最悪なことを思い出してしまいました
最近の流行りにのってしましました。深夜のテンションで書き上げたものです。(笑)他の連載作品もあるので、短編でプロローグ的なものにしております。
夏だが淡い青のドレスを身に付け、猫っ毛の髪は高い位置で結って目立ちすぎない髪飾りを添える。お嬢様はまだお若いから唇に色をつける程度でいいですね、と言われて色つきのリップを唇にのせれば、見目麗しい少女の出来上がりだ。
天宮 美鶴若干6歳。
今日はサマーフェスティバルという西園寺グループが主催のパーティーに御呼ばれしているのだ。私の家はトップとまではいかないがそこそこの名家であり、お父様はトップとまではいかないが大きな企業の代表取締役兼社長であり、私はその家の第2子で長女なのでそこそこのお嬢様である。今回のパーティーは社交に出る初めての機会であり、いわば社交デビューの日なのだ。……なのだが。
「……めんどくさいなぁ」
「こら美鶴、そんな事言うものではないよ。」
あら、口に出してしまったわ。
「だって彰お兄様、パーティーに参加している時間を使って私はほかのことができると思うのです。まだまだ知識は足りないのですもの、お勉強がしたかったわ」
「美鶴は頑張り屋だね。けれど、人付き合いも大事な勉強だよ。それにせっかくこんなに綺麗な美鶴が外に出ないなんてもったいないよ。さぁ、迎えが来ているからいこうか」
そう言って、兄は私の手をひいて玄関先に用意されていた車に乗せてくれた。
兄である彰お兄様は私よりも3つ上で、大変見目麗しい。おまけに誰にでも笑顔を絶やさず優しい性格で、頭は相当にキレる、天宮家の嫡男として相応しい大変優れた人だ。それに、妹である私の扱いが上手で、甘やかすのも上手なので、大変自慢できる兄なのだ。将来も周囲の女性が放って置かないだろうことが想像できるし、バリバリ働いているのも想像できる。
「ん?どうかしたのかい?」
じっと兄を見つめていたので、不思議に思ったのか尋ねられてしまった。私はなんでもありませんと微笑んだ。
何故6歳の女の子が兄の将来のことまで想像することができるのか疑問に思う方がいるかもしれないのだが、これには深い理由があるのだ。
私は言わば、’転生者’と言われるものらしい。
それに気がついたのは物心付いたときだった。私は両親から立つのも話すのも早い子だったわぁと未だに言われ続けているし、不意に会話に出た言葉が小さな子供が使うような言葉ではなく難しい単語であったりしたりして周囲を驚かせてきたが、ある日庭で兄と遊んでいる時に外で聞こえてきた車のブレーキの音でぶっ倒れて、数日寝込んでしまった。そこで両親と兄を大変心配させてしまったが、そのあいだに前世というものを思い出したのだ。
20代で社会人になっていて、そこそこの企業で働いていた私。仕事の移動中に車にひかれてそこで意識を失った。まだまだ仕事で結果を残したかったし、お金を貯めて海外旅行もしたかった。やりたいことをたくさん残して死んでしまったのだ。そんな私を神様か誰かが転生という形で救ってくれたのだろうと思い、現世では自分のやりたいことをやれるように、後悔のないように生きていこうと決意した。
まず、何よりも将来役に立つのは勉学だ。そう思って私は自ら勉学に取り組んだ。幸い環境が整っており、両親も親バカ……じゃない、子供思いなので、優秀な家庭教師をつけてくれた。今では兄と同じことを学ばせてもらっている。そのほかにもマナーや社交ダンス、ピアノなどなど、前世でできなくてやりたかったことを習わせてもらって、更に頑張ろうとしている。
それに、来年から通う小中高一環の学園の入試も難なくパスできて、とりあえずの進路は確定している。しかし少し違和感を感じるのは、その学園の名前やら理事長の顔やらに既視感を覚えたことだった。桜ノ宮学園、日本の名家や金持ちの家の子供が通う学園で、理事長は神楽という性だった。……やっぱり聞いたことがあるなぁ、と考えていたら、それから私の周囲のもので同じように感じる機会が増えた。
最近で一番おかしいな、と思ったことは兄である彰お兄様の高校生の姿が鮮明に想像できたことだ。これは少しありえない。しかし、考えても理由はわからないので気にしないように努めている。……でもなぁ、やっぱりなぁ。
ぐるぐると考えていると、会場についてしまった。中に入ると、企業のお偉い様や名家の方々がうじゃうじゃ。うわぁめんどくさそう。前世が庶民な私からしたら、やっぱりこんな空気は耐え難い。それでもお兄様は笑顔で周囲に挨拶をしているので、やっぱりよくできた兄だと思う。
私たちはお父様に連れられて様々な人に挨拶をさせられた。私の初めてのお披露目でもあったし、しょうがないことなのだと自分に言い聞かせてついて回った。余談だが、お父様が過剰に私を自慢するので、その訂正と相応しい態度をしようと努めたことで疲れが2倍になったのは言うまでもない。
やっと挨拶回りが終わり、食事でも楽しんでおいでと言われたので、私は会場の隅に言ってウェイターに飲み物を頼んで休憩をしつつ会場の人の動きを観察した。大人ばかりかと思いきや、そこそこ子供も参加しており、皆それぞれ着飾っている。お兄様は知り合いなのか同年代の女の子達に囲まれており、優しい笑顔を振りまいていた。……あれは、お兄様も疲れるわよね。
そんな中、私はこれまた見目麗しい、私と同じか1,2歳年上の美少年を見つけた。彼も親と挨拶回りを終えたのか、大人の輪を離れようとしていたのだが、自分を見ている私の視線に気がついたのか、彼もこちらを見つめてきた。
あら、またこの既視感だわ。
どこかでこの男の子にあったことはあったかしら、と考えて首をかしげていると、少年はばっと視線を思い切り逸らしてしまった。そうしてそのまま会場を出て行ってしまう。何だったのかしら。
しばらくすると、飲み物を飲み干してしまったのだが、会場が暑くなってきてたえられなくなったので、私も会場の外に出た。出てすぐそこにはバラなどの花がたくさん植えられており、中心には噴水があって綺麗に整備されている庭が目には入った。水の音は涼やかで、涼むのには丁度良い場所だった。
かなりの大きさの庭だったのでしばらく散歩してみようかな、と考えていると何やら庭の隅で動くものが目に入り、好奇心で近寄ろうとすると、なにやらくぐもった声が聞こえてくる。……もしかして、男女がお楽しみ中だったのかしら、と離れようとしたのだが、人影からして男が二人と子供が一人だったので、どうやら違うようだ。
「……っ!……!」
くぐもった声は布か何かで口を封じられているような声で、何かを訴えようとしているものだった。……もしかして。
一瞬で私の思考が駆け巡った。何か無いかと私は周囲を見回し、その人影がある少し離れたところに庭に水をまくためのホースが繋がった蛇口を見つけた。……これだわ!
