第8話
「非常食でも作りながら干し肉つまむか」
工房の中に置いてある小麦粉と棚から濃縮茸と粘菌の粉末の入った袋を取りだし計量カップを清潔な布巾でキレイに拭き小麦粉と濃縮茸、粘菌の粉末を5:1:3の割合で鋼鉄製のボウルに吹き上がらないようにそっと落としてから 、かき混ぜ用の先がいくつにもバラけた鉄棒でカシャカシャひたすら混ぜていく。
白い小麦粉と毒々しい紫色の濃縮茸と目が痛くなるくらい明るい黄色の粘菌がムラなく混ざると何故かオレンジ色の物体になる。
「やっぱりいつ見てもおかしいよな~この色…」
オレンジ色の物体に先程使用した計量カップで精製水を2杯入れる。
普通なら粉末が水分を吸収しきれずに混ぜなければいけない筈なのだが、この物体は乾いた砂漠の砂が水を吸うように勢いよく吸っていく。
水を吸ったオレンジ色の物体はいくらか色合いを濃くし、少し体積も増えたのかよりボウルの縁に近付いてきた。その上粘菌が含まれている為かボウルを逆さまにしても落ちてこないほど粘りも出てきた。
「後はこれを…有った有った。1、2…おし、10個有るな」
容器が納められている棚から10個の鋼鉄製の型を取り出す。大きさは縦横5㎝長さ20㎝程。
その容器に同じく鋼鉄製のヘラを使いオレンジ色の塊をえぐり取って叩き付けるように詰めていく。こうしないといけないほど粘りが強く、なおかつ物体の中の空気も抜かないと次の工程である焼成の作業の際に爆発してしまう。
「食い物作るのに何でこんなに疲れなきゃいけないんだよ……あぁ干し肉の塩辛さが身体に染みる…」
型詰めと空気抜きの作業を終えて、型にみっちりと詰まったオレンジのブツを200℃に温めてあったピザ窯に滑らせて入れながら干し肉をかじる。
「これで30分ほっとけるなっと、タイマータイマー…有った」
窯の蓋を少しすかして、立て掛け窯の脇の窪みにのセットされている魔道具のベルに30分で落ちきる砂時計をはめ込む。
これで30分たてばベルが鳴るので近くにいなくても気付く事が出来る。
おっと、あの赤いのも焼かないと今夜の飯が減るからな、危ない危ない。
俺は布が被せてあるボウルを食い物用の板の上にひっくり返し中身の赤い物体Xをボトリと落とし、半分に千切り細長く形を整え窯の蓋を脇に避けて二つとも手前の方に放り込んだ。
焼き上がるまでの間に俺はお食事タイムにしようと思う。