2日目―1 お仕事開始!
急な体調不良を受け、更新が伸びてしまいました。
楽しみにして下さっている方には、誠に申し訳ありません。
それでは、ご一読下さい。
「う、うぅん……」
気がつくと、僕はまた隊舎のベッドの上にいた。
寝ぼけ眼で起き上がり、周りを見回すと、窓から光が差し込んでいることが
分かった。
(そういえば、あの後僕……)
話は、昨日の夜まで遡る。
僕はガルゥさん達に酒場へ連れて行かれた後、隊の皆さんから
手厚い歓迎を受けた。
「ほおー、君が新しい隊員か!しっかしチビだなぁ!」
「なっ、からかわないで下さい!」
「ははは!怒った顔がなんとも愛らしいねぇ!」
「こるぁお前ら!酒が回ってるからって、新人君をあんまりいじめんなよ?」
と、ガルゥさんが僕をからかう隊員さん達に睨みをきかせてくれた。
そして、僕の隣りへ徐に座る。
「よう少年、楽しんでるか?」
「は、はいっ!なんか申し訳ないです、僕のためにこんな……」
「へへっ、そりゃあ俺らが酒盛りするための口実だ!気にすんな!」
「え、えぇー……?」
ガルゥさんはにやにやしながら、僕に話しかけてくれた。
(こんな事、ここ数年無かったなぁ……誰かと話して、笑って……)
「お?少年、なんか考えてたな?」
「えっ!?なんで分かるんですか?」
「にしし、俺様の「野生のカン」を舐めてもらっちゃあ困るな!
ちなみに、今考えてたこと当ててやろうか?」
「そ、そんな!いくらガルゥさんでもそれは無理でしょう?」
「ちょーっと待ってろ……うーーむ……よし、分かった!」
そう言って、ガルゥさんは僕を指差し、ドヤ顔で言い放つ。
「ずばり、少年は今「マルグリットさんってどんな下着つけてるんだろう?」
と考えていた!どうだ?当たってるだろう?」
「あ、えーと……」
外れです、なんて素直に言えない雰囲気に、僕は返答を躊躇ってしまった。
ガルゥさんはそんな事もお構いなしに、期待の眼差しで僕を見つめてくる。
なんだか気まずいなぁ、と感じたその時。背後から野太い声がした。
「おう坊主!お前が期待の新入りなんだってなぁ!がっははは!」
「うぇっ!?」
「お?なんだジョーンズか、どうした?俺が少年と絡んでて羨ましくなったか?」
「そんなこたぁねぇっすよ、隊長!
この警備隊の明日をしょって立つかもしれない奴が、どんなもんなのか
確認しに来ただけでさぁ!がっはは!」
背後から現れた、ジョーンズと呼ばれた長身で筋骨隆々の隊員さんに
僕は思わず驚いてしまった。真顔で話しているガルゥさんを尊敬してしまう程に。
と、ガルゥさんが思い出したような表情をして、周りの隊員さん達に声をかける。
「おいお前ら、第三部隊の面子をここに集めてくれ!」
「「うーっす!」」
何十人という人だかりから、僕を警備隊に引き入れてくれたマルグリットさん、大男の
ジョーンズさん、そして、細身の眠そうな顔をした男性と、僕と同い年くらいの可愛らしい
ショートパンツ姿の女の子が並んだ。
「紹介しよう少年。こいつらが、君が明日から配属になる第三部隊の面々だ!
さあ、自己紹介の時間だぜ!」
ガルゥさんの一言をきっかけとして、第三部隊の皆さんが話し始める。
まずはマルグリットさんが、僕の前に出た。
「私のことは、もう知ってるわよね?
改めまして、私は第三部隊隊長のマルグリットよ。宜しくね、マモル君」
「は、はい……こちらこそ!」
(た、隊長さんだったの!?やっぱりすごい人だったんだ……)
「がっはは!こいつの名前はマモルってのか!よろしくなぁ!
俺は切り込み隊長のジョーンズ!頑丈さだけは誰にも負けねぇぞ!」
「よ、よろしくおねが、い、いたたたた!」
「おお?わりいわりい!俺ぁ力の加減がきかなくてなぁ!がははは!」
ジョーンズさんは、気軽に握手を求めてきてくれたけれど、握力が
半端じゃない位に強くて、握りつぶされるかと思った……。
「………」
「おい、次!ってかもっとシャキッとしろ!」
「……ふぁ~あ。ども、俺はサイファ。魔導士だ。よろしく」
「ど、どうも……」
続いて紹介されたサイファさんは、見た目通りのやる気がなさそうな人だ。
髪の毛はぼさぼさで耳が隠れるくらいあるし、佇まいからして既にやる気がない。
「そ、それじゃあ、最後はボクですね」
と、僕の目の前に躍り出てきたのはさっきの女の子。
礼儀正しくお辞儀をしてから、僕の目を真っすぐ見て話し始める。
「は、初めまして、マモルさん!
