第4話 「門出」
俺は口から涎をダラダラとこぼしながら
無造作に地面に転がっている、柄の赤い「ハンドスコップ」を見ている。
「あの、ラルエシェミラしゃん?」
呂律が回らん。
自分でも、何を言っているのかわからないが、ラルエシミラは理解してくれたみたいだ。
「はい! いかがなさいました?」
「シュコップが出たんでしゅけど? シュコップ」
「サ行が言えない人ですか?」
「あなたのしぇーでしょーが!?」
いつの間にか画用紙に書いた文字を、俺に見せてくる。
「はい、これ読んでください」
「ローション」
腹を抱えながら笑い転げるラルエシミラ。
それを死んだ目で見る俺。
「安心してください。その涎は、じきに治ります。そんなことより! ついにあなたの『魂の神器』が出ましたよ! ばんざーい!」
ラルシエミラはあざとく両手を上げてぴょんぴょんとジャンプをする。
おお、乳が......
いやいや! そんなことより、口から出てきたこのスコップはなんだ?
シャベルなら武器として使えたり、穴を簡単に掘れたりできるけど......
どう見てもこれ、園芸用のスコップなんだが?
俺ちゃん、お花でも愛でるの?
そんな心配に胸がいっぱいな戸賀勇希の心を読んだのか
ラルシエミラは、コホンと咳払いをすると、満面の笑みで話し出す。
「信じられませんか? これは、あなたの魂の一部であり、潜在能力を具現化したものです!」
「潜在能力?」
「はい! あなたに眠っている力のことです! すなわち......」
ラルシエミラの言葉を遮り、俺は叫んだ。
「ちくしょう! つまり、これが俺の持つ才能のしゅべてなんだろ!? こんなちっしゃい、園芸用シュコップじゃねぇかよ!」
俺はハンドスコップを掴むと、それを地面に突き立てた。
「ちょっと待たんかい!!!」
「しゅ?」
スコップを握る手に走る、重い衝撃。
ガラスのヒールが、俺の手の上に乗せられている。
もはや「乗せた」というよりは、「踏みつけた」の方が適切だろう。
俺は痛みに叫ぶ。
「何やってるんですか? まだ私がお話をしている最中でしょう?」
「あのぉ、かわいいお顔がまるで鬼みたいでしゅよ?」
「ちなみに、あなたの能力は、あなたが『突き刺す』ことで『起動』し、『抜く』ことで『放出』されるのですよ。」
「なん......だと......?」
「だから、絶対にそれを引っこ抜かないでくださいね? トガ」
「は、はい...ってか今呼び捨てにしませんでした!?」
いつに間にか涎が治ったトガは、恐る恐るスコップから手を離す。
そういうの普通、最初に言わないの?
というか、どんな能力なのよそれ。
めちゃくちゃ気になるわ。
よし、聞こう。
「はい! 質問があります!」
「まだ、私がお話しているでしょう? 聞いてくださいね?」
「はい」
聞けなくなったわ。
「あれはもう使えませんので、これからもう1つ『朱印玉』を飲んでいただきます。特別ですよ?」
「え!あの苦しみをもう一度!? そいつは勘弁してちょうだい! 頼む!」
「ズベコベ言わずにさっさと飲む!」
「オヴォ」
またしても俺の口に『クッソ赤い玉』が投げ込まれる。
地獄の苦しみを味わった後、また柄の赤いハンドスコップが出てきた。
なんでスコップしか出ないの?
嫌がらせなの?
ラルシエミラは柔らかな胸を膝に押し当てるようにしゃがみ
トガに目線を合わせると、こう言った。
「では、これからトガさんには世界を滅ぼしに行っていただきます!」
「はい?」