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93、過ぎたる甘味はお呼びじゃない幼女


 お父様は予定通り、夕方に帰ってきた。

 いざ突撃だーっ! と思ったら、マーサたちに行く手を阻まれてしまう。


「旦那様は、お客様と共に戻られております」


「おきゃくさま?」


「お着替えを」


 えっと、服を変える必要があるってことは、そのお客様と食事を一緒するってことかしら?

 むむ、お父様め、うまく逃げたな。


 ちょっと綺麗め(貴族目線で)のワンピースドレスに着替えた私は、ぽてぽてと食堂へ向かう。

 ふふん、成長した私は抱っこじゃなく、自分の足でお屋敷ないを移動できるようになったのですよ。


「おとうさま、おかえりなさいませ」


「……うむ」


「お嬢サマ、久しぶりだなー……イテッ、ご無沙汰しております!」


 セバスさん(たぶん)から何か攻撃をくらいつつ、お客様は私に挨拶してくれる。

 切長の青い目に黒髪の青年、お客様は我らの主人公オルフェウス君だったよ! 

 わーい! 久しぶりだねー!


「オルさまは、どうしてベルとうさまと?」


「この者に護衛の依頼をした」


 なるほど。自国の兵を動かしたり国境をこえたりするのは、さすがに障りがあるよね。

 そこをすり抜けることができるのは、冒険者や傭兵という職業の人たちだったりする。


「侯爵サマたっての頼みだからな。金払いもいいし……イテッ」


 またしてもセバスさん(たぶん)から攻撃をくらってるオルフェウス君。

 彼が丁寧な口調だと変な感じだから、そこは気にしなくていいですよセバスさん。

 目で合図すると一礼してたけど「渋々」って感じだった。そういえばオルフェウス君の教育係だったなセバスさん。(戦闘訓練も含む)


「今日は来てないがティアも一緒の予定だぞ」


「やったぁ! ありがとうベルとうさま!」


 女友達と一緒なら安心だし嬉しい。でも滞在中は……。


「セバスもつける」


「セバシュも?」


 こてりと首を傾げる私。

 なぜならセバスさんがお屋敷に居ないと、お父様のお仕事が大変なことになるからだ。

 王宮ではマリクさん、お屋敷や領地の関係はセバスさんが担当している現状で、お兄様がお手伝いしたとしても仕事が回らなくなると思うのよ。


 そしてセバスさんが同行すると聞いて、顔色が悪くなるオルフェウスくん可哀想。

 でも同行するしない関わらず、出発までガッツリ仕込まれると思う。お作法とか礼儀とか、とかとか。


 セバスさんは「戦闘職ではない付き人」として一緒に行動出来るみたい。本当は戦えるけれど、そこは法の網をすり抜けるってやつだ。

 オルフェウス君みたいな冒険者や傭兵などは、どこの国にも属さないため国の行き来は自由にできる。でも特別なことがない限り王宮などには入れない。

 あくまでも護衛として行動するらしいけど、私がビアン国に滞在中は現地で遺跡巡りとかするんだって。いいなぁ、ちょっと楽しそう。

 知り合いが近くにいるって心強いから、一緒に行動できなくても嬉しい。お父様グッジョブです。


 一応お客様であるオルフェウス君に合わせたのか、お肉メインのボリューミーな食事が終わり、食後のティータイムとなる。

 そこで今日アデリナ様から習ったことを、私は頑張って思い出しながら報告する。


 ビアン国は、砂漠の中にあるオアシスから始まった商業の国。

 国と国とをつなぐ道の中間にあるため、物の流通や売買の場になっているのが特徴。

 有力者達の莫大な財産によって食料品のほとんどは輸入に頼っている。砂漠という気候もあるため食料自給率は低い。

 どこの国よりも法を守ることを厳しく求められており、罪を犯せば身分例外なく処罰される。

 そして、この国では「血筋」よりも「金」が尊ばれる……などなど。

 

「ユリア……」


「あい、ベルとうさま」


「ユリアと離れることは、とても辛い。しかし、これもすべてお前を守るためだ」


「あい、ベルとうさま」


「誰が何と言おうと、ユリアはフェルザー家の娘だ。だから強くならねば」


「あい、ベルとうさま」


 お父様の横に控えているセバスさん、そして静かにお茶を飲んでいるオルフェウス君。二人の目は、どこか遠くを見ているようだ。

 もちろん私も彼らとまったく同じ目をしている。(そっと目もとをハンカチで押さえているマーサは置いておくとして)


「この国を出れば、甘えは許されぬ。心するのだぞ」


「あい、ベルとうさま」


 お父様の言ってる言葉は正しいけど、いかんせんお膝抱っこプラス頭なでなでされている現状を鑑みると説得力皆無ではなかろうか。


 ところで、なぜアデリナ様は私に色々と教えようとしてくださるのか。

 じっとりとした目で見上げると、珍しく困ったような表情をするお父様。


「かの国にユリアが行くことになると聞いた公爵殿が、気遣ってくれたのだが……嫌だったか?」


「いやではないです」


「彼女には何の感情も無い。私にとって愛しい存在はユリアだけだ」


「でも……アデリナさまを……」


「お前のためだと思ったのだ。それに、私が不在の時だけ来させるようにしてある。それならばいいだろう?」


「むぅ……」


 ちょっぴり複雑な気持ちを抑えようとしたのに、どうもうまくいかない。

 自然と膨らんでしまう頬っぺたを、お父様は優しく撫でてくれた。


「ユリア」


 耳元で甘く切なげに囁かれたら、幼女の身とはいえ何かがヤバい気がしますお父様!

 わかりました! わかりましたよー!

 機嫌を直しますから、その色気を引っ込めてくださいお父様! 可及的速やかに!


「痴話喧嘩なのか知らんけど、桶いっぱいの蜂蜜を無理やり飲まされた気分になったぞ……」


「まだまだ修行が足りませんね。この程度、序の口でございますよ」


「うわぁ……」


 マジかーって目で私を見ないでください!

 これは愛! 私とお父様は愛で繋がっているのですよ!


「これ以上の時は、苦味の強い茶葉など常備することをおすすめいたします。」


「俺も今度から持ってこよう……」


 え、そんなに!?

 

 

お読みいただき、ありがとうございます。


いよいよ発売日が近づいてまいりました。

「氷の侯爵様に甘やかされたいっ!~シリアス展開しかない幼女に転生してしまった私の奮闘記〜」

来週1月20日です。

皆様、応援よろしくお願いいたしまっする…!

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氷の侯爵様は、ロリコン?幼女趣味?((( ;゜Д゜)))
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