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1、さよなら


 その朝は、日本の四季に冬が入っていることを後悔させてくれる朝だった。

 足先が凍りついたかと思えるほど、寒い朝に廊下で待機という名の苦行は辛すぎた。

 いや、なんで待機してるからかといえば単純に担任のサプライズ精神の賜物らしいが、そんなものは僕には何の効果もなかった。


「――転校生を紹介する」担任は厳かに言っていたが、生徒にはさほどウケはよくなかった。無反応過ぎて、僕がすべったみたいな空気になった。

 

 つまり、こういうことだ。

 僕は転校生ということで。


 二月に引っ越してきた季節はずれの流れ者であり、転校先の元々いた生徒たちからすれば『よそ者』というポジションになる。仲良くなれるんだろうか。


 見回す。コンクリートの壁はやけに真っ白に輝いていて、教室には40人ほどの生徒がいた。

 後ろのロッカーには、花瓶に花が二三本飾られており、ついでにクラス全員の書初めが貼られているところも、前の学校ではそういうのは掲示していなかった。ちょっと違うなあと思えた。

 そんなことに思いをはせつつも、口からは適当に連ねた言葉で自分を述べることが出来た。名前、特技、前の中学はどうだったとか何とか。

「これからお世話になります。よろしくお願いします」

 決まりきった締めの文句を言い終えると1-2組の生徒は拍手をした。これって大方先生の仕込だけどな。


 ――その後のことは言うまでもない。

 休み時間ごとに僕の席の回りに人だかりできた。クラスメイトからの質問攻めに押されて正直困った。どうしてこの町に来たの? 部活どこにするの? そういう風の。

 部活とか聞かれてもなあ。吹奏楽部一択だ。わざわざ運動部を押してくるごついクラスメイトにそれを言うのはなんだかなあ。気まずい。


 そんな普通の日常がそこにあった。しいて言うなら、前の席が空いていた。

 空席ではなくどうやら欠席。クラスメイトの顔色からして病欠だと推測できた。風邪かインフルだろうか。



 ――2月9日はそんな日だった。

 普通の日。だから、何も言うことなんかないはずだった。

 

 平和、平凡。青い空、白い雲。

 前住んでいた町には無い田んぼやら、大きな木があったり、学校に裏山があったり、自然の多い所だった。

 都会の排ガスで汚れた僕の循環器も多少は回復しそうな気がした……しただけだったが。


 そういう風にのんびりと時を過ごすような日々がこれから始まるんだなあとか暢気なことを考えていた。


 ――翌日、クラスメイトが自殺した。


 それは特筆すべきことのようだったので、僕はこれからそのことを語ろうと思う。

 それを火種にした一連の事件のことを。

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