125、幼女は魔力をどうにかしたい?
(あとがきにお知らせあります)
屋台では甘味だけではなく、ファンタジーの王道グルメと名高い(?)串焼きの肉もある。
今世はご令嬢だから遠慮しようと思ったら、お父様があっさり許してくれた。だがしかし! セバスさんが微妙な表情をしている!
「お嬢様は日頃から淑女として頑張ってらっしゃいますから、今日に限ってはよろしいかと」
「ユリア、今日だけだ」
そう言ってくれるお父様だけど、「この調子なら明日も許しそうだよな」などという呟きが聞こえてくるような……幻聴?
ビアン国で、肉といえば羊肉なんだって。
前世の私は羊の肉はわりと好きだったけど、フェルザー家ではあまり出ないんだよね。普段は牛か豚あたりか、お父様が高タンパクな肉を好むので鶏肉や鹿肉も頻繁に出てきたりする。
うむ! さすがお父様! 筋肉に対してのポテンシャルがお高い!
「これください!」
「おっ、元気でかわいい天使みたいなお嬢ちゃんにはオマケしてあげよう!」
「わーい!」
串焼き肉を売るおっちゃんにほめられて、ウキウキの幼女でございます。
お屋敷の人たちもほめてくれるけど、こういう時にオマケしてもらえるのって特別感あるよね。
「うむ。ユリアが天使であることに気づくとは、この店主なかなか見どころがあるな……セバス」
「かしこまりました」
いったい何をかしこまったのかセバスさん。
でも何かしら、このお店のおっちゃんに良い事が起こると思う。たぶん。
さすがに道を歩きながら食べることは許されず、うっかり転んで串が刺さるとか恐ろしい注意をされたので、優雅にお父様抱っこで串焼きをいただきます。
お肉にかかったタレが少し焦げているのもおいしい! 甘辛いタレと、後からかかったスパイスが食欲を増して……増して……辛さも増して……。
砂漠の地域特有の、かなりスパイシーな味付けは幼女には刺激が強すぎたもよう。残念ながらギブアップぐぬぬ。
「ユリア、無理をするな」
「ううっ、のこひて、ごめんひゃい」
噛んではいないですよ! 辛くて舌がヒリヒリしているだけです!
そっとセバスさんが甘いジュース(ヨーグルトっぽいもの)を飲ませてくれる。うう、辛いよぉ……。
残すのが申し訳なくて落ち込んでいると、お父様が優しい声で申し出てくれた。
「大丈夫だ。あとは私がいただこう」
「ありがとございます! ベルとうさま!」
「しかし私の両手は塞がっている。ユリアが食べさせてくれるか?」
「あい!」
元気いっぱい返事をしたものの、お父様の美しいご尊顔を目の前にタレのついた串焼き肉を差し出す行為……な、なんか、大丈夫かな? 刺激が強すぎない?
「お嬢様、こう見えて旦那様は冒険者としてもご活躍されておりました。この程度のことは『よくあること』でございます」
私の戸惑いをセバスさんがそっと拾ってくれたけど、この流れだと幼女に食べさせてもらうことが日常みたいに聞こえちゃうよ?
「ユリアと私の間では、よくあることだろう?」
確かに、お屋敷では頻繁に「あーん」をしてもらっている。
いやでもそれとこれとは違うような気がするのですが!?
「私を甘やかすことができるのは、お前だけだな。ユリア」
「ふぇっ!?」
やたら甘い言葉を発するお父様がおりますよっ!?
もしや、砂漠の熱い気候とお祭りの熱気にやられたとかっ!?
熱気といえば、さっきの神官さん達の……。
「お嬢様、串焼きが冷めてしまいますよ」
おっといけない。
では、お肉がひとつ少ない串ですが……。
「あい、ベルとうさま、あーん」
「うむ」
抱っこされているせいで、こんなにも近くでお父様が食べているのを鑑賞できるとは!!
これはまさに砂かぶり席ならぬ、氷かぶり席ですね!?(絶賛動揺中)
幸い(?)おっちゃんの腕がよかったのか、お肉は柔らかくて幼女でも噛み切れる感じだった。
よかった。危なかった。幼女が食べかけのお肉とか、お父様に渡すわけにはいかないもんね。
宮殿に戻ると、お師匠様が出迎えてくれた。
鳥の奥様は先に休んでいるとのことだ……って、あれ? 今日は宿をとってるとか言ってなかったっけ?
「例の施設の件もあるが、嬢ちゃんのことについての仮説もまとまった。聞くか?」
「セバス」
「かしこまりました」
お父様の呼びかけひとつで、ささっと来客スペースにお茶の準備をしてくれるセバスさん。
しかし私の頭には、たくさんの「?」が飛んでおりまして。
「おししょ、わたしのことも、しらべてくれたの?」
「むしろ嬢ちゃんの事を中心に調べていたぞ? 例の施設よりも大事だってランベルトが言ってたからな」
「この国よりもユリアを優先させた」
いやいや、あの施設はビアン国だけじゃなく、世界に影響するようなもので……。
そう思いながらも、顔は勝手にニヨニヨしちゃいますな。お父様の甘やかしは日々進化しているので油断大敵でござる。ニヨニヨ。
「あー、侯爵サマ? 俺たちも一緒に聞いていていいのか、ですか?」
「ユリちゃんの事は心配ですけど、フェルザー家のことでしたら席を外します」
オルフェウス君とティアが気をつかってくれている。しかし幼女は二人にすっかり心を許しておりますからね。
「ユリア?」
「だいじょうぶです!」
今の二人は友人であり仲間で、物語の中でも幼女にとっての支えだったからね!
私にお任せって感じのお父様に頷いてみせると、お師匠様は「そうか。よかったな」と言ってくれた。
そう、今の私には信用信頼できる仲間がいるのだ。
「じゃあ、俺の仮説は二つある。嬢ちゃんが伸びた……というか、成長した理由についてだ」
お師匠様が人差し指を立ててみせる。
「嬢ちゃんの成長が、嬢ちゃん自身の魔力の有無が鍵になっているのは分かるか?」
「あい!」
それはしっかり予想できておりましたよ。
なぜなら、魔力を吸われる魔道具に触れた後に、私の体が成長したのだから。
「仮説ひとつ目は、単純に嬢ちゃんの体の成長を魔力が阻害している」
魔力がたくさんあるのが影響しているってことね。ほむほむ。
頷く私に、お師匠様が立てている指を一本増やす。
「仮説ふたつ目は、阻害している魔力は嬢ちゃん自身が発動させているんじゃないかってことだ」
ほむほむ。私の魔力は私が発動させているという単純なことで……って、私!?
なんで!?!?!?
【お知らせです】
この度、TOブックス様に
『氷の侯爵様に甘やかされたいっ!~シリアス展開しかない幼女に転生してしまった私の奮闘記〜』
特設サイトがオープンしました!
わぁい!
幼女の快挙でございますよ!
さらになんと!!
ドラマCDも制作していただけるとのことd……
……ちょ、待てよ。
どのシーンを?
いやまさか……???
……。(深呼吸)
諸々、鋭意制作中でございます!!
お楽しみに!!
そして小説6巻とコミック4巻は、6/15発売です!!
お見逃しなくぅ!!!!




