最強最弱の幻闘士・ティルファ
「兄貴ー今暇ー?」
「ん?まぁ暇と言えば暇かな?どうした?」
「暇ならちょっとゲームしようよ。ほら、こないだ新しく買った格闘ゲーム」
「あーっと……【Frontier】だっけか?いいぞ。ただ俺はあのゲーム全然やってないから大して強くないぞ?」
「大丈夫大丈夫。単調な攻撃しかしてこないCPU相手にゲームするより何倍も楽しいからさ。強い弱いは関係ないよ」
「ん。そうか。なら相手になってやろうじゃん」
「よしゃ!なら僕の部屋に来てよ。もう準備はしてあるからさ」
「オッケー。んじゃ今やってるの片付けたら行くわー」
☆★☆★☆
「よし!それじゃ適当に好きなキャラ選んでよ」
「結構キャラいるな……オススメなのはどのキャラ?」
「そうだなぁ……初心者でも扱いやすくて強めなのだと【玉座の番人・レギュ】かな?それ以外だと【密林の覇者・ルティメイト】とか【王者・コア】かなー」
「なるほど。逆に使わない方がいいのは?」
「それだと【幻闘士・ティルファ】かな?」
「1人だけか?このキャラだけ扱いが難しいのか?」
「だね。操作自体は簡単だけど技の1つ1つがクセが強すぎて思うように動いてくれないんだ」
「例えば?」
「基本技の ⇨ A は普通キャラの正面に技が出るんだけどティルファの場合は背後に出るんだ」
「えぇ……」
「コンボ技の ⇦ B ⇦ A は相手キャラと密着した時にしか出せないし、究極技のコマンドなんか確か ⇦ ⇦ ⇨ A B A B ⇩ ⇧ ⇧ B A ジャンプ しゃがむ 防御 A ……うん。忘れた。他のキャラはもっと単純なんだけどこのキャラだけ妙に複雑なんだ。発動条件も限られるし」
「でも決まったら強いってやつか?」
「うん。基本ほぼ一撃。一撃で終わらなくても残りのHPはミリ単位ぐらいしか残らないから事実上一撃必殺の技だね」
「そうか……よし!なら俺はティルファを使う!」
「えぇ!?説明聞いてた!?」
「聞いたからこそ、だ。こういう扱いにくいキャラで玄人を倒してこその格闘ゲームだろ。ほら。説明書貸せ。今から技のコマンドと威力を覚える」
「どうなっても知らないよ〜?はい。説明書」
「ふふふ……俺の学習能力に恐れ慄け!」
☆★☆★☆
「違う……違うんだ。そこは背後への攻撃じゃない。正面への攻撃だ……」
「…………」
「俺が求めている攻撃はそれじゃない……もっとこう、なんかあるだろ……?」
「…………」
「てか究極技って何だよ……出せなきゃそもそも究極もクソもねぇだろ……」
「兄貴ぃ……」
「調子こいてました。スンマセン。ティルファマジ使いにきーっす」
「だから言ったじゃん。あのキャラはダメなんだって。実質最強だけど最弱なんだから」
「駄目だな。全然駄目だ。あのキャラ雑魚だ。もう使わん!次だ次!」
「全く……早く選んでよ次の対戦やるよ」
「おう!ちょっと待ってろ!」
☆★☆★☆
『違います!私は弱くなんかありません!ちゃんと使ってもらえれば強いんです!』
『無駄だってティルファちゃん。向こう側のプレイヤーに俺達の声なんて聞こえやしないって』
『レギュさん……』
『全くプレイヤー達も酷いよなぁ?折角俺達の生みの親がどんなプレイヤー層でも楽しめるように俺達に様々な力を与えてくれたのにただ使いにくいってだけで雑魚呼ばわりなんてな』
『本当ですよ……』
私は幻闘士・ティルファ。
【Frontier】という格闘ゲームに登場するキャラクターの1人。
私達は画面の向こう側、私達がプレイヤーと呼んでいる存在に操作されて戦う事を生業としている。
『実際ティルファちゃんが本気を出したら勝てる奴なんて1人も居ないんじゃないのか?』
今私と話をしているのは【玉座の番人】の二つ名を冠されているレギュさん。
