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内緒の魔王くん  作者: 如月結花
第1話「内緒の魔王くん」
3/63

1話目・その3

 朝…鳥の鳴き声が、エルの意識をまどろみから呼び覚ます。

 時刻は不明。だが、グラゼルが起こしに来ていない様子を見ると、まだ起床時間よりも早いようだった。

 ボーっとした頭でそんなことを考えながら部屋の中を見回していると、すぐにノックの音が聞こえてきた。

「グラゼルでございます。失礼致します。」

 ドアの向こう側から声をかけると直ぐ、グラゼルはドアを開く。

「起きておられましたか。おはようございます、エル様。」

 まだ寝ているだろうと思っていただけに、ドアを開いた彼は一瞬目を見開いた。

「くぁぁ…ちょうど今起きたところだ。」

 エルは気付くこともないようで、欠伸あくび混じりに返事を返す。

「それでは、顔を洗っていらして下さい。朝食の準備は出来ております。」

「ああ、すまぬな。」

 眠たそうに欠伸を繰り返しながら、エルは言われた通り、顔を洗う為に部屋を出て行く。

 向かった先は洗面所という個室で、そこに設置される洗面台で顔を洗い眠気を払ったエルは、リビングへ行き食事の席に着く。

 そして用意された朝食を平らげる。

 エルが食べ終わったのを見計らい、側に立っていたグラゼルは、エルに言葉をかける。

「さて…エル様、本日から学校で学ぶこととなりますが…くれぐれも魔法を使わぬようお願い致しますぞ。」

 人間界では魔法は使うな、とは最早、何度聞いたか分からない台詞ではあるが、昨日のこともあり、一蹴することも出来ないエルは素直に頷いておいた。

「分かっておる。昨日のような愚は二度と犯さぬ。」

「それならば結構でございます。」

 グラゼルは、エルが本心から反省している様を読み取り、これ以上は口煩く言うことはしなかった。

「ではエル様には、こちらの制服に着替えて、学校へ行って頂きます。」

 言いながらサッと取り出したのは、私立久十里学園の制服。

 ワンポイントの入った白のワイシャツ、目が痛くならない程度にトーンを落とした赤のネクタイ、黒を基調としたブレザーは、肩に校章の入ったものだった。

「ほう…これが学園の制服か。学園の生徒は皆、同じ服を着ているのだったな?」

「正確には男女では異なる制服ですが、男子は全てこれと同じものを着ていることになりますな。」

「女子の制服はどのような物なのだ?」

 早速寝巻きを脱ぎ捨て、制服を順番に身に着けていきながら、エルは更に質問をする。

「それはこちらの資料に載っております。」

 学校案内の分厚いパンフレットを数ページ捲ると、老執事は着替え中のエルに、開いたページを見せる。

「なるほどな。取り敢えずこの二種類の制服を着た者達は、我が学ぶ上での障害になる…と。」

「いえ、学校というものは平等に知識を教えるものでございますから、決してエル様の障害になることはないでしょう。」

「そうか…では気に留める必要もなかったな。」

 そんな話をしている内に、エルは着替えを完了させた。

 時刻は8時を過ぎたところで、家を出るには少し早いが、決して早過ぎるといった時間でもない。

「では、行って参る。」

 既に制服を身体の一部のように着こなしたエルは、立ち上がると、執事にそう告げる。

「あ、エル様…。」

 出立を告げられたグラゼルは、何かを思い出したように声を上げる。

 その声に対するエルの反応は早かった。

「大丈夫だ、心配するでない。カードキーはちゃんと持っておる。」

 言いながら、自信に満ちた態度を見せる。

 そう、先日の愚は二度と犯さない。

 と言いたげな表情であった。

「ならば、問題ありませんな。エル様、いってらっしゃいませ。」

 少し可笑しそうにしながら、グラゼルは一礼し、エルを見送った。




 魔王の息子、エル・ヘッシェルヴェン・ロアキーヌ・ド・サタン。

 彼は人生で初めて、人間の学校という未知の領域へと足を踏み入れた。

 魔界に於いても魔人が人間の学校に通うなど前例が無かったが、そのことすら、生まれながらの天才である彼にとっては、自分の価値を上げる勲章のような物にすら思えていた。

 天才とは、凡人には出来ないことに挑戦する者…それが彼の持論であり、天才と評されることに対する生き方の指針となっていた。

 自分は誰かが既に歩んだ道程を辿ることは決してしない。

 生き方は全て自身が作り上げるものなのだ。

 だからこの場に居ることに対して、期待を募らせることはあれど、一切の不安はなかった。

 入学式に於いて、この数百という人間達の中に混じって堂々とその場に立つ。おおよそ一般的な魔人の心境ではありえなかった。

 そんな悠然たる態度を示すエルのことを、不審がる人間などいるはずもない。

 顔立ちは外国人のそれらしく、エルのことを一瞥する者はちらほら存在したが、外人に対する興味以外の感情は持たない。

 学園長の挨拶、来賓祝辞、新入生代表挨拶、在校生代表挨拶…進行は滞りなく行われ、その後、エルを含めた新入生達は各教室に振り分けられた。

 エルの教室は1-D。玄関口から最も遠い教室だった。

 人間達は黒板に張り出されている紙を見て、自分の名前を探し、指定された席に着く。

 それに倣ってエルも黒板の用紙から自分の名を見付け出す。

 教室の右後方、廊下側の一番後ろが、エルの席だった。

 他の人間達と同じようにエルも席に着くと、教室内の人間達の動向を観察した。

 大半の人間は各々、席の周囲の人物と喋っているようだった。

 もっとも、それらの一部は、見慣れない外国人という立ち位置であるエルの去就に興味を募らせている様子だったが。

 注目されるのは悪い気分ではないが、時折会話の内容までも聞こえてくるので、居心地が良いとは言えない。

 その会話の内容というのも別に大したものではなかったのだが、周囲に不審がられてはいけないと多少なりとも意識していたエルは、会話を気に留めていない風に振舞うのに少しずつ疲れてしまっていた。

 だからなのだろう、教師が入って来たことで人間達からの注目が逸れた際に、自分でも分かるくらいに気が緩んだと感じたのは。

 教師は人間達の注目を受ける中、平然と教壇に立つと、直ぐに自己紹介を始めた。

長谷川はせがわ ただしだ。今日からお前らの担任になる、よろしくな。」

 この長谷川という教師は、親しみやすい雰囲気を持ち合わせていた。

「まぁ俺のことは名前だけ覚えてくれれば良いぞ。困った時は何でも相談に乗ってやるけどな。それより同じクラスメイトの紹介のが大事だよなぁ、1年間顔を合わせることになるんだから。」

