貧乏探偵事務所「ウロボロス」
(一)プロローグ
1998年7月下旬。その日は待ちに待った夏祭りだった。温暖な気候に適度な雨が降り、山が多くミカン栽培に特に適したD県。娯楽の少ない片田舎ではみんながこの祭りを楽しみにしていて、会場となる広場では朝早くから人の姿が絶えなかった。新しく買った浴衣に袖を通す者も多く、子供達もこの日ばかりは大人の言うコトを素直に聞くのだが、それは夜に出る屋台で買うお菓子代を貰う為だった。
二〇〇名ほどの小さな集落である。誰がドコの家の住人か、誰がどんな仕事をしていて、どんな性格かもお互いが良く知った間柄で、夏祭りはこの二〇〇名余りの絆を深める最大のイベントだった。
夏祭りの実行委員長となった松木道也は朝から何度もマイクのチェックをしていた。昨年肝心の本番でマイクが使えず、急遽拡声器を使って挨拶を行ったので、今年こそは失敗をしないようにと力が入っているのだった。
松木は長年ミカン農家を営んできたのだが五年程前に農業を辞めて引退していた。長男も次男も大都市に出て就職していたのだが、どちらも農家を継ぐと言わなかった。
四代続いた農家も彼で終了となり寂しさはあったものの、それも時代の流れなのだと松木は自分を納得させていた。周りに請われて夏祭りの実行委員長となったが、地元の人々と何かを一緒にやるコトが楽しかった。
夕暮れとなり、広場のテントに大きなシチュー鍋が二つ運ばれてきた。この地区の夏祭りでは毎年この特製シチューが大人気で、一皿四〇〇円で売り出されると飛ぶように売れた。
夜に行われるカラオケ大会にエントリーした参加者達も全員がシチューを口に運んだ。
松木も準備で忙しい中、手早く胃袋の中にシチューを流し込んだ。
朝からシチュー作りを担当したのは主婦達十二名である。夏祭りの二週間以上前から何度か集まって食材の買出しから野菜の皮剥き、調理、完成後の見張り当番まで例年と同じく細かく決めて行った彼女達は、「熱いから気をつけてね。」と子供達に声を掛けながら皿に盛ったシチューを手渡す。どの顔も嬉しそうだった。
ワイワイと賑やかだった光景が、それからわずか一〇分ほどで一変する。広場のいたる所でゲーゲーと吐く者が続出し、バタバタと人が地面に倒れ込んだ。シチューを持ち帰った住民は自宅のトイレやリビングで激しく吐いた。
その光景にしばらく茫然となっていた松木。「救急車っ!誰か救急車呼んで!」緊迫した声に我に返ると緊急の一一九番通報をした。騒然とする広場に救急車や消防車、パトカーが何台も到着して倒れた人達を病院へ搬送して行く。松木もシチューを食べた一人だったが彼の身体には何も異変は起こらなかった。まさか楽しいハズの夏祭りでこれだけ大規模な食中毒が発生するとは予想しなかった。それはシチューを作った主婦達も同様で、自分達のせいで集団食中毒を発生させてしまったコトを激しく悔いた。
患者が全員搬送され、ガランとした広場に立ち尽くしながら、松木は妙な違和感を覚えていた。それは、午後二時頃まで火を通していたシチュー鍋にわずか四~五時間で食中毒の原因菌が繁殖したコトであり、そして同じくシチューを食べた自分は特に症状が無かったコトである。ただ、その違和感は「何だか変だな」くらいであり、鑑識を行ったD県警や保健所の担当者にわざわざ話すほどでは無かった。
突然大量の患者が運び込まれた各病院はどこも戦場のようになった。帰宅していた医師や非番で休息していた医師にも緊急招集が掛かり、病院総出で患者の対応に当たった。だがその症状は劇的で只の食中毒とは思えない……手当てをした医師の多くはそう感じていた。
