常連客
銘尾 友朗さん主催の「春センチメンタル企画」参加作品です。
川土手に並ぶ満開の桜が、時折吹く風に花びらを散らしている。
「今年も来てくれたのね。」
「君に会いにね。」
桜祭りの赤い提灯が、彼の青白い顔をピンクに染める。
園子は手元のたこ焼きを手早くひっくり返しながら、チラチラと顔をあげて彼の存在を確かめる。
あちこちから漂ってくる屋台の食べ物の匂いに、たこ焼きが焼ける湯気が混じり合う。
彼のお腹がぐう~と鳴る音がした。
「ふふっ、もうすぐ焼けますよ。」
千枚通しに三つずつたこ焼きを通しながら、木の匂いのするフネに並べていく。
たっぷりとソースを塗って、鰹節と青のりもふりかけた。
園子の手馴れた所作に、彼は感心して目を注いでいた。
「これを。」
園子に日記を渡し、たこ焼きを手にすると、彼は銀色のタイムマシンに乗り込んだ。
近くを行き交う人は誰も彼の存在に気づかない。
毎年やって来る不思議な客。
たこ焼きのお代はいつも未来の園子が書いた日記だ。
日記の中に彼の影が見えるようになって、園子は先を読むのを躊躇するようになった。
彼と園子はどんな関係なのだろう?
この日記の終わりは来るのだろうか?
ちらほらと舞い散る桜の花びらをぼんやりと眺めながら、園子は気弱に心を揺らしていた。