私よりも少し歳上の男性で、防御に徹しながら闘う事が出来る防御に特化した戦闘スタイルを持っている。
『そんな事ありませんよ!レギュさんは私の究極技を受け切れる数少ない方ですし、究極技を放った後は反動でしばらく動けないせいでその隙を狙って攻撃されたら私だって簡単に負けますし』
『謙遜するねぇ!』
『謙遜じゃありませんよ!』
実際何度か本気でやりあってもレギュさんには負けている。
だから決して私が最強というわけではない。
『おいおいどうした痴話喧嘩かぁ?ハッハッハ!』
『ルティメイト。今は出番無いのか?』
『みたいだな。プレイヤーさん達は今ストーリーモードを楽しんでいるからしばらく出番は無いだろうよ』
彼は【密林の覇者】の二つ名を持つルティメイトさん。
私と同い年ながら覇者の名を冠されている戦闘のプロだ。
防御、攻撃どちらもバランスが良く、その上技術もあるから私としてはあまり闘いたくない人だ。
『そうか。ならしばらくはゆっくり出来そうだな』
『あぁ。それにしても今回のプレイヤーは無知だなぁ!ハッハッ!ティルファを雑魚呼ばわりとはな!』
『だよなぁ?今その話をしてたんだ』
『確かに私の技はクセが強いですけど、逆に言えばそれだけ戦術の幅が広いって事なのに……』
『まぁ中々お前の良さに気づけるプレイヤーは居ないだろうさ!』
『うぅ……』
【Frontier】が発売されてから約1年。様々なプレイヤーが私達を使ってくれているが、未だに私を持ちキャラにしてくれるプレイヤーは居ない。
どんなに私が活躍しても、私の立場は良くてネタキャラ扱い。
私が日の目を見るときは殆ど無い。
『何をしょげておるのだ?』
『コアさん……』
彼は【王者】の二つ名を持つ男性。年齢は知らない。王者の名を冠されるだけあって防御・攻撃共にとても優れていて、闘ってみた感じどこをとっても非の打ち所がないように思える。
あえて言うならば、若干スピードが遅いところかな?
『いやよぉ?ティルファちゃんの奴、プレイヤーに雑魚呼ばわりされちまってちょっと精神的にダメージを受けてるんだよ』
『ほぅ。ティルファ殿を雑魚、と。我らが誕生して早1年。中々ティルファ殿を見る目があるプレイヤーに巡り会えないものだな』
『そうなんですよ……』
『せめてティルファちゃん自身が自分の意思で闘う事が出来れば話が違ってくるかも知れないんだがな』
『それも叶わぬ話だな!私達が自由に行動出来るのはプレイヤーの操作が加わっていない時のみ!どれだけ願おうとプレイヤーの対戦中に私達が自分の意思で闘う事は出来ない!』
『ティルファ殿も難儀な星の下に生まれてきてしまったの』
『本当ですよ……』
あぁ神様悪魔様!誰でもいいから私をこんな世界じゃなくて私が存分に日の目を見る事が出来る世界へ連れていって!
「その願い、聞き届けよう」
『えっ!?』
『ん?』
『お?』
『なんだ?』
突如私達の前に歳を召した老人が現れる。
こんなキャラクターは、Frontierには居ない。
誰?
「幻闘士・ティルファよ。そなたに頼みたい事がある」
『頼みたい、事?』
「あぁ。もしワシの頼みを聞いてくれるのなら、そなたの願いは同時に叶う事になる」
『私の願いって……さっき私が心の中で思っていた事?』
「そうじゃ。聞く聞かないは別として、とりあえず話だけでも聞いてみる気はないかの?」
私の願い……
この世界から出て、私が活躍する事の出来る場所へ行く事。
この人が何者なのかは分からないけど、話を聞いてみる価値はありそうだ。
本作は人間がゲームのキャラやゲームの世界に異世界転移・転生するのでは無く、ゲームのキャラが異世界で活躍するという物語になります。
語弊のある表現をしていましたら申し訳ありません。