原因がハッキリ判らなければ処置が正しいか判らない。そして残念ながら搬送された患者六十七名のうち、四名が再び自宅に戻るコト無く息を引き取ったのだった。
知らせを受けて病院に駆けつけた遺族達は憔悴し切っていて、突然訪れた愛する家族との別れに泣き崩れた。死亡した原因を教えてくれと医師に迫る遺族もいたが、
「今食中毒の原因菌を鑑識が調査中です。」
と答えるのが精一杯だった。
D県の小さな集落で集団食中毒発生という情報はすぐさまマスコミ各社に伝わった。保健所の担当は当初「シチューを食べたコトによる食中毒」と発表し、それを受けて記者達は原稿を準備していた。暑い夏場では時々こうしたニュースが入ってくる。今回も典型的な事故だと記者達は思っていた。だが……
「シチュー鍋から毒物の青酸カリが検出。」
現場検証を行ったD県警鑑識課の発表に記者達の顔色が変わった。不運な事故だとばかり思われていたものが、誰かの明確な意思による大量殺人に変貌したのだ。
D県上空に取材ヘリを飛ばす手続きに奔走する者、青酸カリについて詳細情報を集める者、D県内の宿泊場所を長期間押えにかかる者。誰もが戦後日本犯罪史に残る大事件に関わるコトへの緊張感に全身を覆い尽くされていた。
毒物は青酸カリであるとするD県警による情報だったが「中毒症状が違う」という専門家の指摘があり、より詳しく調査する為に科学特捜部による再鑑定が行われるコトとなった。
そして再鑑定により、シチュー鍋に混入された毒物がヒ素であると判明したのである。
その日から十七年という長い長い月日が経った。
(ニ)天本探偵登場
二〇一五年はまだ六月だというのに真夏の様な暑さだった。大衆雑誌としてソコソコの人気を誇る『週刊出鱈目』D県支社の若槻記者は、東京駅地下街の喫茶店で今年初めてのアイスコーヒーを頼んだ。イスに座り濃紺のスーツの上着を脱いでネクタイを緩め、ハンカチを取り出して額に浮かんだ汗を拭った。百七十五センチ、八〇キロの小太りな体格で、汗っかきの彼は「日がな一日より(いつもより)早いけど、もう肌シャツが二枚いるな」と呟いた。
それにしても東京は毎日が祭りなのかと思う程、相変わらず人が多い。地下街を歩く人も足早に歩いていて、まさに生き急いでいる感じがする。やっぱり自分はノンビリと暮らす方が性に合ってると思うのだった。
澄んだコーヒーを脇に置いて、上着のポケットから小さな手帳を取り出した。パラパラとページをめくり、これから向かう先の住所と相手の名前を確認する。そしてカバンの口を開き、持参した資料を確認していると、
「やあ、お待たせしました。」
と声を掛けられた。
声の方を見ると、淡いグレーのスーツにノーネクタイの男が片手を上げて挨拶している。
慌てて立ち上がった若槻記者。伝票がテーブルの端からヒラヒラと床に落ちた。
「遠くからご苦労様です。警視庁の小山田です。」
「どーも若槻よ。お忙しい中恐縮よ。」
軽く挨拶をした後、「じゃあ、行きますか」と小山田に言われて若槻記者はアイスコーヒーの残りを慌てて飲み干した。
JR中央線のホームに向った二人。東京始発高尾行きのオレンジ色の電車に乗る。
「若槻さんは東京に来られるのは何年ぶりですか?」
小山田刑事の質問に「えっ?」と聞き返した若槻記者。窓の外に見えるビル群に思わず目を奪われて聞き逃したのだった。
「若槻さん、東京は何年ぶりですか?」
「もう七~八年ぶりになるなあ。サッカーの取材をした時以来で。なかぁかコッチの方に来る機会は無いかぇら。 」
「東京は人が多いでしょう。」
「ええ、ホントに。D県はのんびりしてまっからね。」
小山田刑事は一瞬笑みを浮かべて、また真面目な顔になった。
「これから向かう所には小山田はんも何度か行かれてるんよか。」
