うんですか! ユリちゃん、今日のお菓子はチーズタルトですって。いただきましょう?」
ガックリとうな垂れていると、横で立っているオルフェウス君と正面に座っているティアが交互に話しかけてくれる……が、しかし。
ティアからチーズタルトを受け取りながら、オルフェウス君には乙女心というものを教えてやろうと、固く決意する私は魔力を練っていく。
「おい、なんで魔力を練ってるんだよ」
「オルしゃまの、おはなばたけのうみそに、おみずでうるおいを」
「オル様、ユリちゃんは魔力操作が得意なんですよ。小さいのにすごいですよね」
水色の綿あめみたいな魔力のかたまりを、指の上でくるくると回してみせる。
「魔法が得意なのは知ってるって! おい、それやめろって……冷たっ!?」
「ベルとうしゃま、じきでん、こおりのおみず」
「お見事です。ユリアーナお嬢様」
セバスさんに褒められて、ご満悦な私はチーズタルトを口いっぱいに頬ばる。
「うー、水を飛ばしても顔が冷たいんだけど……」
「じごうじとく……ん? オルしゃま、まほうつかった?」
魔力が動いたことに気づかなかったけど、オルフェウス君の髪が乾いているのは魔法を使ったからなの?
セバスさんを見れば、コクリと頷いている。やはり気づいていたとは、さすセバ。
「俺の魔力はほとんどないけど、濡れたのを乾かすくらいなら出来るぞ」
「オル様、すごいですね! 私は魔力操作が下手で、ユリちゃんに教えてもらっているんですよ」
「でも、ティア、とてもじょうずになったよ。かいふくまほう」
「へぇ、すごいな。ティアは回復魔法を使えるのか」
そうなのよ。ティアはすごいのよ。
だから冒険者として活動するなら、彼女を仲間にするといいんじゃない?
まぁ、さっきのみたいに無神経な物言いをしないよう、教育的指導をしてからになるけどね!!
直らないようなら、セバスさんに頼んじゃおうかなぁ……。
チラッとセバスさんを見れば、素敵な笑顔で返してくれる。
「お嬢様、何かあれば何なりとお申し付けください」
「ありがと、セバシュ」
よし、お願いするとしよう。
オルフェウス君は、セバスさんからみっちり教育?を受けることになった。
護衛の基本は騎士団長さんが教えてくれたそうで、礼儀作法もそれなりにマスターしていたみたいだけど、雇い主の娘に対してアレは無いよ。アレは。
レディに対する紳士の心得を、しっかりと学ぶといい。
「心得はともかくとして、お嬢様がめちゃくちゃ周りに大事にされているのは理解した」
「ん、みんな、いっぱいやさしいの」
ティアが帰ってから、夕飯の時間までを部屋で過ごす私は、少し離れた場所に立っているオルフェウス君に座るように言うけど断られた。護衛中だから、だって。
「それで、お嬢様は何を書いているんだ?」
「オルしゃまのことー」
「俺のこと? 面白いことなんてないだろ?」
「かみさまのかご、たくさんあるのすごいって」
「俺は神の加護よりも、もっとたくさんの魔力が欲しかった」
「そうなの?」
問いかけながらも、私は思い出していた。
主人公が多くの神から加護を受けて、それによって魔力が少ないことを悩んでいたと記憶している。でも、加護を持っていれば才能を得られるから、冒険者として名声を得ることができるはずなんだけど……。
「魔力があれば、もっと名をあげることができるだろう?」
「そうかな?」
メモを取る手を休めることなく、私は会話を続ける。
動かしているのはペンではない。指先に集めた魔力で、紙に文字を焼き付けている。
これは面倒くさがりのお師匠様がやっていたメモ書き方法なのだ
幼女の手はすぐに疲れるから、真似させてもらったんだよね。万能な魔力操作で異世界無双しておりますれば。
「俺は黒を持っているから……」
ああ、そういえば黒髪って、この世界では強さを表す象徴みたいなものだったっけ。
たとえば私みたいに魔力暴走をして強くなったり、お父様みたいに血筋で魔力が強い人間もいる。
それ以外に、この世界では「黒色」を持つ者は強者という定説もあるのだ。
「なやんでるの?」
「ちょっとだけ、な」
「そっか」
この時の私は、この世界は本当に自分の作った物語の世界なのかということに、疑問を抱いていた。
そして、ぽろぽろと抜け落ちていく記憶は、私の作品との「齟齬」ではないか、と。
これは確定ではない。こういう事案をもっと集めないと確証を得られないから。
そして翌日、お父様とお師匠様は出立する。
「……ユリアーナ」
「ベルとうしゃま、おきをつけて。ユリアーナは、よいこでまってましゅ」
「……ユリアーナ!!」
ただ私を見つめて、両手を広げるお父様。
その厚い胸板を目がけ、勢いよく飛び込んでゆく私。そんな私を危なげなく受け止めて、しっかと抱きしめてくれるお父様の素敵筋肉よ。
「ベルとうしゃまぁー!!」
「うむ、私は残る」
「んなことできるか。おら、行くぞ」
お師匠様に首根っこつかまれて、馬車に放り込まれるお父様。
普段はキリリとしているのに、私に合わせてフニャフニャになってくれるなんて……。
「お嬢様は、ほんと愛されてるよな」
「そかな?」
去っていく馬車を見送る私が余程さみしげに見えていたのか、オルフェウス君がやけに優しい。
騎士団の演習場所まで、お師匠様は一緒に行くそうだ。二人が一緒なら大丈夫だろうけど……。
「心配か?」
「ん、ちょっとだけ」
「あの二人なら大丈夫だろ。それよりも、お嬢様のほうが危ないと思うぞ」
「オルしゃまと、セバシュがいるから、だいじょぶ」
「確かになぁ」
そして周りを見回す私は、ふにゃりと笑う。
「いっぱいいるから、よろしく、ね」
正確には分からないけど、なんか気配を感じるんだよね。
オルフェウス君が「え、この気配が分かるのか!?」なんて驚いていたけど、分かるに決まってるし。
だっていい匂いがするって言ったら、なぜかすごく引かれた。
なんでよ? 匂いとか、大事じゃんね?
お読みいただき、ありがとうございます。
くんかくんか。