 そう言うと長谷川は、彼から見て教室の左後方…つまり、エルの座る席に視線を向ける。

「お前ら皆、気になってるだろうからな、まずはお前だエル。自己紹介してくれ。あ、日本語大丈夫か?」

 教室内が少しざわついた。エルに興味を持っていた人間達は軒並、教室の右後ろを振り返り注目する。

 エルは突然指名されたにも関わらず平静を保ち、教師の言葉へ返答する。

「大丈夫だ、問題ない。」

「そうかそうか。それじゃ自己紹介を始めてくれ。皆期待してるだろうからな、期待を裏切らんようにな。」

 長谷川は冗談っぽく笑いかける。

 期待を裏切らないように…などとハードルを上げられ、エルは瞬時に思い悩む。

 皆の望む期待というのが、どのような期待なのかが、彼には分からない。

 しかし、黙っている訳にもいかず、クラスメイト達の視線に急かされると、不思議と焦燥感が迫ってくる。

 だから彼は思考を巡らせ、一早く皆の望む、期待するであろう、何かの答えを導き出そうとした。

 そうして一周した頭は、彼の口から、とんでもない台詞を吐かせた。

「我はエル・ヘッシェルヴェン・ロアキーヌ・ド・サタン。近い将来、魔王となる。」

 ハッと、気付いた時には手遅れだった。

 教室内はその一言で静まり返り、教師である長谷川ですら、唖然とした表情でエルを凝視していた。

 その沈黙を破ったのは、どこからともなく漏れる、笑い声だった。

 我慢し切れなくなった誰かが笑い声を発すると、連鎖するようにクラス中に笑いが広がった。

 エルからすれば、これが何故なのか理解出来ないでいる。

 だが、理解こそ出来ないものの、これが嘲笑だということは流石に分かった。

「おいおい、お前達そんなに笑っちゃ失礼だろ。日本の漫画の影響ってのもあるかもしれないし、むしろそういう風に笑いを取ろうとしたんだろ、ユニークで面白い奴じゃないか。」

