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ネクロマンサ➞シ ーゾンビの主ー

作者: 灯台デモ暮らし

ある村に、ローレルという女性が住んでいました。彼女の母親はその村で有名なネクロマンサーでした。死者を操り、死者と会話ができるというのです。

 彼女の母親は、村に必要な存在でした。突然死した村人の家族が、死んでしまった人間と最後のお別れをするときに、彼女の能力は使われます。

 しかし、ローレルが一八歳になったとき、彼女の母親は死んでしまいました。そして彼女がその村の二代目ネクロマンサーとなったのです。

 彼女は母親よりも優秀なネクロマンサーでした。死者の腐敗を防ぐための防腐術に、死者が命令に背かないようにする勅命札、更には損傷部分を癒す治癒術まで。彼女は様々なものを生み出しました。

 日々の研究により、ローレルは誰よりも素晴らしい降霊術の使い手になりました。

 そんなある日、彼女は村の人が何事かを話しているのを耳にしてしまいました。どうやら彼らは日々死者の研究をしているローレルを気味悪がって、殺そうとしているそうなのです。聞けば、ローレルの母親も、彼らが気味悪がって、殺したそうなのです。

 ローレルは悲しみました。村のためだと思って、好きでもない死者の研究に明け暮れていたのに、死者の研究がかえって、村の人々を怖がらせていたのです。

 それに母親のこともそうです。ローレルが死者の研究をしているうちに、不自然な点が見つかりました。遺体の具合から母親はどうやら毒殺されたように見えたのです。

 ですが、気付かないふりをしていました。まさか、そんなはずはないだろうと、目を背けていたのです。

 それが、この村人たちの会話によって、母親が殺されたのだと、ついに確信してしまったのです。

 ローレルは生前の母親を思い出しました。いつも優しく温かい言葉でローレルを育ててくれた母親。しかし、いつもどこか儚げな雰囲気を携えていたのを、ローレルは今頃になってようやく思い出しました。

 「あなたは聡明な子よ。持ち前の知恵と知識で強く生きなさい」

 そんな母親の言葉が今になって思い出されました。彼女は母親を亡くした悲しみをようやくこの日実感したのです。

 

………………。


彼女は、気が付けば、村の人たち全員を、死者に変えてしまいました。

そして彼女は、この死者だけの村の、主となったのです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お前がこの村のネクロマンサーだな?」

「そうよ。そういう貴方もネクロマンサーみたいね」

 ローレルが悲しみに暮れ死者だけの村で閉じこもっていたある日、来客がありました。

その来客は死者を三〇人ほど連れてローレルの住む村へとやってきました。

「私はアイレルンの地から来たヒバリだ。悪いが、私と共に来てもらおうか」

アイレルン、という地名にローレルは心当たりがありませんでした。この村よりもはるか遠くにある場所なのでしょう。ですがどうして、そんな遠くの地からこの男性はやってきたのでしょうか?

「私はこの村から離れたくないの。悪いけれど、帰ってもらえるかしら」

「もとより君に拒否権はない、このゾンビたちを見ればわかるだろう?」

 ヒバリがゾンビと呼んだ死者達は、とても自我があるようには見えませんでした。しかし、ぎょろぎょろとこちらを見てくる彼らのその眼は、ローレルに得体のしれない恐怖を与えました。

 彼はローレルを脅しているのです。指示に従わないのなら、今すぐこいつらをけしかけてもいいのだぞと、言外にその眼が語っていました。

「もし、君が来てくれないというのなら、私は君をゾンビにして、意地でも連れて行こうじゃないか。その時は、君の降霊術の才能も存分にふるってもらおう」

「私の力が目当てなの?」

「もちろんだ。そのために、こんな辺境の村までやってきたのだからな」

 高慢な態度をとるヒバリに対して、ローレルは目を細めました。

「わかったわ。ただし条件があるの。私とあなた、今すぐここで勝負をしましょう。勝負内容は、果し合い。どちらかが生き残るまで続けるの。相手を動けなくさせたら、勝ち。勝った方は死んだ敗者を操っていい。この条件でどうかしら?」