私は音を立てないようにそこまで近づくと、ホースの先を持って思い切りその蛇口をひねった。そして、ホースの先をその人影に向ける。
当然のごとくホースからは大量の水が吹き出た。
「うわっ!!な、なんだ、」
「……っ!」
男の二つの人影は驚いてこちらを向いたが、私は更に蛇口をひねって自らにかかることを厭わずに水の量を増やした。そして。
「きゃぁぁぁぁ!……誰か!!誰か助けて!!」
そう張り裂けんばかりの声を上げた。
そうすると、男たちは慌てて抱えようとしていた子供をその場に残して、どこかへ行ってしまった。
私は蛇口を閉めるのを忘れ、ホースを離してその子供に近寄る。その間に暴れたホースからでる水が思い切り全身にかかってしまったが、気にすることはない。だって、今この子供はさらわれそうになっていたのだもの。
「大丈夫ですか!?」
「……だ、いじょうぶだ」
手を差し伸べると、こちらを向いた子供の顔がようやく見えた。……あの先ほどの美少年だ。
彼は塞がれていた口が解放されて咳を繰り返していたが、背中をさすってやると落ち着いてきたようで、そのままほっとしたように地面に座り込んだ。
そんな中騒ぎを聞きつけた大人たちが庭に駆けつけてきて、事情を聞くと大人たちはすぐに動いてくれた。そしてびしょ濡れの私たちをみると、タオルやら着替えやらの用意で二人して別室に連れて行かれた。
その道中で私の姿を見かけたお父様とお兄様は、何故かよくやった、と頭を撫でてくれたのだけれど、もしかして何か気づいているのかしら。
体を温めるために飲み物を用意されて、着替えもさせてもらい、ふいに部屋で例の美少年と二人きりになると、かれはやっと口を開いた。
「……もっと上手い助け方はなかったのか?」
む。開口一番にそれですか!?と言いそうになるのをグッと抑える。
「だって、私が突っ込んでいったら私まで同じ目にあっていたかもしれないじゃないですか。」
「だが、おかげで誘拐未遂犯を逃してしまったではないか」
「あら、この会場は中々の都会にありますし、びしょ濡れの大人が目に付かないわけがないでしょう?おそらく今頃は捕まっていますわ」
「……もしかして、そこまで考えていたのか」
「まさか。自分の保身を考えただけです。ただ叫んでいたら私にまで向かってきてしまうことが想像できましたので」
「……」
そこまで言うと、こちらを睨むように見て美少年は黙ってしまった。外見はこんなに美少年なのに、もしかしたら性格は悪いのかもしれない。お金持ちの子供にありがちな’俺様’とかいうやつかも。……また、あの既視感だわ。
首をかしげていると、お父様とお兄様が部屋を訪れた。
「さて美鶴、そろそろ帰ろうか。連絡を受けたお母様が心配している」
「まぁ、それは申し訳ありません。早く顔をおみせしなければいけませんね」
そう言って帰る仕度をし、軽く美少年に会釈をしてお父様とお兄様の背中を追い、その部屋を後にしようとすると、不意に後ろから腕を掴まれた。
そうした本人を振り返ると、少し照れくさそうに、それでもこちらをまっすぐ見つめて美少年は告げた。
「俺は西園寺 翔也だ。今回の件、心から感謝する。……ありがとう」
その瞬間、私の体に雷を落とされたような衝撃が走った。
……まさか。まさかまさかまさか。
何だか意識が遠くなってきて、身体をよろめかせる。そんな私の様子に気がついたお父様とお兄様が駆けつけて来た気配を感じながら、私は意識を手放した。
そうして私は思い出すことになる。
私が転生したこの世界は、前世で私がバイブルとしていた少女漫画の世界であり、美少年、西園寺翔也はそのヒーローで、お兄様はヒロインと彼と三角関係になる登場人物。……そして私は。
将来自身の婚約者になる西園寺翔也とヒロインとの仲を裂こうとする悪役であることを。
読んでいただき、ありがとうございます。
もしかして需要があったら続くかもしれません。