 長谷川もそうフォローはしながらも、笑いを堪えている様子だった。

 ようやく笑い声が聞こえなくなると、

「よーし、じゃあ次はエルの前の席の、えーと、渡辺お願いな。」

 気を取り直して、といった感じに、自己紹介は再開された。

 が、他人の自己紹介など全く耳に入らず、エルの思考は先程の不可解なクラス中の笑い…それにあった。

 だからクラスメイトの名前を誰一人として覚えられなかった。そのことに気付いたのは、思考を遮るようにして、チャイムの音が鳴り響いた時だった。




 10分の休み時間を挟み、学校の基準で言うと3限目がやってきた。

 休み時間中は、先程の自己紹介の所為か、誰もエルに話しかけたりする者は無かった。

 話しかけることが無いどころか、大半の興味を失ったように、エルの話題を出す者は少なくなった。

 人間と仲良くなることで、自分が人間ではないと気付かれてしまう可能性もあったので、結果的にはこれで良かったのかもしれない、とエルは考える。

 それに、人間界には勉強をしに来たのだ。友達を作りに来た訳ではない。

 本来の目的さえ見失わなければ何も問題はない。

 関わり合いにならない方が、互いの為であると言える。

 そう自分に言い聞かせることで彼は自制心を保っていた。

 結局エルの出した答えはこうだった。

 魔法が架空の存在となっている人間界では、魔王というのもつまり空想上の存在。

 元が想像の産物なのだから、それに憧れ、ましてやその人物になりたい、と言うのは…まさに子供が語る夢そのもの。

 恐らくこの年齢まで、そんな幼稚な夢を引き摺っている者は少数で、嘲笑の対象足り得ることなのだろう。

 そんな風に、一先ずの結論を付けたのだった。

 3限目では担任の長谷川が、連絡事項を配ったり、時間割を配ったり、後日学校に提出する書類を配ったり、それらの説明をしたりすると、直ぐに終了のチャイムが鳴った。

 そして本日はこの3限目で終わりらしいのだ。

 1限目は入学式で使い、2限目は自己紹介、3限目に書類を配布しただけ。

 入学初日はこのように終わるのも学校としては普通だが、学校というものを知らないエルからすれば、今日は何をしに来たのか分からない、といった風であった。

「それじゃあ、寄り道なんかせず、気を付けて帰れよ。」

 形式的な礼が終わると、長谷川はそう言って教室を後にする。

 教師が退室するのを区切りとして、生徒達も其々に席を立ち、ある者はそのまま教室を出て、ある者は友達の席の近くへと移動し、互いに声を抑えることなく話し始めた。

 帰宅しても良いというのに残る者がいるなど、人間とはよく分からないものだな…と、エルは心の中で呟きながら席を立つと、自分の背後にあるドアから教室を出て行く。

 廊下へ出ると直ぐに、

「あ、あの…。」

 と、エルの真後ろから声が聞こえた。

 だが彼は自分に掛けられている声だとは微塵も思わず、無視してそのまま歩みを進める。

 そして数歩も行かない内に再び「あの…!」という、先刻より少しばかり力の籠もった声と共に、エルの肩に誰かの手が触れた。

 そこで初めてエルは、自分が話しかけられているのだと認め、その声の主へと振り返った。

 エルの目の前には、エルより15センチばかり身長の低い少年が立っていた。

 少年と判断したのは制服が男子のものだったからで、もし制服を着ていなければ、性別の判断に悩んだだろう。

