狼少年
ボク、小学四年生。男子だ。
実は今、切実な悩みがあるんだよ。
本当は……打ち明けるのも恥ずかしいんだ。
でも……このままだと、ボク……きっと大変な事をしでかしてしまいそうで怖いんだ。
笑わないで聞いてくれる? 約束だよ?
あのね、実はボク……狼男なんだ。
あっ、今笑ったね? え? 笑ってないって? でも、本当なんだよ。
それに気づいたのは、この夏休みのことだった。
狼男ってさ、月を見ると人間から狼男に変身してしまうんだよね。
ボクは、正確には狼男とは違うのかもしれない。でもさ、同じ系統であるのには間違いないんだよ。
だって、ボクが見ると変身してしまうのは……ボクにとっての月は、ううん、恥ずかしいな……
けど、思い切って言うね。
それは……ボクにとっての月は、女の子のパンツなんだよ。
特にさ、極自然にチラッと見えるパンツ。あ、自分から見せるなんてのはダメさ。極自然が条件なんだ。
それに初めて気づいたのは、学校のプールでだった。
密かに好きだなって思ってる浩子ちゃんが着替えてる時、パンツが見えたんだよ。
あ、違うんだ、ワザと見た訳じゃないんだよ? そう、偶然見えちゃったんだ。
そのとき、ボクは初めて狼男に変身しそうになったんだ。
体の底から熱い塊がこみ上げて来るようで……体自体が熱くなって……
体中の血が、特に下っ腹の血がフツフツと沸き立つようで……多分目つきも変わっていたんじゃないかな。
体中の産毛も、まるで静電気を帯びたように逆立ってしまっていたしね。
ね? 狼男とは違うかもしれないけれど……そう、狼男まではいかない、狼少年なんだろう。
浩子ちゃんは、ボクが狼少年だってことにはまるで気づかずに、プールでは一緒に遊んだよ。
潜りっこをしたり、二十五メートル競争をしたりね。
ボクは極自然に振舞おうと必死だったよ。
ボクの中の狼少年よ、静まれ! こんな所で出てくるな! って。
どうか、浩子ちゃんに、ボクが狼少年だとは気づかれませんようにって。
その日からさ。浩子ちゃんだけじゃなく、女の子のパンツが気になって仕方なくなったのは。
これはボクの中身が狼少年になっちゃったからに違いないんだ。
パンツを見て、完璧な狼少年に変身しろよ! ってボクの中の狼少年はボクをそそのかす。
普段は無理して、それを隠してるんだけど。変身しないように、変身しないように気をつけてるんだよ。
だからボクは、なるべく女の子を見ないようにしてる。
でも、ボクの中身は狼少年になってしまったから、想像の中ではいつでもそれ、を求めちゃうんだ……
多分、ボクの中の狼少年が、完璧な形で表に出たくてしょうがないんだろう。
本当はパパに相談したいんだけど。だって同じ男だからね。
でも、ボクにはパパが居ないし。男の兄弟も居ない。ママに相談するのは……やっぱり無理だ。
クラスの男友達にだって絶対に言えない。もし知られてしまったら……こんなに醜い自分を……
ボクは……多分生きてはいけないだろう。
だから、ここで告白する事にしたんだよ。
そうすることで、せめて狼少年になった時、衝動を抑えることが出来ます様にって。
普段は隠している欲望も、そのまま眠り続けますようにって。
多分、ボクの狼少年は治らないんだろう。
それはなんとなく分るんだよ。
きっと一生ボクについて回る、呪いのようなものかもしれない。
本当は……こんなボクなんて居なくなっちゃった方が、世の中の為かもしれない。
でも、ボクは卑怯にも、自分が可愛いんだ。自分で死ぬ事は出来なかった。
それが狼少年になってしまった証かもしれないんだけれど……
だからね、明日からもボクはこの秘密を抱えて生きてゆくよ。
なるべく狼少年に変身しないよう、気をつけてね。
それが狼少年になってしまったボクの決意でもあるんだ。
仲間が居たら随分違うと思うんだけど。
でも、みんなは多分狼少年じゃないんだろうし。こんな危険な狼少年はボク一人きりに違いなんだ……
ふふっ、一匹狼少年っていうのも、言葉の上ではそう悪くは無いんだけどね。ね、そうだろ?
聞いてくれてありがとう。
それじゃ、いくね。
ボクから聞いたこの話は絶対に秘密だよ?
狼少年のお話さは……
もしも誰かに話してバレてしまっても、そんなのウソだって言うからね。
だってボクは狼少年だから。
ウソは得意なんだ……
男の人は必ずこんな道を通りますよね。 それがあると思うと、どんな男の人でも愛おしく感じてしまいます。