 自身の命を容赦なく勝負の天秤にかけるローレル。しかし、ヒバリはその提案に驚くことなく応じました。自信がよっぽどあるのでしょう。

「ふん、ネクロマンサー同士での戦いというわけか。他者の命を扱う者ならではの発想だな。面白い、もちろん私が負けるなどありえないがな」

「そう。じゃあ、始めましょうか」

「ああ、始めよう」

互いに距離を取り、戦闘の火ぶたは切られました。



結果はローレルの惨敗でした。

無理もありません。ローレルは心優しい女性です。もともと争いが好きな人間ではない為、戦う術を知らなかったのです。

「あんな威勢のいいことを言っておいて、この程度か」

ヒバリは失笑し、ローレルの骸を乱暴に掴み上げ、術式を展開させました。

ヒバリは戦いのさなか、ローレルの体を容赦なく痛めつけました。髪は泥にまみれ、服も四肢もぼろぼろになっていました。とても生きているようには見えません。ネクロマンサーといえども、ローレルはただの人間です。死者を操ることが出来ようが、死者の傷を癒せようが、彼女自身はただの人間なのでした

やがて、術式が完成し、息絶えていたはずのローレルが起き上がりました。

「最初から言うことに従っておけば、君も死ぬことはなかったのにな」

そうつぶやき、ヒバリは死者としてよみがえったローレルに、ついてくるよう命じました。死者はネクロマンサーには逆らえません。術式に術者を襲わないよう命令が組み込まれているのです。

ヒバリはこうして村を後にしようとしました。


 がぶり、とどこかで聞いたことのある音が聞こえました。


それはゾンビが、人に喰らいついた時の音に似ているのだと、ヒバリは気付きました。

自分の左腕を見るとそこには、先ほどついてくるよう命じたローレルが噛みついていました。

「ば、馬鹿な……。どうして、君は……私には逆らえないはずだ……!」

「死者は術者には逆らえない。確かにそのとおりよ」

ヒバリは命令に背き動き続けるローレルへ畏怖の感情を抱きました。慌てて、近くにいるゾンビ達に命令を飛ばし、ローレルを引き離し、襲うように命令しました。

ゾンビ達はローレルへ死肉に群がるハイエナのごとく襲い掛かりました。

ローレルは避けません。体中をゾンビ達に噛みつかれてもなお、平然とヒバリを追い続けます。

 ヒバリは恐怖しました。ゾンビ達がローレルへ噛みついても、ローレルには傷一つないのです。いいえ、正確には、噛みつかれてもすぐに体が再生しているように見えました。

「私は死者の研究者。死者のことなら誰よりも詳しいと自負しているわ」

「そ、それがっ!なんだっていうんだ!!」

ヒバリが恐れおののきながら後退するのを、意地らしい笑みでローレルは追い詰めます。

「まだ分からないの?じゃあ見せてあげるわ」

ローレルはボロボロになったシャツを脱ぎ捨てました。

そこにあったのは女性の柔肌、などではなく————。

「大量の……札……?」

びっしりと大量の赤い札が、彼女の肌を覆うように張り付けられていました。

一つ一つのお札をよく見ると、そこには「勅命」と書かれていました。

「まさか……!自分で自分を操っているとでもいうのかっ!!」

「ご名答。私、最後まで死ぬ踏ん切りがつかなかったの。村のみんなを殺して、一人で生きたいとも思えなかったけど、自殺するのは怖かったの。だから、こうしてあなたに殺されて、よかったわ」


 ——ローレルは、素晴らしいネクロマンサーでした。彼女はだれよりも優秀なネクロマンサーでした。死者の腐敗を防ぐための防腐術に、死者が命令に背かないようにする勅命札、更には損傷部分を癒す治癒術まで。彼女は様々なものを生み出しました。——


 彼女はヒバリに殺される直前、体に勅命札を貼って、死んだ後、死者として蘇る準備をしていました。自分に術式をかけることで、自分の命令だけに忠実に従える死者になったのです。勅命札は術者の命令に背かないようにするためのお札です。つまり、この場合の術者はローレル自身です。彼女は自分の命令に背かない、自然治癒する体を持ち、自律思考の出来る、世界で初のネクロマンサーでありながらネクロマンシーでもある理知的な死者になりました。

 「それじゃあ、手始めに、あなたが私を狙いにこの村へやってきた理由でも教えてもらいましょうか。もちろんあなたが死者になってから、聞いてあげましょう」

 

 ローレルは慈母のような優しい笑みを浮かべ、ヒバリを死者に変えました。


授業で書いたものです。もしかしたら続きを作るかもしれません。当初は長編小説を書こうと思っていましたが、時間が足らず短編程の文字数に……。長編にするなら、設定を少し変えて出したいなぁ、と思っております。

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― 新着の感想 ―
[一言] きれいにまとまっています。読みやすいです。確かにこのまま続編に繋げるのは、難しいかもですね。
[良い点] ふむ、初投稿ですか! 頑張って下さいねー! コメディ風なタイトルですが、ちゃんとファンタジーしてるなと言う印象でした。 ネクロマンサーとか呪殺系女子は何気に好みなので、良かったのですよ…
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