3日目 僕の“力”
衛の能力検証回です。蛇足感が否めません;
もっと短くまとめられるよう、精進したいです。
僕がこの世界へ来てから、早いものでもう三日が経つ。
未だに元の世界へ戻る方法が分からなくて、何より命を狙われたりもして
不安は山積みだけれど、今は『国境警備隊』の皆さんに守られ、なんとか
やっている。
だからこそ、今度は僕が、誰かを守れるようにならなきゃ……。
その為に、ガルゥさんが計画した「検証実験」が、ここ『国境警備隊』訓練場で
行われようとしていた。
「ようし、全員揃ったようだな!」
朝も早くからずらりと整列した『国境警備隊』の皆さんを前に、僕は緊張を隠せなかった。
これから一体、何が始まるんだろう?
「ではまず、今回の「検証実験」についていくつか注意しておきたい。
一つ、今回の検証は『マモルに備わった力』がどういった状況で、どの程度
作用するのかを調べるためのものだ。何が起きても良いよう、しっかり準備しとけ。
二つ、お前達はなるべく実戦を想定した動きを心がけるように。どんだけ
素晴らしい力だったとしても、実戦で通用しなきゃ意味がないからな。
そして三つ……」
三つ目を言いかけて、ガルゥさんは向かって左側にある、観客席のようなスペースを
指差して、申し訳なさそうな顔をした。
「今回、国王陛下が是非に見学したいとの要望を賜ったので、特別に
同席して頂くことになった!お前達、絶対へまはするなよ!」
「「おおーっ!!」」
「……え!?」
僕は、思わずその方向を二度見した。
席の方には、ご丁寧に『国王様専用』と書かれた垂れ幕が掲げられて
いて、しかも、既にそこには国王様が座っていた。
今にも身を乗り出してはしゃぎ出しそうな、無邪気な笑顔がそこにあった。
「はっはっは!マモルの「力」が拝見できるとあっては、私もいてもたっても
いられなくてなぁ!皆の者、私に構わず存分に検証してくれたまえ!」
(国王様、思ってたより見た目若かったんだなぁ……。
って、何やってるんですか!仕事はいいの!?)
僕は心の中でツッコミを入れつつも、小声でガルゥさんに問いかける。
「ガルゥさん、本当にいいんですか!?国王様に万が一の事があったら、僕……」
「あ?だから言ったろ。「へまはすんなよ」って」
「そういう問題で済ませていいのかって言ってるんです~!」
「大丈夫大丈夫、俺達を誰だと思ってんだ?ベルグランデの護りの要・『国境警備隊』
だぞ?そんなに信用ならないか?」
「う、うぅ~~……」
もう、こうなったらなるようになれだ。なるべく国王様との距離を開けて
被害が及ばないようにしておくしか、僕に出来ることは無い。
かくして、危険を顧みない「検証実験」がスタートした。
「ようし、最初は槍兵隊、前へ!」
「「おおーーっ!」」
「え、えぇ!?」
いきなり僕の向かい側に、立派な鎧を着こんで木の槍を構えた隊員さん達が
一列に並ぶ。ふと、僕の脳裏に、テレビでよく見かけた車の耐久テストが
思い浮かんだ。
(え、まさかこれが実験っていうんじゃ……?)
「マモル、お前は力を発現させた時のことを思い出せ!
じゃないと、あいつらに串刺しにされちまうぞ!」
「そ、そんなこと言われても……」
「マモル君、しっかりねー!」
「ふれーふれーマ・モ・ル・さん!」
「マモルぅ!一丁吹っ飛ばしちまえー!」
困惑する僕をよそに、第三部隊の皆さんはマイペースというか何というか。
いつ作ったのか『がんばれマモル!』なんて旗まで振って、すっかり
応援する気満々だった。
(応援する位なら、アドバイスの一つでもかけてくれれば……)
「お前ら、いつものように突撃だ!かかれーっ!」
「「うおぉーーっ!!」」
そんな僕の心の声を聞き届けるはずもなく、猛烈な勢いで突進してくる隊員さん達。
(え、えーと……あの時のこと、あの時のこと……!)
僕は必死に、今までの経験を思い起こしていた。
刃物が僕に向かって飛んできた瞬間、黒装束の人達に襲われた時――。
すると、目の前にうっすらと「透明な壁」のようなものが現れたではないか。
(こ、これってまさか……)
僕が思うのより先に、槍を構えて突撃してきた隊員さん達が見事に吹き飛んで
いったのを、たしかにこの目で見届けた。
瞬間、第三部隊の皆さん以外の隊員さん達は、何が起こったのか見当がつかない
といったような、仰天の眼差しを僕へ向ける。
「おい、今の見たか!?」
「お、おう……一体どういう能力なんだ?」
「槍兵隊が、ああも簡単に押されるとは……」
待機している隊員さん達が、にわかに動揺しているのを感じた。
それとはうって変わって、ガルゥさんは満足そうな顔をしている。
国王様に至っては、思った通り目を輝かせて感嘆の声を漏らしていた。
「っはは!やれば出来るじゃあないかマモル!
