15、幼女の解放のちに羞恥
なんとか落ち着くところまで…!
「セバシュ、あっちにいく」
「なりません、お嬢様」
いやいや、あきらかに何かが起こっているでしょ!
「あることないこと、ベルおとうしゃまにいいつける」
「仕方ありませんね」
あれほど申しましたのに、やれやれとセバスさんは肩をすくめてみせた。
いや、そこまで駄々こねてませんけど? それに抱っこしながら肩をすくめてみせるって、なかなか技術がいると思うのですよ。
ボディランゲージ世界選手権で優勝できるレベル。なお、本当にあるかは不明。
綿菓子のように練り上げた魔力を散らしながら、私は小さく息を吐く。
最悪、にゅるりぬるりと抜け出して、ひとりで突撃しようと思っていたのだけど……。
「暴走しそうなお嬢様をお一人にさせるくらいなら、最初から一緒にいるほうがマシですから」
「ぐぬぬー」
私に対して随分な物言いのセバスさんだけど、暴走する気満々だったのを見破られているのが悔しい。
「旦那様が無茶というか、やらかしている予感がするのです」
「よかん?」
会話をしながら、かつ私を抱っこして駈け足するセバスさん。
ふむ。ここまで焦っているセバスさんを見るのは初めてだ。ということは、よほどのことが起こっている……気がする!
ダメだ。
この世界についての勉強も、魔法も、何もかもが不足している幼女には荷がかちすぎる。
「お嬢様、属性付きの結界は?」
「できる。どれ?」
「火です」
「あい。ふぁいあーがーど」
周囲に漂う赤い魔力の綿菓子に、セバスさんと私を守るよう念を込めれば、あら簡単! 日頃お疲れの奥様にうってつけのこの商品!
「ペンドラゴン殿は、優秀な教師なのですね」
「おししょ、これ、できないよ?」
「……優秀な教師ということにしておきましょう」
「あいー」
元気よく手をあげたところで、私は目撃する。
真っ白な景色……いや、廊下の途中から全てが凍っていた。
「お嬢様の結界があっても、かなり冷えますな」
「あんまりやると、もえるからだめ」
「心得ております」
セバスさんは体術が専門だけど、魔法に詳しい。だから私が何を言いたいのかすぐに分かってくれるから助かる。さすセバ。
氷しかないと思っていたら、大きな岩みたいになっている氷の向こう側から、虹色の光が微かに見える。
「おししょー」
「待ってた嬢ちゃん。アレをどうにかしてくれ」
アレとはなんぞ?
首を傾げつつお師匠様のアホ毛がゆらゆら揺れているのを見ていると、それが矢印みたいな形になってクィックイッと指し示す。なんと便利なアホ毛なのか! あとで絶対にやり方を教えてもらおう!
矢印の方向を見れば、お父様がいつも以上の無表情のまま、アイスブルーの色に輝く魔力をお師匠様に向かって放出している。
「どうやら、旦那様は我を忘れておられるようです」
「いつもいじょうに、かおがこわいから?」
「いえ、この距離でお嬢様の気配に気づかないことはございませんから」
「そう?」
こんなにのほほんとセバスさんと話せているのは、もちろんお師匠様がいるからだ。
お父様も肉体派文官ではあれど、魔力が高い。でも、お師匠様はさらに高い魔力を持っている。魔力勝負で押し負けることはない。
「嬢ちゃん、俺、昼飯食ってない」
訂正。
ご飯を食べていないお師匠様は、とてつもなく弱い。これはヤバい状況だ。
よく見たら、お師匠様と一緒に国王様も魔力を抑えようとしているではないか。あともう一人いるピンクの髪は誰だろう?
「とりあえず、ふぁいあーがーど、とんでいけー」
くるくるっと赤い綿菓子を三つ作り、えいやと飛ばす。ジュワッと溶ける氷の岩と、お師匠様含む男三人。ご無事でなにより。
あれ? なんかもう一人いた?
「お嬢様、旦那様を」
「あいー」
セバスさんの抱っこから解放してもらった私は、ぽてぽてとお父様の元へ走って?いく。
途中、乱れ飛ぶ氷の刃の一部がこっちに来ても、火の結界でジュワジュワッと蒸発するから心配することは……
「ベルとうしゃ……まっ!?」
……ない。はずだった。
「ふぎゅっ!!」
ここいら一帯がすべて凍りついているということは、当然床も凍っているわけで。
盛大にすっ転んだ私は、そのままツルツルの廊下をつぃーっと滑っていく。
「……!?」
「みぎゃっ!!」
お父様に向かって見事スライディングした私は、体勢を崩したお父様に思いっきりしがみつく。
転んだ時に打ったおでこがジンジンしてめっちゃ痛い、けど、がまん。
「ベル、とう、しゃま」
「……ユリアーナ?」
胸元にしがみついたまま呼びかければ、お父様は正気に返ったのか戸惑うような表情で私を見る。
とても喜ばしいことではあるが、今の私からしたらそれどころではない。
「ベル、としゃま、おでこ……」
「……何があったユリアーナ、赤くなっているぞ」
「こおり、つるつるして、おでこ、いたい」
「氷……? これは、私が?」
「いたいの、おでこぉ……ふにゃああああああああ!!」
「ユ、ユリアーナ、泣くな、私が悪かった、ああ痛かっただろう」
心はアラサーでも体は幼女、痛みには弱いのです。
いやむしろ、魔力暴走は別として、こんなに痛いと思ったのは前世?ぶりなのです。
慌てふためくお父様は、私を抱き上げると背中をぽんぽんしたり、あやしながらおでこに何度もチュッチュしたりした。
それでも痛いものは痛いし、お父様は暴走していたし、怖かったから無理なのです!
「ふにゃあああああああ!! もっとおおおおおお!!」
「もっとか? 何をだ?」
「もっと、いたいところ、ちゅっちゅしてえええええ!!」
「いくらでもしてやる。ほら、こうか? ここか?」
手やら膝やら何やら、何度も唇を落としてくれるお父様。
これまで塞いでいた幼女ユリアーナのわがままを、ここぞとばかりに開放してやった。
しばらくして泣きやみ、落ち着いた私は周囲の生温かい視線に晒され、盛大に身悶えすることとなる。
なぜかお父様は満足げな顔をしているけど、原因は貴方ですからね! もう!
お読みいただき、ありがとうございます。
暴走お父様を止めるため、ユリアーナはがんばりました。
現場の男性たちは助かったと思います。
ん?男性たち、だけ……??? _(┐「ε:)_




