12、侯爵様の特殊能力
前話の最後、分かりづらいので少し修正です。
流れは変わってないです。
ぶわっと広がる不安感で、体が震えている。
早く思い出して、お師匠様に伝えないと!
私が考えた設定で、お師匠様の奥さん……神鳥の一族が、どうなっていたのかを!
「おししょ、とり、とりしゃ!」
「そうだぞぉ、俺の奥さんは鳥の姿にもなれるんだ。真っ白で綺麗でなぁ」
あー!もう、そうじゃなくってー!
一度自覚した不安は、そう簡単に消えてくれない。むしろどんどん広がってしまう。
目に盛り上がった透明な水はみるみる溢れ、ポロポロと落ちていくのを止められない。
「うう……」
「ど、どうした嬢ちゃん!?」
「いやなの、とりしゃ、あぶにゃいのぉ……」
「わぁー!? 待て、泣くな嬢ちゃん!! ランベルトに殺されるから!!」
「うぐ、ふぇ、ふにゃぁぁぁぁぁ」
「くっ、かわいすぎ……じゃねぇ、頼むから泣き止んでくれよぉ」
あかん。詰んだ。
幼児特有の「えづき泣きモード」に入ってしもうた。
普段はそれなりに、お師匠様と会話のキャッチボールができていたのに、ただでさえ長文を話せないユリアーナの発育不良の体は、ちょっとしたことでぐずぐずになってしまう。
お師匠様の奥さんが無事ならそれでいいんだよ。ただ確認したいそれだけなのに、ああもうどうしたらー!!
「……ユリアーナ」
「ふにゃっ!?」
急に空気が冷んやりしたと思ったら、しっかりと鍛えられた腕の筋肉にお腹まわりを包まれる。
高くなる視界に驚いて、思わずいい匂いのする分厚い胸板にしがみついた。
「なぜ、泣いている?」
「ベル、としゃまぁ……」
えぐえぐと呼吸が整わないのは、溢れる涙と鼻水のせいだ。まったく表情を変えることなく、綺麗なハンカチで優しく丁寧に拭ってくれるお父様に、胸がいっぱいになってさらに涙が溢れてしまう。
「ふにゃぁぁぁぁ」
「……ペンドラゴン」
「悪い! 俺の奥さんの話をしたら、急に泣き出しちまって……」
「二度はない」
「わかってる」
「しかし、これもいい」
「わかる」
お父様とお師匠様がやり取りしている間に、さっきまで冷えていた空気は元に戻っていた。泣いている私を落ち着かせるよう、お父様がぽんぽんと背中を叩いてくれる。
このぽんぽんは、とてもよきものだ。幼児全般が心地よくなって寝てしまうぽんぽん……いやいや寝たらダメだ! 私にはお師匠様に伝えることがある!
深呼吸。すってー、はいてー。
「ベルとうしゃま、おししょに、いいたい」
「何をだ?」
「おししょの、とりしゃ、いやなの。だから、みてみて」
ぐぬぬ語彙力!! もうちょい、どうにかならんのか!!
ユリアーナの精神が不安定になっているからか、うまく言葉が出せない。どうしよう。
「ふむ。ペンドラゴンの奥方について嫌な予感がするから、様子を見てきてほしいと言いたいのか?」
「そうでしゅ!」
「え、俺の奥さんが? つか、それよりもランベルト、お前よく嬢ちゃんの言いたいことをアレだけで理解できたな!?」
ほんとそれ。お父様は特殊能力でも持っているのか。
「ユリアーナが怯えているのが分かる。体も震えているし、少し熱も出ているようだ。お前の奥方と会ったこともないのに、何かを訴えようとしているだろう?」
「お、おう、そうか? とりあえず連絡をとってみるわ」
そう言ってお師匠様が取り出したのは、小さな四角いタイルみたいなものだ。それを指先で何かをしている様子は……スマホ? スマホなの?