今度は若槻の方から質問した。ただ、極秘な内容なので細かい場所は言えずボカした表現になり、視線は後方に流れていく窓の外のビル群をチラチラと追っていた。
「私も今回が三度目なんです。我々がアソコにそう何度も頼るのは良くないですから…。」
小山田刑事の方も他の乗客に判らないようにボカした表現で返した。
「お忙しいのにご紹介頂いてホンマにすみまへん。」
恐縮し切った若槻記者に小山田刑事は笑って
「いやいや、美波先輩には大学の剣道部でとてもお世話になりましたから。美波先輩からの頼みとあれば、断れませんよ。」
実は若槻記者は美波支店長からこの難事件の特集記事を書くように指示された。しかし、この事件はこれまでに何度もマスコミ各社で特集された為に、今更新しい記事を書くなど困難だった。困り果てた若槻がどう書くか美波に相談すると、
「確か東京にいる大学の後輩の小山田が凄い男を知っている。その男はどんな難事件でも短時間で解決できてしまうんだそうだ。ひょっとしたら記事のヒントを教えてくれる
かも知れないぞ。」
と大学の後輩に連絡を取ってくれたのだった。ちなみに美波は入社して十二年東京本社に在籍していたが、前任だった森下支店長が病気療養の為に勇退したのに従って一年半前にD県支店に移動して来たのだった。
「彼は本当にカミソリみたいに頭の切れる男ですから、その事件もスルスル解いてしまうかも知れません。美波先輩に結果報告したら情報横取りされて先輩の手柄にされちゃうかも知れないですよ。」
「まさか、ハハハハ。」
二人は冗談を言い合って、それから黙って二人は窓の外を眺めた。
途中の御茶ノ水駅で総武線三鷹行きの黄色い電車に乗り換えた二人。そのまま三駅隣の飯田橋駅で下車して改札口を出た。
御茶ノ水駅のすぐ近くに釣堀があり、釣り人数人が糸を垂らしているのが見えた。それを見て「こんな所に釣堀があるんだ。」と驚いた若槻記者、改札口を出て歩きながら「一昨年買った磯釣り用の竿、そう言えば全然使ってないな。」と思い出した。汗がまた額に浮かぶ。ハンカチを出してその汗を拭い、小山田刑事と少し距離が開いてしまったので慌てて早足になった。
D県より圧倒的に緑が少ない立体的な街を一〇分程歩いた後、ようやく小さな雑居ビルに到着した。
「ココです。予約した時間丁度ですね。」
小山田刑事に言われてビルを見上げた若槻記者。五階建ての雑居ビルには看板が設置されているのだが、二階の「麻雀 東風」以外はどの階も白地である。まさか雀壮で相談する訳では無いだろうにと戸惑っていると、小山田刑事は構わず雑居ビルの中へと入って行った。後を付いてビルに入ると入り口横に郵便ポストが幾つかあった。その中の一つに「ウロボロス」と書かれた小さなシールが貼られていた。
エレベーターに乗って四階まで昇った二人。錆び付いた鉄製のドアを開けるとすぐそこは応接間だった。ボロボロのソファにサボテンの植木鉢。壁には何だかよく判らない子供の書いた様な小さな絵が掛けられていて、壁の所々に黒いシミがある。
予想以上のボロい部屋に驚いた若槻記者。左手に持ったミカンゼリーの紙袋を落としそうになった。
奥にはもう一つ部屋があって、程なくそのドアがガチャっと開いた。中から白髪に眼鏡を掛けた老紳士と背の高い四〇代くらいの男性が出てきた。遅れて出てきたのは若い男性。
三人はソファの前を通って玄関まで歩いて行くと、前を歩いていた二人がクルリと向きを変えて、
「それじゃ、先生。よろしくお願いします。」
先生と呼ばれた若い男性も
「ええ、ではまた来週木曜日に」
と応え、老紳士と四〇代くらいの男性は軽く会釈をして出て行った。
