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2、最悪というほどでもなさそう?


「執事といえばセバス」という、自分の安直な名付けかたに物言いをしたい。

 そう思ったけど、私はユリアーナの過去設定は作っていても家人の名前までは決めていなかったはずだ。

 付けていたとしたら、あの人の良すぎる担当編集者だろう。

 売れっ子とは言えない作家の編集なんて彼にとっては貧乏くじだろうに、校了明けは飲みに連れて行ってくれたり優しい人だった。


 ところで。


「なぜ、わたしはここにいるの?」


「お嬢様は魔力暴走のため大怪我を負いました。魔力を伴う怪我でしたので、魔法に詳しい御方に診ていただいたのですよ」


「まほうにくわしい?」


「はい。宮廷魔法使いであるペンドラゴン様です」


 ふぁっつ!? なぜ宮廷魔法使い!?

 いやいや冷静になろう。思い出せ、私の残念な頭脳よ。


 ユリアーナの師匠は宮廷魔法使いのはず。

 あまりにも激しい魔力暴走のせいで、ひどい目にあったというお父様の愚痴に、師匠は興味を持ったんだっけ。

 あれ? でもおかしいぞ?


「えらいひとに、おねがいした?」


「ええ、旦那様があまりにも早く診るよう急かすので、ペンドラゴン様も困ってらっしゃいました」


 魔王が復活とか天災があったとか、どんなことがあっても穏やかで優しいスタンスの師匠が困り顔を見せるって、お父様どんだけ激しく急かしたのよ……。

 いやいやちょっと待て。

 お父様にとって私は不義の子で、間接的とはいえ憎むべき対象なのでは? 怪我をして医者を呼ぶならまだしも、宮廷魔法使いに診せるとか驚きなんですけど?


 まぁ、いいか。

 小説では魔力暴走から数年経ってから師匠と出会う予定だったけど、流れとしては間違っていない。

 これなら私、ユリアーナは魔法使いの才能に満ち溢れていると師匠に見出され、そのまま弟子入りとなれば不遇の時代を過ごさずに家を出ることができる。


「ここに、ずっといるの?」


「いえ、もうじき旦那様がいらっしゃいます。マーサが呼びに行っておりますので……ああ、早いですね」


 え? お父様がここに?

 ちょ、ちょっとまって心の準備が……。


「セバス!! ユリアーナが目覚めたと聞いたぞ!!」


「旦那様お静かに。お嬢様が驚いておられます」


 バターンと大きな音をたてて扉が開いたもんだから、思わず体がかたまったよね!

 セバスさんがそっと視線を遮ってくれたのは、とてもありがたいです!

 あのアイスブルーの瞳が、氷のように私を刺す未来が見えるのです!


「いや、その、すまん……驚かせたか」


「目覚めたばかりです。お静かに」


 なぜかセバスさんに怒られている侯爵様という流れに思わず笑ってしまう。

 冷たく厳格な「氷の侯爵様」という設定だったと思うのだけど……。


「笑っているな」


「はい。お嬢様はとても感情豊かでらっしゃいますね」


 ふぉ!? もしやいけないことだった!?

 貴族たるもの感情をあらわにするものじゃないみたいな!?


 素早くベッドに近づいたお父様は、そのまま床に膝をついて私と同じ目線になる。

 深く刻まれた眉間のシワと無表情、冷たく氷のようなアイスブルーの瞳。

 

 だけど、アラサーだった私には分かる。

 この人は表情がないだけで、私を心配してくれていることを。

 自分の子ではないけれど、幼い子どもが怪我で苦しんでいるのだ。心ある人なら誰もが心配するだろう……たぶん。


 なんにせよ。氷の侯爵ランベルト・フェルザー様は、私にとって理想の男性だ。

 余裕があれば彼のようなキャラにメロメロにされちゃうとか、女性向けTL小説を書きたかったくらいだ。


「ああ、その、生きていたか」


「はい」


「怪我の具合は?」


「ちょっとだけ、いたいです」


「セバス!?」


「痛み止めの薬は食後にお出ししますから、大丈夫ですよ」


「しかし痛がっているぞ! 早くどうにかしてやれ!」


「旦那様、空腹では薬が効きませんよ」


 なんということでしょう。

 原作者である私が気づいていなかっただけで、お父様は幼女に優しい大人だったようです。

 幼女を愛でるイケメンとかやばいです素敵です好きです結婚してとか無理だけど。(早口になるオタク)

 脳内からダダ漏れる「お父様萌え」を気づかれぬよう、私は控え目に微笑む。


「だいじょうぶです。がまんできます」


「ぐっ!?」


 お父様はご自分の胸を手で押さえると、素早く後ろを向いてしまわれた。

 何かいけないことを言ったのかとセバスさんを見れば、苦笑しているだけだ。その表情は一体どういう意味なのでしょうか。私、気になります。


「さぁ、旦那様はお仕事を済ませてくださいませ。お嬢様はセバスにお任せを」


「……わかった」


 まったく「わかった」ようには見えないお父様は、しょんぼりと部屋を出て行く。

 よく分からないけど、お仕事なのだから「おしごとがんばってください」とお父様に声をかけると、無表情のまま背すじがシュッと伸びていたのが面白かった。


「ありがとうございます。お嬢様」


「なにがですか?」


「いえ、これからも旦那様にお声がけしていただけたら、とてもありがたいです」


「わかりました!」


 声かけは大事。

 社会人になってからも挨拶もひとつのコミュニケーションだから、大事だって言われてたし。




 ただ勘違いしちゃいけない。

 私は、お父様の子ではない。

 だから間違えても、お父様なんて呼ばないようにしないとね。





お読みいただき、ありがとうございます!


勢いだけで書いているので、不安しかないです……

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― 新着の感想 ―
[一言] ≫結婚してとか無理だけど。 いやいや、血はつながってませんよ~(≧▽≦) 年齢差はどれくらいかしら、むふふ(^m^)
[良い点] >感情豊かでらっしゃいますね 感情豊か、いただきました\(・∇・)/ >(早口になるオタク) キャラ付けは大事なのです。 >だから間違えても、お父様なんて呼ばないようにしないとね。 侯…
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