 それ程に、少年の顔立ちは少女であるようにも見えた。

「我に用なのか?」

 自己紹介を誰一人聞いていなかった為、この人物の名前も分からないエルだが、同じクラスの人間だろう、という想像は容易だ。

 あのような自己紹介を聞いて尚、話しかけてくるとは、一体この人間は何を考えているのだ…と、純粋に口から出た疑問だった。

 一方の少年は、話しかけたはいいが、何を言うか考えてもいなかった様子で、

「えーと…その…。」

 言葉を詰まらせていた。

 その様子を見て、エルは何だか面倒そうな相手に絡まれたのだということを悟る。

「…急ぐので失礼する。」

 口早に少年に告げると、エルはすたすたと歩き始めた。

「あっ…ちょ、ちょっと…待って!」

 慌てて少年はエルを追いかける。

 何故かそのまま後ろを付いて来た少年は、校舎を出て学園の外へと出る辺りで、ようやく言葉を搾り出した。

「あの…エルくん…だったよね。急に話しかけちゃって、ごめんなさい…。でも、ボク…君と話がしたくて…。」

「我からは話すことなど無い。そもそもお前の名も知らぬのだ。」

 関わり合いにならない為に、エルは少年のことを邪険に扱う。

 それで諦めてくれればその方が良いと思っていた。

 しかし少年の方は、エルが自分のことを歓迎していないというのがあからさまであっても、それでも何かを話そうと口を開く。

「夏川 茉莉…!」

「なつかわまつり?」

 エルは何の意味を持つ言葉なのか分からず、きょとんとして彼の方を見遣り、言葉を復唱する。

「な、名前!」

 理解されなかったことに少しばかりショックを受けた様子で、先程のは自分の名前だと少年は補足した。

「そうか、悪かったな。この国の言葉にはあまり馴染みがないのでな、分からなかった。」

 エルは素直に謝罪する。

 これは自分の落ち度を認めた故の謝罪ではあったが、まともに話をするきっかけを与えてしまった結果となる。

「いいよ、そんなの全然。でも…悪いと思ったなら、ちゃんと話しをしてくれると嬉しいな。」

 つまり、この夏川 茉莉と名乗る少年を諦めさせることは出来なくなったのだった。

 エルは観念して、話を聞くことにした。

「…分かった。それで、夏川 茉莉…話とは何だ?」

 エルがそう言うと、茉莉はぱぁっと明るい表情を見せる。

「茉莉でいいよ。その代わり、ボクもエルくんのこと、魔王くんって呼んでもいいかな?」

 屈託のない、悪意とは無縁の純真な笑みを浮かべて、茉莉はエルに言った。

 しかし、“魔王くん”などとは、先程エルが出した結論からすると、馬鹿にされているとしか思えないのであった。

 流石にエルは、茉莉の言葉に怒りを露にする。

「お前、単に我のことをからかいに来ただけか?」

 威圧的な態度で以て、エルは少年にも少女にも類似する顔を睨み付ける。

「そ、そんなんじゃないよ!ボク、君の…自己紹介の時、魔王になりたいっていうのが…あの…本気で言ってるって分かったから、だから…その………。」

 茉莉の慌てようからして、悪気がないのはエルにも伝わった。

 だから次にどんな言葉を発しようというのかを、興味本位ながら待つことにした。

 茉莉はしばらく、「うぅ…。」とか「あの…。」とか「その…。」とか唸って、エルが無言で自分を睨み付けていた為に、怯えて上手く言葉が出てこなかったのだが、やがて言いたい言葉が思い浮かんだように、はっきりとそれを口にした。