二人を見送った後、男性はソファの方でスタスタと歩いてきて、若槻記者と小山田刑事に右手を勢い良く差し出すと自己紹介をした。
「どうもお待たせしまして。ウロボロス代表の天本です。」
「お久しぶりです、警視庁の小山田です。こちらは『週刊出鱈目』の若槻記者です。」
立ち上がった小山田刑事が若槻記者を紹介する。
「ど、どうも。若槻です。」
梅田氏は若槻記者の右手をギュッと握ると
「よろしく。『週刊出鱈目』は結構冒険的な記事をよく書かれますよね。ところで、昨夜の奥様特製のハンバーグは如何でしたか。それから、家で飼われているのは白いプードルですね。息子さんに散歩を任せっきりなのはちょっと残念ですね。」
そう言ってニヤリと笑った。
呆気に取られた若槻記者。その困惑した顔を見てハハハハ…と笑うと、
「な~に、簡単な推理ですよ。それでは別室でご用件をお聞きしましょうか。」
そう言ってスタスタと別室の方へと歩いて行き、ドアを開けたのだった。
別室は四畳程の狭さで、廃材で自作したかの様な木のテーブルを挟んで手前にパイプ椅子がニつ並び、部屋の奥には黒い安楽椅子が置いてあった。部屋の壁際には同じく手作りと思われる本棚があり、冷蔵庫が隅の方にある。冷蔵庫を開けた天本氏は麦茶を取り出し紙コップに注ぐと「どうぞ。」と二人に勧めた。
一口飲んでみるとまだぬるかったので、小山田刑事はソッと紙コップを置いた。
「どうぞ、さっそく始めましょう。」
天本氏の目付きが変わったのを感じた若槻記者は慌てて椅子に座ると黒カバンから資料をバタバタと取り出してテーブルの上に置いた。小山田刑事も着席する。資料を手に取った天本氏は少し身体を揺らしながらパラパラと資料のページをめくって行く。しばらくの間読んでいた彼だったが、机の引き出しを開けて眼鏡を取り出して装着した。
真剣な顔付きの天本氏をジッと見る若槻記者と小山田刑事。シ~ンと静かになった別室。
ふと、若瀬記者は学生時代の座禅体験を思い出した。高校一年生の時にD県の山寺に担任と生徒合わせて四十名が訪問した。一泊二日の予定だったのだが、ジッと座禅をするのがとにかく苦痛で苦痛で、始まって三〇分も経たないうちに足が痺れ、一時間後には便所へ行くフリをして友達二人と逃げ帰ってしまったのだった。当然両親と担任の教師に猛烈に叱られたのだが、他の生徒達からはしきりに羨ましがられた。今となっては良い思い出だ。
そんな昔のコトを思い出しながら額の汗を拭う若槻記者。長い沈黙を経て、すべての資料に目を通し終わった天本氏が資料をテーブルに置くと口を開いた。
「それで……今回私は何をすれば良いのですかね?」
「謎解きに決まってるだろ」と内心ムッとしながら若槻記者が答える。
「実はニュースとして出たばかりやけどよぉ、森田麻美死刑囚の弁護団が裁判所に対して再審請求をした んや。そうなると事件の焦点となってる鑑定結果について争われるコトになるんよ。ウチは上司からこ の難事件の真相を特集記事で書けとプレッシャーを掛けられてまして。何しろこの事件は何度も何度も
マスコミ各社に報道されてるんよが、真相がどなたはんにも判らんのよ。死刑判決が出た森田死刑囚が 果たして冤罪か冤罪では無いかを日本中のみんなが注目してあるわ。先生にやって頂きたいのは事件の 全貌解明よ。どうよ、引き受けてもらえまっか?」
若槻記者は興奮して来たのか段々と身を乗り出して熱っぽく話す。ちなみに上司だろうが年上だろうが敬語を使わないのは若瀬記者の性格だった。これまでも周りから何度か注意されたのだが、雑誌記者は時に無神経に思えるような質問も初対面の人にガンガンする。
丁寧な言葉使いよりもこの方が相手も本音で返してくれると言うのが彼の自論だった。