ボクはアメリといいます!主に傷病人の治療や、野盗たちの捕縛を担当しています。
よろしくお願いします!」
「あぅ、よ、よろしく……」
アメリちゃんの、太陽のような明るい笑顔に、思わず僕もドキッとしてしまう。
オレンジ色の髪に、ふわふわのボブカット。まさに太陽そのもののようだ。
「さーて、紹介はひと通り済んだな?
少年……じゃなくてマモル、こいつらが、これからお前が世話になる面々だ。
よーく覚えとけよ?」
「はっ、はいっ!」
「よっしゃ、そんじゃあ飲み会再開ー!」
「「うおおーーっ!」」
(そうだ!僕はあの夜、第三部隊の方々を紹介されて、それで……あれ?)
それからの記憶が飛んでいる。一体、あの後何があったんだろう?
別にお酒を飲まされたわけでもないし、どうして覚えてないんだ?
「あら、マモル君。おはよう。昨日はよく眠れた?」
「……え?」
声に反応してその方向を見ると、タオル一枚で体を覆ったマルグリットさんが……!?
「え?えぇーーっ!?」
「ど、どうしたのマモル君?何か嫌な夢でも見た?」
違います!あなたの格好に驚いて恥ずかしいだけです!
僕は顔を伏せて、必死にマルグリットさんを見ないようにした。
「ま、まままるぐりっとさん!ななな、なんでそ、そんなかっこう……!」
「え?あ……ご、ごめんなさい!
ついいつものようにしていたから、気がつかなかったの。
すぐ着替えてくるわ!」
マルグリットさんも、僕の様子で気づいたのか、慌てた様子でその場を後にした。
というか、「いつものように」って言ってた?
(ま、まさか僕、昨日マルグリットさんの部屋で……!?)
混乱状態の頭を抱えながら、僕はベッドの上で、しばらく悶えていた。
ようやく隊舎を出た時、辺りがしんと静まりかえっていることに気づく。
「あれ?隊員の皆さんはどこに行ったんだろう……?」
僕が頭に疑問符を浮かべていると、丁度向こうから歩いてくる大きな人影が。
あの大きさは、間違いない。ジョーンズさんだ。
「おおー!マモルーー!やっと起きたかこの寝ぼすけめぇ!がっははは!」
「ジョーンズさん、おはようございます!」
「おう、おはよう!もうすぐ日が昇っちまうがなぁ!」
相変わらずの豪快な笑い声を響かせて、ジョーンズさんは僕の頭を
くしゃくしゃと撫でる。まるで力加減を知らないので、頭が痛いのが
気にかかるけれど。
挨拶を終えた僕は、ジョーンズさんに疑問を投げかけてみた。
「あの、他の隊員の皆さんはどこに行ったんでしょう?」
「なぁんだマモル、お前知らなかったのか!
隊長たちは今、国境の方まで出向いてる真っ最中だ!」
「え?何かあったんですか?」
「ああ。なんでも国境近くを通りかかった交易車が、黒いマントの一団に
襲われてるって話でな!事を治めるために、隊長たち第一部隊が出向いて
るんだとよ」
(黒いマント……昨日の「黒装束の人」の仲間……?)
「あ、あの、第二部隊の人たちは……」
「あいつらは今、城下の取り締まりで忙しいんだ!今隊舎にいんのは
俺達第三部隊だけだなぁ!」
「そ、そうなんですか」
良かった、初日から国境まで行かなくて……と、ほっと胸を撫で下ろした
僕だったが、それじゃあ第三部隊ではどんな仕事をしているんだろう?
僕がジョーンズさんに質問しようと口を開こうとした、まさにその時。
「マモル君!良かった、まだ隊舎の方にいたのね」
と、後ろからマルグリットさんの声が聞こえた。
「おおマルグリットぉ!ようやく戻ってきたな!がっははは!」
「悪いわねジョーンズ、暫く待たせてしまって」
「それで?今日の仕事はどんなもんなんだぁ?」
「あ、僕もそれについて聞きたかったんです!」
「あら、それなら丁度良かったわ。二人共、私について来て」
僕とジョーンズさんは、言われるがまま後をついて行った。
そして、辿り着いた先は――
「あ、あのぅ……どこですか?ここ?」
「資材小屋よ。ここから薪を持って来て欲しいの。
最近城で浴場を作ろうって話があって、その為の燃料が必要になったのよ」
「へっ、まぁーた気まぐれ姫さんのご提案かぁ?