「……目指すものがあるのって、かっこいいな…って……思ったんだ。」

 恥ずかしそうにして、少年は自分の思いを告げたのだ。

 エルはそれを聞き終えても、茉莉に何を言う訳でもなかった。

 その沈黙を、継続する怒りだと判断した茉莉は、怖がりつつも、これ以上エルを怒らせないようにしないと…と考える。

「あの…やっぱり…嫌だった、かな…?じゃあ、うん…残念だけど、エルくんって呼ぶよ…。」

 これがやはり一番穏便な解決だろう。

 茉莉としても、本人が嫌がるような呼び方をするのは本意ではないのだから。

 しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。

「好きに呼ぶが良い。」

 一言エルはそう言うと、歩みを速める。

 茉莉は彼の放った一言に目を丸くし、暫し立ち止まるが、直ぐに走って追いかけると、

「良いの?魔王くん、ね、魔王くん!」

 嬉しそうに、エルの背中に「魔王くん」と何度も呼びかけた。

「うるさい、連呼するでない!」

 不機嫌そうにエルは応える。

 台詞や態度とは裏腹に、単なる照れ隠しであった。

 それは誰の目にも明らかだったから、茉莉はにこにこしながら、エルの後ろを付いていった。

 茉莉という少年は、多少なりともエルのことを理解し、敢えてそう呼びたいと言った。

 今まで理解されることのなかった魔王の息子は、相手が事情も知らない人間とはいえ、少なからず理解されたのを嬉しく思い、それを許したのだ。

 魔界では、魔王の息子であるエルが、当然次の魔王になるのだという空気があった。

 故に、彼の心は今まで、一人として他人に解されることはなかった。

 確かに魔王を継ぐ器量も素質も充分あるとエル自身思ってはいるが、周りからはそれ以上の期待が、重圧となって彼を潰しに掛かる。

 いざ魔王に成った後、天才であるエルに対して、魔人達は平々凡々な魔王を期待してはいないからだ。

 人々の期待に応えられるような魔王…そういった意味で、彼の心中は魔王を目指していたと言える。

 だから茉莉から、エルが魔王を目指している、と言われた時、エルは初めて他人に理解された気がした。

 無論、魔界に関する事など知りもしない茉莉が、エルを本当の意味で理解した訳がないのは分かっている。

 だがエルは、茉莉は魔界の事情など知らなくても、自分の心を理解してくれたのだ、と感じていた。

 むしろ事情を知らないからこそ、彼が魔王を目指していることに気付けたのかもしれない。

 孤独だったエルには、それだけで茉莉のお願いを容認するだけの価値は見い出せていた。

 だからこそ、

「ところで、用はそれだけか?」

 いつまでも笑みを浮かべて付いてくる少年に、自ら問うことをした。

 問われた本人はというと、“魔王くん”と呼ぶのを許された安堵感で、すっかり本題を忘れていたらしく、

「あっ…!」

 と、思い出したように、素っ頓狂な声を上げた。

 それから何を言うつもりなのかと思い、エルは茉莉を観察するが、

「うーん…でも…やっぱり…。」

 中々本題に入ろうとしないのである。

 しかし、遂に決心を固めたように一度頷くと、こんな前置きをした。

「あのね、ちょっと変な質問だと思うかもしれないんだけど…。」

「構わぬ。別に我はどのような質問をされようが、気にはせぬぞ。」

 それほど言い難いことなのか、と逆に興味が湧いたエルは、自然に先を促す。

 だから油断していた。

 まさか人間である茉莉が、人間として認識しているはずのエルに対して、それを聞くなど、これっぽっちも想定していなかった。

 茉莉が口にしたのは、エルが最も『無い』と思っていた質問だったのだから。

「ね、魔王くんってさ…ひょっとして魔法、使えたりしない?」

  全てを見透かすようにも、純真無垢にも見える笑顔を浮かべながら、茉莉は唐突に、エルが知られてはいけない秘密を、質問として投げかけたのだった。




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