16、幼女は選ぶ
「申し訳なかった!」
「ランベルト!許してほしい!」
ピンク頭とオレンジ頭が、お父様に必死こいて謝っている件。
さすがに二人は王族だから土下座ではないけれど、気持ちとしてはそれくらいの勢いだろうと思われる。
氷がたくさんある廊下や部屋は、ひどいことになっているらしい。
私たちは王宮内にいくつかある応接室のうち、一番奥にある部屋に案内されていた。
ちなみに、お父様は未だに怒りがおさまらないらしく、じゃっかん冷んやりモードでございます。ちょっと寒いです。
「私はいい。ユリアーナに謝罪を」
「すまない! ユリアーナ嬢!」
「ごめんなさい!」
私に謝られても困る。
なぜなら、彼らが何のことで謝っているのかが分からないからだ。
「ベルとうしゃま?」
「なんだ?」
「あの、ちゅーはもうだいじょうぶ、なの」
「……そうか」
大泣きしている私をお父様があやしている間に、部屋や廊下の凍った部分をお師匠様が掃除していた。お師匠様えらい。
その場にいた王様と隣国の王族とかいうピンク頭のイケメンは、色々とお父様が怒るようなことを言ったらしいというのが分かった。
顔がいいからって許されると思うなよ?
それより何より、大泣きした時に「もっとちゅーしてー」などと恥ずかしいことを叫んでいた私は、事あるごとにお父様から顔や手にキスされるようになったのがマジでヤバイ。
マジ、心臓、トマル、ヤバイ。
そっと温かい紅茶を差し出してくれるセバスさんに感謝しつつ、香りに癒されながら謝る王様たちを見る。
「せつめい、おねがいしましゅ」
噛んだ。
「はじめまして、ユリアーナ嬢。私はビアン国の王位継承権五位のアケト、君の叔父にあたる者だ」
「ふぉ、おいちゃ?」
「ふぐっ、そ、そうだ。君の紫の瞳は私の兄の血を受け継いでいるもので、強大な魔力は予言の巫女である私の祖母の血だと思われる」
「よげんしゃ!」
「その力は気まぐれなものではあるのだが、今回の騒動でユリアーナ、君のことが予言に出たのだよ」
ふと紅茶の入ったカップを取ろうとして、手が届かなくて気づく。
いつのまにか、お父様にひざ抱っこされている状態だったことに。
「……ほら」
「ありがと、ベルとうしゃま」
カップを取ったお父様は、ふぅふぅしてから渡してくれる。そう、幼女は熱さに弱いからねーって、どんだけ過保護なのか!
「ランベルトが、そんなことするなんて……」
「アーサーは勉強不足だなぁ。言っとくが、あれは序の口だぞ」
王様とお師匠様がコソコソ話しているけれど、ここまで過保護だったことはないですよ? せいぜいお菓子をアーンとかするくらいで……。え? じゅうぶん過保護だって?
いやいや、今は予言に出てきた私の話ね。
「フェルザー侯爵には誤解をしないよう願いたい。少々強引にでもユリアーナ嬢を我が国に招こうとしたことは本当だが、事情があったのだ」
「事情、とは?」
「ビアン国の王族、特に魔力の強い者は『選ぶ』ことがある。それは男女問わず起こることで、かなり強い力が動くことになる。予言にも出てくるほどだから、力のある祖母の元で一時保護しようと考えていた」
「そして、大きな力が動くのは危険だと、我が国も協力することにしたのだけど……まさか、あのようなことになるなんて……」
ピンク頭のイケメンが話している内容に、ちょっと理解が追いついてくれない。
どうしようとアワアワしていたら、お師匠様がストップをかけてくれる。
「あー、ちょっと待ってくれ。えっと、王位継承……」
「アケトでいい」
「アケト殿下、貴方のおっしゃる『選ぶ』というのは?」
「言葉そのままの意味だ。力の強い王族が選ぶと、選ばれた者は強い力を手に入れる」
「なるほど。つまり嬢ちゃんが誰かを選ぶと、強い力を得る人間が出るってことか。そんでアーサーも協力することにしたのか」
ふむふむなるほどーって、何それ! 選ぶやり方も知らないし、結果お父様を怒らせただけじゃん! ダメじゃん! じゃんじゃん!
「先ほどのフェルザー侯爵を見て気づいた。ユリアーナ嬢は、すでに選んでいるのだと」
「えーっ!?」
お父様を見上げれば、無表情のまま眉間にシワが寄っている。
これはアレかな? よくわからないってやつかな?
「そうかぁ? ランベルトはあれが普通だと思うけどなぁ」
「そうだね。学生時代のほうが遠慮なく建物を壊したりしてたから、今回の氷漬けとか優しいくらいだと思うよ」
え、学生時代のお父様ったら建物を壊すとか……アレですか。窓ガラスを壊したりする反抗期ってやつですか。
お父様の表情は変わらないけど、ちょっと恥ずかしいみたいな気配を感じまする。まぁ、人は誰もが若気の至りってのをやらかしますからね。ドンマイ。
「あれで力を抑えている……だと!?」
「王宮には嬢ちゃんもいたから、無意識でも力を制御できていたんだろ」
虹色の髪をふわんふわん揺らしていたお師匠様は、寝ぐせらしきアホ毛をぴぴんと伸ばす。
「アケト殿下、選ぶ人間っていうのは一人か?」
「いや、その時によって違う。私が選んだのは一人だったが……」
ピンク頭さんも、その『選ぶ』ってやつをしたのね。
ふむふむと頷いていると、お師匠様が衝撃的な言葉を発した。
「それなら、たぶん俺も選ばれてると思う」
一気に部屋の空気が冷たくなる。
お父様、ちょっと寒いですー。
「……すまん」
相変わらず、私の心を読む安定のお父様スキルです。
「落ち着けランベルト、お前もだろう?」
「……もちろんだ」
えーっ!? そうなの!?
いつの間にやら、私は無意識に『選ぶ』っていうのをやっていたってこと!?
「なんかずるい。ふたりとも」
いやいや王様、ずるいとかそういう問題じゃない気がするよ!?
「ランベルトは保護者だし、俺は嬢ちゃんに恩があるし、アーサーには何もないからしょうがないだろ?」
お師匠様は、男くさい笑みを浮かべて私を見る。
うん、そうだね。
私が選ぶとしたら、お父様とお師匠様だと思う。なんとなく。
「それに、俺らは嬢ちゃんの考えが手に取るように分かるからな」
「……なるほど」
「ぴゃっ!?」
そ、それは……すごく恥ずかしいので、勘弁してくださいーっ!!
神様お父様お師匠様ーっ!!
お読みいただき、ありがとうございます。
ピンクイケメンの説明が長くてすみません。
え?隣国の名前がどこかで聞いたような?
たぶん気のせいです!(すっとぼけ)




