9、魔法は考えるな。感じるがまま適当に
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前世の記憶?を得てから、不思議に思っていた。
なぜ私は魔力暴走の時に「自作の小説の世界に転生した」と確信していたのか。
だって生まれてからのユリアーナの記憶は、ほとんどが部屋の中だ。
話す相手といえば時々やってくる気まぐれな母親と、ドア越しに食べ物を差し入れてくれるマーサくらいだった。だからこの世界のことは分からないはずなんだ。
それなのに、なぜ私はこの世界のことを「知る」ことができたのか。
「俺の師匠曰く『魔法とは理論であり、計算の上で成り立つものであり、必ず答えが出るものである』ってことらしい」
「ふむふむ」
お茶の時間をまったりすごしていたら、いつの間にか昼食の時間になだれこみ、スープとサンドイッチが並べられている。
そのひとつ(中身はチキンとバジルとトマト)を、お師匠様はひと切れつまんでモキュモキュ頬張ると、ぷるりと体を震わせる。
「さすが侯爵家! さっきのスコーンといいハズレがないぜ!」
「たまごのも、すきです」
マヨネーズたっぷりの卵サンドではない。粒マスタードとハムとスクランブルエッグのサンドイッチを頬張る私は、そこはかとなく漂うオシャンティな侯爵家の食事にメロメロだ。
調味料たっぷりなのは苦手なのです。調味料とは、あくまでも素材の味を引き立てるためにあるものだ。どっかの貴族みたいにボリボリ胡椒を食べたりするものではない。
「卵のやつも美味そうだな……じゃなくて、魔法のことだな。師匠は理論派だが、俺は感覚派だ」
なんということでしょう。
魔法の話をしていたはずが、唐突に『小説の書き方講座・初級編』みたいな様相を呈してきましたよ。
「まほう、りろん?」
「師匠の魔法は魔力の数値や出力、それらにともなう結果をありとあらゆる状況で発動させて、その情報をまとめたものを呪文や魔法陣で発動させる方法をとっている」
「まほう、かんかく?」
「俺の魔法は、自分で結果をイメージしてから、そこらにある魔力を適当に『つまんでこねて投げる』やつだ」
「つまんでこねてなげる……」
「そうだ。たまにちょっと叩いて空気抜く感じだな」
「たたく……」
なにそのハンバーグ。
手ごねしてる場合じゃないっつの。何グラムだっつの。
「魔法の理論を学ぶことも大事だけどな。俺みたいに感覚で魔法を使っている人間がいることも知って欲しかった。なんとなく嬢ちゃんはこっちの方が向いてそうだし」
「ありがと、ござましゅ」
そもそも長文も話せないしデフォで噛むから、魔法を呪文で発動させるとか勘弁だわぁ。
この小さなおててで頑張ってハンバーグこねてる方が建設的な気がしますよ。
あ、ハンバーグじゃなくて魔法ね、魔法。
「それに魔力が感じられるってことは、この世界がどういうものか、ある程度分かっているんだろう? 俺には隠さなくてもいいぞ」
「へ?」
「人によって違うけどな、魔力暴走した奴らは何かしら特殊な能力を得ていた。世界の真理を知った者もいるという」
「……」
何も言えなくなった私を、お師匠様はフワフワな羽毛のローブで包むように抱きしめてくれる。モッファーとしたぬくもりが脳を蕩けさせてゆく……。
「いつか、話したくなったら話してくれればいい」
「あい」
虹色の髪でタレ目の派手なオッサン。それだけだと思っていたお師匠様は、理論と感覚で魔法をあやつる『派手だけど出来るオッサン』だったらしい。たぶん。
「さて、魔力を見る練習だ。赤は火、青は水、黄色は土、緑は風」
お師匠様の言葉を受けて、辺りをふんわり漂う湯気みたいな魔力を見てみることにする。たまに見える靄みたいな空間に対して、なんとなくピントを合わせてみる。
視力の弱い人が、ギュッと目をすがめる感じかな?
「さっきのしろいのは?」
「白っつーのは属性がない。魔力でもあるが、肉体を鍛えることによって持つ『気』の力だ」
なるほど。セバスさんは『気』の力でお師匠様に攻撃を繰り出していた……と。
それにしても、お師匠は大事なことをペラペラと話していくから、メモをとりたいけど紙もペンも無いから悲しい。
ふと体を起こして周りを見渡せば、セバスさんがなにやらメモをとっている。
「セバシュ?」
「旦那様への報告もありますので、講義の内容は記録しておきます。後で写しをお渡ししましょうか?」
「ほしい。ありがと」
へらりと笑えば、セバスさんが頬をゆるめて優雅に一礼してくれた。
するとお師匠様の大きな手でほっぺをムニュッとされた私は、強引に顔を向けさせられる。
「こーら、俺が話してる時はよそ見すんな」
「うにゅんしゃい」
もちもちほっぺをムニュムニュされながら、ごめんなさいと謝る私。するとお師匠は大きなため息を吐き、テーブルに突っ伏してしまう。
「あー、くそ……」
「ペンドラゴン様、お言葉は丁寧にお願いいたします」
「わぁってる……」
そうだよね。仮にもご令嬢と会話をしているんだから、言葉遣いには注意しないと。
……もちろん私もだけどさ。
「おししょ?」
「は?」
「ぺんどりゃ……むずかし、だから、おししょ」
「あ、ああ、それでいい。嬢ちゃんは俺の弟子だからな。それでいい」
なぜか目尻を赤くして挙動不審になる鳥お師匠様。動くたびに羽根がフワフワと揺れるもんだから、かなり鳥っぽい感じになっている。ちょっとかわいい。
「ペンドラゴン様」
「だから、わぁってるって」
「えと?」
咎めるようなセバスの声に、虹色の頭をわしわしと掻いたお師匠様。いまいち状況が掴めていない私を見て苦笑すると、優しく頭を撫でてくれた。
「俺んとこには息子がひとりいるが、もうひとりくらいは大丈夫だ。何かあれば頼ってくれていいからな」
「わかりました……?」
よくわからないけど、鳥オッサンは味方のようです。
セバスさんが満足げに頷いているから、夜にお父様からご褒美がもらえるかも?
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