さて、どんどん行くぞー!次、弓兵隊!」
続いて、軽装の弓を手にした隊員さん達が、一メートル程の間隔を開けて
僕を円形に囲むようにして配置についた。
「弓兵隊、準備完了です!」
「ようし、撃ち方用意!」
「はっ!撃ち方用意!」
合図に従って、矢じりの部分を鉄のものから怪我をしないような加工を施された
矢が、僕へ向けられる。
流石にこの数は、さっきの「壁」じゃ防ぎようがない。
「放てーっ!」
かけ声の後、僕目がけて四方八方から矢が飛んでくる。
(うわぁっ!き、来たぁあ!)
僕は怯えるあまり、思わずその場にかがんでしまった。
しかし、背後から飛んできた矢の気配はなく、何かが弾かれるような音が
数回鳴っただけ。
「おお、なんと素晴らしい!」
「……え?」
国王様の驚きを含んだ声が響いて、ようやく僕は起き上がる。
なんと、僕の周りを覆うようにして、さっきの「壁」が半円状に広がっているじゃないか。
その近くには、隊員さん達が放ったと思われる矢がまばらに転がっていた。
「ぬぉおー!いいぞぉマモルー!がははは!」
「凄いわ!全周囲からの攻撃まで防げるなんて!」
「マモルさーん、かっこいいですよ~!」
「……へぇ」
先程まで本を読みつつ座りこんでいたサイファさんも、こちらへ目を向ける。
「ほおー、まさか周りを囲まれた状況でも出せるとはな!こいつは驚いた!
しかし、先程といいお前の能力は「防御」に特化したもののようだな」
「はい、そうみたいで……」
「力を出す時、強く意識している事は何かあるか?」
「いえ、特に――。さっき言われた通りに、この「壁」が出せた場面を
イメージしてはいるんですけど……」
「そうか。だとすると、マモルの意志とは関係なく発現している可能性もあり、か」
そう言うと、ガルゥさんは徐に、僕に向かって小石を投げつけた。
突然のことで反応できなかったが、急に「壁」が現れ小石を弾いたのには
僕も一瞬、呆然とするしかなかった。
「え……?うわっ!い、いきなり何するんですか!」
「いやぁ、仮説をその場で証明してみたくてな、ついやっちまった!
よし、次は物理攻撃以外で試してみるぞ」
(え?物理攻撃以外って、まさか……)
嫌な予感は当たるもので、ガルゥさんは、喜び浮かれる第三部隊の方々へ顔を向けて
「来いサイファ、お前の出番だ!」
「はい」
と、サイファさんへ声をかける。
呼ばれたサイファさんは、面倒臭そうに立ち上がると、杖を手にして
僕の反対側へ。こ、これはやはり……。
「サイファ、手加減はなしだ。警備隊随一の術技、国王に披露して見せろ!」
「ふぅ……了解」
気怠そうに返事をすると、あの時持っていた杖を構えて、真剣な表情に変わるサイファさん。
「ってわけで、君ー、ちゃんと守れよー」
「え?い、いきなりですかぁ!?」
うろたえる僕を気にする事なく、あの時の呪文を唱えるような呟きが始まった。
『水よ……我が名の元に、猛り狂う流れとならん――“激流”!』
瞬く間に、サイファさんの周りを水の渦が取り囲んだかと思うと、今度は
それが、まるで生き物のように僕目がけて、勢いよく飛んできた。
「おお、これは見ものだ!」
「『国境警備隊』いちの魔導士、サイファの術式をも受け止めるのか?」
「頑張れ坊主ー!」
「え、えぇえ!?」
他の隊員さん達も、僕に声援を送る。というより、外野の皆さんは完全に
この状況を楽しんでる。僕の気も知らないで!
(こ、こんなの防げるわけがないよぉ!)
さっきまでは、相手が「形のある物」を使っていたから良いものの
今度は水。しかも、一目見ただけで大の大人ですらひとたまりもないであろう
激流が、両側から容赦なく襲いかかってくる。
僕は、内心これはだめだ、と諦めかけていた。が、
「何……?」
「……え?う、嘘……」
なんと、僕の予想に反して、水流が「壁」によってその勢いを失っていった。
勢いが失われた、というより、吸い込まれていくようにも見えたけれど……。
これには、サイファさんも目を丸くして、珍しいものを見るような視線を向ける。
「ほほう……術式すら通さないか。こりゃあ参ったぜ!