「この事件を当初から担当した記者はウチよ。事件に関して不明点があれば、判る範囲でウチからご説明 するで。 」
だが、天本氏の返事は拍子抜けする程アッサリとしたものだった。
「不明な点は特に無いですよ。この資料があればもう充分です。せっかくD県からいらしたのですから、 東京見物でもなさって下さい。」
わざわざD県から新幹線に乗って来なくても、FAXかパソコンのメールで資料を送れば良かったのにと言われているようなものである。再びムッとする気持ちを抑えて若槻記者は小山田刑事を見た。彼の方は先輩からの頼みに応えた安堵の表情を浮かべている。
「引き受けて貰えるのですね、有難う御座います。では何日くらいで解明できますか?」
小山田刑事の言葉を聞きながら資料をトントンと揃えた梅田氏。
「そうですね、他の案件も結構立て込んでまして……では明後日で如何でしょう。」
「そがなに早く解明できるものなんかぇ!」
若槻記者が驚きの声を上げたのだが無理も無い。何年も掛けて捜査のプロ達が考え続けて未だに全貌が明らかにされていない難事件なのだ。警察ばかりでは無い。マスコミ各社の秀才達でも真相には辿り着けていないのだ。それをたった二日で解けると言うのだから、若槻記者が驚くのは当然だった。
「ただし、最初にお断りしておかなきゃならないコトがあります。」
そう言って天本氏はフウ~ッと溜息を付いた。
「はい、何でしょうか。」
「私はこの事件の全貌を解明するコトは出来ると思いますが、それが必ずしも警察の見解とは一致しない かも知れないのです。それだけはご了承しておいて頂かないと。」
若槻記者は小山田刑事の方を向いて、二人揃って頷いた。
「それで構いません。それを公表するかどうかは美波先輩……雑誌編集部の判断になりますが、少なくと も日本の人々にこの難事件の真相を伝えるコトが重要ですから。」
小山田の言葉を聞くと天本氏はニコッと笑った。
「判りました。それから報酬の件ですが、電話でお話した通り刑事事件の捜査協力の場合は謝礼は要りま せん。先代からの方針でして。まあ、今回は雑誌社の方からのオファーというコトなので、代わりにお 願いした例の粉は持参して頂けましたか?」
小山田刑事は頷くと、脇に置いていた黒いカバンから手の平サイズの茶色い包みを取り出してテーブルの上にそっと置いた。それを見た天本氏が目を輝かせる。
「おおっ、流石は警察です。混ざり物ナシで間違い無いでしょうな。」
小山田刑事が苦い顔を浮かべた。
「ええ、保管倉庫からコッソリ持ち出すのに苦労しましたよ。バレたら大変ですから。混ざり物は一切ありません。今国内で流通している中では最上級の純度一〇〇%です。それだけの量と純度ですから、末端価格は幾らになるか正直判りません。」
「素晴らしい!私の頭脳を覚醒させるにはコレが欠かせないですからね。」
心底嬉しそうに包みを眺める天本氏。ふと真顔になって
「そうだ、せっかくですからお二人もご一緒に如何ですか?」
と言った。
「せっかくですが別件の捜査があるので。」
「ウチも急ぎで別件の取材があるので。」
とその申し出を断った二人。
「それでは、明後日宜しくお願いします。」
そそくさと挨拶を済ませるとエレベーターに乗ったのだった。
雑居ビルを出た所で事務所を見上げた若槻記者が不安そうな顔をした。
「小山田はん、せっかく紹介して頂いて有り難いのよけどね。あの先生大丈夫かぇね~。事務所はボロっ
ちいし、先生はまだ二十代半ばくらいだし。それにウチは昨夜は家族で寿司屋に行きったんよし、家で
飼ってるのはインコ二羽よ。」
これには小山田刑事も苦笑いをするしか無かった。