「ちっ、つながらねぇ。息子にかけてみるか」
するとフワッとお師匠様の手が光って、声が聞こえてくる。おお、本当にスマホみたい。
『父さん、何かありましたか?』
「おう息子。奥さんとつながらないんだけど、今どこにいるのか分かるか?」
『ご近所の奥様方とお茶会かと……。邪魔したらダメですよ』
「なんで奥さんは俺に予定教えてくれないのかなぁ」
『だから、邪魔するからですよ。それより母さんに何かありましたか?』
「俺にもよくわからねぇが、ランベルトのとこの嬢ちゃんが気にしててなぁ」
『ヨハンの妹君が?』
おや? お師匠様の息子さんは、お兄様を知っているのかな?
「ペンドラゴンの息子は、ヨハンと同じ学園に通っている」
なるほどー。それにしても、この会話できる道具って……。
「この会話できる魔道具は、ペンドラゴン独自のものだ。私を含め、限られた人間しか持っていない」
なるほどー。
首をかしげた私に気づいたお父様がスマートに解説してくれる。てゆかお父様、本当に特殊能力があるんじゃないの?
通話を切ったお師匠様は、一気に顔を険しくさせる。
「ちょっと席を外させてもらうわー」
「手は?」
「足りる」
そう言うと空中に何かを描くように指先を動かすと、お師匠様の足元に光り輝く虹色の魔法陣が現れる。
そして数十秒後、遠くから大きな爆発音が何度か聞こえてきた。
何事もなかったかのように、お茶をいれてくれるセバスさん。
東屋は、引き続きお茶の時間となっている。
そして私は椅子ではなく、恐れ多くもお父様の逞しい太腿の上に座っている。
「もう、泣かないのか?」
「あい」
「……そうか」
今日の私はダメダメだった。
あそこまで不様に泣くとは、いくら幼女とはいえレディとしてよろしくない。
気合を入れる私が顔を上げると、美しく整ったお父様のお顔が少しだけ寂しそうに見える。
「ベルとうしゃま?」
「お嬢様、旦那様はもっと泣いてもいいと思ってらっしゃるのですよ」
「ないて、いいの?」
「子どもというものは、たくさん感情を表に出すものです。泣いたり、笑ったり、たくさんしてこそ成長できるのですよ」
「せいちょう……」
「それに、お嬢様の泣きかたがお可愛らしく、旦那様がたいそう気に入ってらっしゃるようで……」
「セバス」
「失礼いたしました」
口元に笑みを残しながら、セバスさんは優雅に一礼してみせた。
その日の夕方。
お師匠様の奥さんが無事だったことと、希少種の獣人を拐って人身売買をしている組織が一斉摘発されたらしいと、お父様にお師匠様がしれっと報告していた。
あの爆発音は、やはりお師匠様だったのですね。
「嬢ちゃんには感謝だ。うちの奥さんだけじゃなく、神鳥一族みたいな他の希少種まで被害にあうところだった」
「ほかのひと、ぶじ?」
「おう。捕まってた獣人たちは無事だったぞ」
「よかった」
「ああいうのは壊滅させても、また出てくるからな……定期的に始末しねぇと」
まるでG虫のように言っているね。
うん。害虫は定期的に駆除したほうがいいと思う。
「ペンドラゴン、その話はここまでだ」
「へいへい。ちょっと見ねぇ間に、すっかり過保護になっちまって」
そういえば、王宮にいたはずのお父様が、気づいたらお屋敷に帰っていたのは何でだろう?
「また、移動の魔法陣を頼む」
「おい、王族だって滅多に使わない移動の魔法陣だぞ? 緊急用だからって描いたのに……まぁ、今日は助かったけどな」
「ならば文句を言うな」
「へいへい」
お父様、王族並みのことやらかしてるのか……。
ふと横を見れば、セバスさんも何とも言えない表情でお父様を見ている。
まぁ、いいかな。
お父様からの嫌われルート回避は、いい感じにできているみたいだからね!
お読みいただき、ありがとうございます。
書きためはここまで、次回から更新ゆっくりになるかもです。
よろしくお願いいたします。




