14、王宮に誘われて
「確かに君の娘はかわいいよ。でも、仕事はやってもらわないと……」
「私の仕事は、本来王宮でなくともできる」
「それはそうだけど、君が意見すると会議の進みが全然違う! 国民たちを待たすことなく、治政を行えるのだよ!」
「だから、それは私ではなく側近らがやることだろう」
「側近たち使えないからって、コテンパンに叩きのめしたのは君だろうランベルト!」
えー、それは王様かわいそう。
お父様に抱っこされたまま王様を見ていたら、なぜか涙目で私をキッと睨む。
「こうなったら、こっちにも考えがある。君の娘を……」
「……ユリアーナを?」
その瞬間、周囲の空気が一気に冷えて王様の顔がみるみる青ざめていく。急な冷え込みに、鼻がむずむず……して……ふぇ……。
「ふぇっくし!」
「!?」
くしゃみする私を抱きかかえたまま、お父様は器用に上着を脱ぐ。そして素早い動きでぐるぐるに包み込まれ、なんということでしょう、すまき幼女の完成です。(匠の技)
ふぉぉあったかい……お父様のいいにおいがする……くんかくんか。
「……まだ寒いか?」
「あったか、ありがと、ベルとうしゃま」
「いやいや、寒い原因はその『ベルとうしゃま』だからね?」
え? そうなの?
お父様を見れば、いつもの無表情だ。でも、どことなく申し訳なさそうにも見える。
「ベルとうしゃま、さむいの、しゅごいの。あついとき、べんり」
「……そうか」
「ぶふぉっ」
どこがツボだったのか、王様は思いきり噴き出している。
いやいや冷たい空気を馬鹿にしたらあかんよ。夏場にすごく重宝されると思うし。
それよりも……。
「ベルとうしゃま」
「なんだ?」
「おうしゃま、かわいそう。おうきゅうで、おしごとしよ?」
「なんて良い子なんだ!」
感動した王様が近づこうとしたけど、私を抱っこしているお父様がさっと身を引いてしまう。
「しかしユリアーナ、屋敷と王宮は離れている。お前に何かあったらどうする?」
いやいやお父様、そうそう何か起こるわけないですよって。
え? 起こらないよね?
「そこで提案だけど、ユリアーナ嬢はペンドラゴン一門の弟子なのだろう? もし良ければ、王宮で魔法を習えるよう場を整えようと思っていたのだよ。それなら親子で王宮に来られるだろうし」
「考えというのはそれか」
「え? 何だと思ったの?」
「……いや」
「王宮の中に君の屋敷もあるんだからさ」
「フェルザー家のものだ」
「同じでしょ?」
そういえば魔力暴走で王宮に運び込まれた時、やたら豪奢な部屋で泊まったっけ。
なんにせよ、お父様と王様の仕事が捗るなら行こうじゃないか。いざ王宮へ。
「おい、場所変えるんなら言えよ! 探しちまっただろが!」
「ごめしゃーい」
「罰として、早口言葉を五十回な!」
「むり、じゅっかい」
「だめだ、三十回」
「んん、にじゅっかい」
「しょうがねぇな」
お師匠様が弟子に対して駄々甘い件。
でも、王宮に移動することはお父様が伝えるべきことだと思う。王様と話し合いしてすぐ連れて来られたからね。伝言する時間とかなかったし。
「セバシュ、でんごんしたとおもう」
「そういや出がけに手紙がきてたな……」
「おししょ……」
呆れ顔の私に、やっちまったと笑うお師匠様。オッサン特有のあざとい可愛さを出してくるのはズルいと思う。
王宮の中にあるフェルザー家の屋敷には、ちゃんと私の部屋があった。
そこでぷりぷり怒っているお師匠様を、お茶とお菓子で宥めているところだ。今日はリンゴたっぷりのタルトタタンです。つい口ずさむタルトタタン。タタンタン。
「それにしても、ランベルトはこの屋敷から王宮に通えばいいのにな」
「まえはそうだったけど、おうしゃまがうるさいから、いやって」
「んー、仕事人間が別のことに目覚めたってやつか」
そう。以前のお父様は基本的に王宮で生活していて、私やお兄様のことは都度報告を受けていたそうな。
だから私が虐待を受けているのを知らなかったとか……まぁ、興味がなかったんだろうね。子どもに。
後継のお兄様のことは、一応目視するようにはしてたとはセバスさんの談だ。目視って……お父様ったら……。
「父親そっくりの息子はともかく、嬢ちゃんに懐かれているのは嬉しいみたいだな」
「ベルとうしゃま?」
「そうだ。ああ見えて寂しがり屋だから、たくさん構ってやれよ」
「あい」
「それと、嬢ちゃんは文字を読めるんだろ? 俺がいない時は、王宮内の書庫にある魔法書を読んでおけよ」
「あい。おししょ、どっかいく?」
「今日は王宮にいる師匠に呼ばれているんだ。えーっと……」
「書庫への案内はセバスにお任せを」
いつの間にか後ろにセバスさんがいた。気配を感じさせないその動き、まるで忍者みたいだね。さすセバ。
ところで……いつからいたの?
「旦那様のところには部下のマリク殿がいますから、お嬢様につくよう言われたのですよ」
「アンタも大概だな。んじゃ、護衛とか色々頼む。嬢ちゃんまたなー」
「おししょ、またね」
笑顔でひらひらと手を振ったお師匠様は、虹色の髪を揺らして部屋を出て行く。
そっか。王宮にいる宮廷魔法使いのペンドラゴン(白髭のおじいちゃん)は、ペンドラゴン(鳥オッサン)のお師匠様だもんね。
ん? ちょっとまてよ?
「きょう、まほうのおべんきょ、ないひだった?」
「お嬢様、気づくのが遅うございます」
「だまされたー」
早口言葉の罰とか、しなくてよかったやつじゃないか。まだしてないけど。
「ふふ、書庫に行かれますか?」
「あい」
部屋を出て、渡り廊下をぽてぽて歩く私。
そして途中でセバスさんに抱っこしてもらう私。
……広いのよ。王宮ってやつは、無駄に広いのよ。
「お嬢様、少々遠回りをします」
「あい」
突然セバスさんは回れ右をしたので、抱っこされている私が後ろを見ることになる。
すると遠くで揉めているような雰囲気の人達が、チラッとだけ見えた。セバスさんが廊下を曲がったから、誰なのかは分からなかったけど……。
「ベルおとうしゃま?」
一瞬だけ見えた銀色。あれはたぶん、お父様の色だと思う。
私の呟きを聞いたセバスさんの抱っこしている手が、かすかに震えていた。
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