11、幼女は正しく呼びたい
ブックマークや評価、そして『しりてん』を愛でていただき
ありがとうございます!
お兄様に慰められているのを、セバスさんになんともいえない表情で見守られた翌日。
出勤前のお父様に、ひと晩しっかりと寝て考えた呼び方をしてみる。
「ラン、ベルト、おと、しゃま」
「……それは、なんだ?」
「あう……」
「ユリアーナお嬢様は、旦那様を『正しく』呼びたいようです」
なんだ?と言われましても……と眉を八の字にしていると、セバスさんから助け舟が出された。さすセバ。
いやほら、お父様の『色』を引き継いでいない私が、馴れ馴れしく「お父様」なんて呼んだら怒られるかなって。
名前と敬称?を合わせれば、なんとなくいい感じになるかなと思ったのですよ。
好感度アップからの、嫌われルート回避を目指しますぞ!
「ランベウ、と、しゃま」
ぐぬぬ、同じ音が重なると、噛む確率が爆上がりだちくしょう。
「……ベル、と呼べばいい」
「ベル、とうしゃま?」
「んんっ……そうだ。それでいい」
「ベルとうしゃま! いってらっしゃいませ!」
ちょっと甘噛みしてるけど、なんとか言えたぞと満面の笑みでお見送りする私を、無言で抱き上げたまま馬車に乗ろうとしたお父様。
お父様ダメですよー。お師匠様がもうすぐ来るので、一緒には行けないのですよー。
セバスさんが慌てて回収してくれました。
意外とお茶目なお父様です。いつもお手数おかけしてすみません。セバスさん。
フワフワ漂う、赤いのをそっとつまんで指に巻きつける。
「ふぁいやー」
ぼふんと大きな炎が出て、師匠が指先でそれを消してしまう。
「こらっ! 俺は小さい火を出せって言っただろが!」
「ごめしゃいー」
「あとその『ふぁいやー』っつーのは何だ?」
「きあい」
「だーかーら! 小さいの出すのに気合い入れんな!」
ぐぬぬ。だって魔法で大きな炎とか、火炎噴射器みたいなのを出したら格好いいじゃまいか。
ならば……と、青く漂う魔力を小さな手でむんずと掴む。
「うぉーらー!」
「つめたっ!? ゴラァ何すんだ嬢ちゃん!!」
「ふぉぉ、鳥しゃ、やせた!?」
「痩せてねぇよ! 濡れたんだ!」
「ごめしゃいー」
お師匠様のローブに付けている羽毛が、水に濡れてぺっそりしてしまった。
庭の花壇に水をまこうと思っていたのに、まとめてお師匠にかけてしまうとは……申し訳なくて落ち込んでしまう。
すると水に濡れた虹色の髪を掻きあげ、男臭くニヤリと笑うお師匠様。
「水もしたたるイイ男、だろ?」
「おししょ、いいおとこー」
「惚れんなよ?」
「はい! おししょ!」
「そこはしっかり返事するなよ……」
がっくりとうな垂れるお師匠様が、なんだか可愛くて面白い。
クスクス笑っていたら、セバスさんがお茶の時間だと呼びに来てくれた。
「お、今日の茶菓子は何だろうなぁ」
「ふわふわ! おししょ!」
気づけば、さっきまで水に濡れていたお師匠様のローブはフワッとしている。いつの間に乾かしたんだろう? 魔法?
「魔法じゃねぇよ。うちの奥さんの羽根は特別なんだ」
「おくしゃ!?」
え、何それ? 奥さんの羽根って何なの? 剥いたの?
「うちの奥さんは獣人っていう種族なんだが、神鳥と呼ばれる一族なんだ。数年に一度くる換毛期の羽毛でローブを作った」
「いたくない?」
「もちろんだ。自然と抜ける羽毛だけをもらった……てゆか、押しつけられた。神鳥の羽根は高い防御力があって、水や汚れに強い」
私は気づいてしまった。
奥さんのことを話しているお師匠様は、とても優しい目をしている。きっとすごく愛しているんだなぁって、幼女に丸わかりするくらいだ。
それなのに私ったら……。
「ごめしゃい、おししょ、おみずかけて」
「んー? 気にすんなって。うちの奥さんなら、嬢ちゃんに何されても怒ったりしないぞ」
「やさし?」
「おう! 優しいぞ! ……いや、俺にだけは厳しいか?」
うむ! きっとこの鳥オッサンは、ろくな事をしていないのだろうな!
セバスさんの用意してくれたおいしいロールケーキを頬張りながら、お師匠様の奥さんについて思いを馳せる。
それにしても、私の作品に出てくる『宮廷魔法使いペンドラゴン』は、長い髭のお爺さんだった。
聞いたところ、お師匠様はお父様と学生時代を共に過ごしたらしい。そこには王様もいて、懇意にしている理由のひとつなのだろうと理解した。
私が『無口美少女魔法使い』のユリアーナであるのは明確だけど、お師匠様は一体どこで登場したのだろう?
「どうした嬢ちゃん。疲れたか?」
「いえ、おししょは、ベルとうしゃまと、なかよしって」
「そうだな。仲良しなのかは分からねぇけど、俺は親友だと思っている」
オッサンになっても、男同士の友情は素晴らしく、よきものである。
でも私の作品で、こんなにイケメン・イケオジが満載の作品だったのか、はなはだ疑問だ。
お父様の友達って、お師匠様くらいだよなぁと思い至ったところで気づく。
冒険者になったユリアーナを、不義の子だと氷の魔法で滅しようとする美丈夫。
彼の隣には、血の色に染まった羽根を身に纏う、不思議な髪色の男がいた。
「あれ?」
「どうした嬢ちゃん?」
心配そうに私を見ているお師匠様。でもそれがあのイラストの男と一緒なのか、まったく結びつかない。
それでも「獣人の妻」を持つ「才能ある魔法使いの男」が「血の色に染まった羽根」を身につけている理由。
物語どおり……いや、設定どおりになるのかは分からないけれど、今、私はものすごく嫌な予感がしている。
「おししょ、すぐ、いこう」
「あ? なんでだ?」
「お嬢様、出られるのであればお供しましょう」
私について一番よく知ってくれているセバスさんが、ただならぬ空気を察してくれている。
ありがとう、さすセバ。
「おししょ、おくさん、きけん」
「は?」
「ペンドラゴン様、お嬢様のおっしゃるようにお願いいたします」
「すぐいく! いそぐ!」
「どういうことだよ?」
のんびり首を傾げているお師匠様。セバスさんも私のことを後押ししてくれるけど、いまいちうまく伝わらない。
嫌な予感が、ジワジワからバシャバシャになって噴き出してくる。
私の考えた設定だと、冒険者のユリアーナがお師匠様らしき人と出会った時、彼は天涯孤独の身だった。
ただ悪役として登場する彼に、愛するものという存在はなかったはず、なのだ。
お読みいただき、ありがとうございます。