マモル、お前のその力、俺達『国境警備隊』が欲していた力そのものだ!」
「おおー!誠に見事、見事だったぞマモルよ!」
ガルゥさんに国王様、そして隊員の皆さんが僕に拍手喝采する。
これが、僕の力……すべてを通さない「守り」の力。
ようやく確信できた。この力は、きっと誰かの役に立つものなのだと。
「あ、あのー……こんなムードの中、大変恐縮なんですが……ちょっと
気になる事が」
と、手を挙げたのはアメリちゃんだった。
一斉に視線が、彼女の方向へ向けられる。
「どうしたアメリ?マモルの「能力」と発現条件は大体分かっただろ?」
「はい!確かにその通りです。けれど――もし相手が
『素手で応戦して』きたら、一体どうなるのかなー、って……」
「お?そういや組手を想定してなかったな……基本中の基本を忘れるたぁ
俺も相当舞い上がってたようだ!アメリ、鋭い意見感謝するぜ」
彼女へ親指を立て、にんまり笑ったガルゥさんの指示で、早速配置につく隊員の皆さん。
そして、指名されたのは意外にも、見るからに肉体派なジョーンズさんではなく……
「マルグリット、ちょっとマモルに技をかけてはもらえねえか?」
「はい、隊長!」
「え?マルグリットさん?」
「うちの若いのにぶん殴られて、気絶でもしてみろ。堪ったもんじゃねえ。
それなら……」
そう言って、ガルゥさんはマルグリットさんと目配せをした。
鎧を外し、普段着に近い格好になった彼女が、僕の目の前に立つ。
近くで見ると、より体のラインが際立って否応なくドキドキしてしまう。
「マモル君、お手柔らかに頼むわね。ちなみに、受け身は取れる?」
「は、はははいっ!」
「そう、良かった。では……参ります!」
言うが早いか、マルグリットさんが凛々しい表情を見せて無防備な僕の手を
掴んだかと思うと、次の瞬間、景色が一転した。
ようやく「投げられた」ことに気づいたのは、背中に鈍い痛みを感じてからだ。
(え……?「壁」が出てこなかった?)
呆気にとられて言葉が出ない僕に、マルグリットさんが手を差し伸べる。
「大丈夫マモル君?頭打ったりしてない?」
「は、はい……ちょっと背中が痛いだけです」
「そう、大事にならなくて良かったわ」
彼女の手を取り起き上がったが、意外な弱点が明らかになったことで
ガルゥさんも難しそうな顔をしている。
「ふぅむ……なるほど。今の状況を整理すると、距離を詰められ、尚かつ
素手で触れられると「能力」が発現しないわけか……」
「ならば隊長、彼の力は警備よりも、捕縛や護衛に向いているのでは?」
「そうだな。検問中にいきなり組み伏せられたら、手も足も出ねえ事になる」
「その点は問題ありません。私達がマモル君を、意地でも守り抜きますので」
「ははっ!いい返事だ!そうこなくちゃな!」
マルグリットさんの嘘偽りのない態度を見て、ガルゥさんはひとまず安心した様子だ。
そして、僕に視線を向ける。
「マモル、これからはお前にも、国境へ足を運んでもらうことになる。
だが無理強いはしない。気持ちに整理がついたら、俺に言ってくれ」
「は、はいっ!」
「よーし!これにて「検証実験」は終了!各自本日の任務へ移るように!
それと、ご多忙にもかかわらず来席頂いた、国王陛下へ感謝の意を!」
「「陛下、ありがとうございました!!」」
お礼を言われた国王様は、頷きつつ笑顔で手を振った。
「はっはっは!こちらも良いものを見せてもらった!警備隊の諸君、誠にご苦労であった!
マモルよ、今後のそなたの活躍、期待して待っているぞ!」
では、と一言締めの言葉を述べて、国王様は数人の兵士に警護され、お城に戻っていった。
僕は何事も起こらなかったことにほっとするも、今後の『国境警備隊』の活動について
些か不安をつのらせていた。
隊舎へ戻った後も、その事ばかり考えてしまう。
「マモル君」
うわの空で座りこむ僕に、マルグリットさんが話しかけてきた。
「あっ、ま、マルグリットさん……」
「やっぱり、国境へ行くのは時期尚早かしら?」
「いえ、その……ようやく皆さんの役に立てそうだし、行ってみたい気持ちはあるんです。
それに、国境に行けば、沢山の人の話も聞けるし……僕が戻るためにも、その方が
いいとは感じているんですけど……」
「けれど、あと一歩が踏み出せない感じがするわね」
「は、はい……」
図星を言われて俯く僕に、マルグリットさんは優しく声をかける。
「今すぐ結果を出さなくてもいいわ。それによってマモル君に危険が及んだり
十分に力が発揮できなければ、そちらの方が損失だもの。けれど、忘れないで」
「な、何でしょう……?」
「私達は、絶対に君を守る。だから、私達が危なくなったら、マモル君も
出来る限りでいいから守ってちょうだいね。約束よ?」
「……は、はいっ!」
彼女は、女神のような優しい微笑みで、僕に応えてくれた。
(そうだ、自分に何が出来るかを考え過ぎて、行動できなくなったら駄目だ!
明日から国境へ行こう!悩むより先に動かないと!)
そう、僕は強く決心した。授かった「守りの力」と共に。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。