後日談
翌日放課後。
「うち、じつはこの作品ばり好きやねん。今めっちゃ嵌っとう」
「そうでしたか。あの、先生。最初の授業の時に言ってた菊池寛とかの作家さんの作品、本当に好きなんですか?」
「いやぁ、べつに。うち、じつは純文学なんて今までの人生でほとんど読んだことないんよ。字ぃばっかりで読む全くせぇへんし。あれは格好つけるため、国語教師としての威厳を示すために言うてん。とりあえず国語便覧に載っとう有名どころ挙げてみたって感じ。そいつらの作品のことよう知らんよ。感想とか解説訊かれたらマジ困ってまうわ~。うち、ラノベかマンガしか読まへんし。女の子達のゆるふわ日常系が特に好きや。このことも、他の子には絶対ナイショにしといてな」
「あらら。俺の昨日までのイメージとは正反対ですね」
「野条君からこれ没収した時、ツンデレ風な態度とれてうち、めっちゃええ気分やったよ」
「あれもそういうつもりでやってたんですね」
「野条君、あの時と比べてちょっと明るなったよね。リアル女の子達に囲まれてコミュ力鍛えられたみたいやね」
「うーん、どうだろう?」
惇平は国語準備室にて、ますます親近感が持てた竹ケ原先生つまり紫織さんから約束通り、没収されていたラノベとマンガ計三冊を返却してもらった。
とはいっても惇平はとっくに買い直していたため、その三冊はその日のうちに近所の古本屋に売りに行ったのだった。テレビアニメ放送中の原作なこともあってか、どれも一冊二百円というなかなかの高値で買い取ってくれた。
紫織さんはそれから約一ヶ月後、なんと月刊漫画誌で読み切りデビューが決まった。彼女の祖父、勇さんの生涯果たせなかった夢を実現させることが出来たわけである。
教師としても、引き続き生徒達や同僚の先生方の前では隠れオタを貫き通し、厳格で気難しい雰囲気を漂わせているそうだ。
(おしまい)