俺ぁそろそろ、軽い捕縛任務でもやって体動かしてぇんだけどなぁ……」
「え?それが仕事、ですか?」
僕は、もっときつい仕事を任されるかと思ったので、拍子抜けしてしまった。
しかし、マルグリットさんはなぜか、表情を暗くして言う。
「ええ。私達第三部隊は人数が少ないが故に、こういった軽作業や
隊舎・馬小屋の掃除、書類整理などが主な仕事なのよ」
「ま、その分少数精鋭だからな!時々ちゃんとした任務も受けるぜ!」
「その時が来たら、マモル君のあの力を役立たせてもらうから、宜しく頼むわね」
「えっ!?は、はい!」
(まだどう出したのかも分からない力を、あてにされてもなぁ……)
こうして、僕とジョーンズさんで薪を城まで運ぶ作業が始まった。
ジョーンズさんが、無理はすんな、と気遣ってくれたので、僕は一束運ぶことにした。
かく言う自分は、両腕にこれでもかと薪を抱えて、涼しい顔で歩いてゆく。
(うわぁ……見た目どおり、とんでもない怪力ぶりだなぁ)
されど、流石に城までの道は遠く、三往復する頃には腕が重くなっていた。
僕が息を切らして戻ってくると、近くにある馬小屋から、のそりとサイファさんが
姿を現す。
「あ、サイファさん。こ、こんにちは」
「……ん?ああ、昨日の……ご苦労さん」
サイファさんは、僕の様子にはお構いなしで、眠そうな顔をしたままどこかへ
行ってしまった。すると、時を同じくして、城のある方から駆けてくる小さな人影。
案の定、救急箱を手にしたアメリちゃんの姿だった。
「あっ、マモルさん!こんにちは!」
「あ、こ、こんにちは……」
「えへへ、そんなに緊張しなくていいですよ?
今日からマモルさんは、ボク達の一員なんです!家族にも等しい関係ですから!」
「え?そ、そんなに優しくされていいのかな、僕……」
「負い目を感じる必要はありません!マルグリット隊長が推薦したというなら
善人であることは確かですから!」
相変わらず、屈託のない笑顔で話しかけてくるアメリちゃん。
昨日の話からすると、おそらく怪我をした人たちを診て回っていたんだろう。
なんだか、男である僕の方が申し訳なく思えてくる。
「あ、そうだ!マモルさん、ちょっとボクの仕事を手伝ってもらえますか?」
「え?いや……僕、今城の方に薪を運んでて」
「大丈夫です、すぐに終わりますから!」
強引に僕の手を掴んだかと思うと、アメリちゃんは隊舎とは別方向へ走り出す。
いきなりの事でちょっと吃驚したけれど、薪運びの件はジョーンズさんに
任せておけば大丈夫だろうと高をくくりつつ、僕も後に続いた。
「あぁ?おーーい!マモルー!!どこ行くんだぁ?」
背後に聞こえたジョーンズさんの呼び声も、今の僕には届かなかった。
どの位走っただろう。アメリちゃんは城へは向かわず、段々と
人気のない場所へ僕を連れてゆく。
流石におかしいと思い、僕は意を決してアメリちゃんに問いかけた。
「ね、ねえアメリちゃん?僕達、今どこに向かってるの、かな?」
「……」
「あ、あれ?アメリ……ちゃん?」
アメリちゃんは急に手を離し、その場で僕の方へ向き直す。
そして、昨日の彼女からは到底ありえないであろう、邪悪な笑みを浮かべていた。
「くくく……まさかこんな手に引っかかるとはな。呆気ないものだ」
「え、え!?どうしたのアメリちゃん!?」
「馬鹿か貴様!今置かれている状況が飲み込めていないようだな……」
「な、なに!?どういうこと!?」
彼女のいきなりの豹変に、気が動転した僕は何が何やらさっぱりだった。
そして、次の瞬間、彼女が手を挙げると――昨日の黒装束が、どこからともなく
四人姿を現した!
「!?」
(こ、この人たちは……!)
さらに、アメリちゃん「だった」人物が、見る間に黒装束へと姿を変えてゆく。
まさか、これって……相当まずい状況なんじゃ……。
「我が主の命により、その命頂きに参った!覚悟しろ!」
「え……ええぇぇぇえ!?」
まさに「絶体絶命」の状況に追い込まれてしまった僕。
どうしよう……力の扱い方も知らないのに、こんな人たち相手にできないよぉ!
(誰か……誰か助けてぇ!!)