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スコップ1つで異世界征服  作者: 葦元狐雪
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第10話 「またお前か」

 シャボン玉飛んだ。

 屋根まで飛んだ。

 屋根まで飛んで、

 屋根の上にいるボディビルダーのような猫に破られた。


 シャボン玉を割った猫は、オリバーポーズやダブルバイセプスを得意げに見せ散らかしている。

 俺はそんな光景を半笑いで眺めつつ、

 マーレに借りた民族衣装のような格好で洗濯に勤しんでいるところだ。

 しかも洗濯板と洗濯桶で。


 生まれて初めて使ったわ、こんなアナクロなもの。

 今の時代は普通さぁ、ドラム式洗濯機でしょうに。

 なんだ、この世界には洗濯機を発明した人はおらんのか? ん?

 1番力のあるマーレは弁当作ってくるとか言ってどこかへ行くしなぁ......


「おいおい、お前さん。もっと腰を入れて擦らないとダメだろ」


「なんだと。そんなこと言うならあんたがやってみてくれよ」


「いいぜ! こうして......こうやってな......ほっ! ほっ! ほっ!」


「おお〜! うまいもんだなぁ」


「だろ? へへっ」


「......あれ?」


「ん?」


 全身黒一色で統一された服装に、ボロボロの黒布をまとった男が一所懸命に学ランを洗濯板でしごいていた。


「お、お前は......エレボスとか呼ばれていたっ」


 十二単牡丹との戦闘で俺を助けた、この世界を牛耳るチート勇者の一人。


「そうそう! お兄さん記憶力いいなぁ〜」


「どうして......」


「『どうして』? それは『どうして』俺がお前さんの洗濯を手伝っているのか、それとも『どうして』あの時、俺がお前さんを十二単牡丹の凶手から助けたのか。さあ、どちらだ?」


「どちらもだ」


「かぁ〜。欲張りだねぇ。まあいいか、答えてやるよ」


 エレボスは会話を続けながら、血に塗れた学ランを洗っている。

 桶の水は石鹸と血の色が混ざり合い、優しい桃色に変わっていた。


「1つ。俺の気が向いたから。それだけ」


「え......」


「2つ。あのままお前さんが殺されるのは面白くないと思ったから。あのラルエシミラが連れてきた男だぜ? 何か特別な(モノ )があるに違いないと、俺の勘が言っている」


 買いかぶり過ぎだ。そう思った。

 いったいこの男は何を考えているのだろうか。

 その気になればいつでも殺せる。

 だから俺を泳がせて遊んでいる......?

 そうだ。そうに違いない。

 ならば、やられる前に......


「おい」


 後方へと派手に吹き飛ばされた。

 いや、そう思わせるほどの圧が俺に差し向けられている。

 パールのような白色の瞳が、懐に手を入れたまま硬直した俺を睨む。


「やめとけやめとけ。命を粗末にするな。いいか、いいことを教えてやる」


 エレボスは俺を指差して言う。

 生暖かな風が、鉄と石鹸の匂いをまといながら、俺の鼻腔を突き刺す。


「俺は8人の勇者の中で1番強い。マジなんだぜ? だからさ、な?」


 だから手を出すな。歯向かうな。抵抗するな。ということだろうか。

 以前にも同じ様なことを言われた気がする。

 それに、奴の実力も能力も未知数だ。

 気配を感じさせず、いきなり現れたところをみると瞬間移動系の能力か?

 わからない......


「こいつも綺麗になったことだし、そんじゃあ行きますか!」


 エレボスが水の滴る学ランを物干し竿へ乱雑に放ると、黒いマントを俺に被せようとする。


「え、ちょっと。どこへ行くつもりだ」


「どっか♪」


 俺の視界は再び暗黒に支配され、意識は彼方へ飛び立った。


 ボディビルダー猫と濡れた学ランが取り残された場所に、マーレが駆け足で戻ってくる。


「あれ? きさま、どこ行ったのよ!」




 $$$



 冷たい。

 冷えた感触が頬の一部に当てられている。

 なんだろう、この感触。

 硬いな......。鉄? 鉄か?

 痛い! 痛い痛い! グリグリしないで! ちょ......やめ......


 俺は目を開けると同時に勢いよく体を起こし、渾身の力で叫ぶ。


「グリグリすんなつってんだろうが!!!」


「お?」


 なんと俺を取り囲んでいたのは、スキンヘッドに鉄製の棘が付いた肩パッドをした屈強な男たちであった。

 ざっと数えて6人。

 1人を除き、全員が俺をにらみながら銃口をしゃぶっているという状況。

 まさに世紀末。

 すると、銃口を俺の頬に突きつけていた男が口を開いた。


「おい、2本杖(ドゥーエ・カンナ )の女を知ってるか?」

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