☆閑話 暗躍する者
よろしくお願いします。
衛が丁度、ベルグランデ王国に保護されていた時。大陸の西端では、もう一つの出来事が
起こっていた。
その国は、十年ほど前に当時の国王が、現国王率いる『武力派』の勢力に殺害されてから
というもの、国王の独裁による集権政治が横行し、民衆は奴隷のように日夜
働かされ続けているという。それに加え、国境付近で荷馬車や交易車を次々と
襲うなど野盗紛いの事まで始めたというものだから、ますます手に負えない。
大陸を統治する、ベルグランデを含めた『大陸間国家連合』は、その国を畏怖の念をこめて
「ヴァンエルビア帝国」と呼んだ。
そして、現在――。
闇の帳に包まれた、ヴァンエルビア国王の間にて、密かに響く声が二つ。
一つは、マントを羽織った長身の影。もう一つは、一目見ただけで妖艶な雰囲気を漂わせていることがはっきりする、女性のシルエット。
「……ヤオイェン、例の「術式」は成功したのか」
「ええ、滞りなく「召喚術式」は完了いたしましたわ。ただ……」
「予想外の事態が起きた、と?」
「ふふっ、流石は国王様。良い勘をしていらっしゃいますこと♪」
「茶化すな。それで、「術式」によって召喚される筈だった者は、どこへ行った?」
「それが――予想外の場所へ飛ばされてしまったようで、ね」
「ふん……よもや、他の国に拾われたのではあるまいな」
「あら、またまた正解!国王様ったら、読心術でも使っていらっしゃるの?」
「……呆れたものだ。ならば、即刻処分するしかあるまい。
“あれ”は、我が国の秘策として呼び出されたのだ。他の国に取られたのであれば
もう必要は無い。かえって脅威にもなりかねんからな」
国王と思しき者の言葉に、ヤオイェンと呼ばれた女性の影は、口に手を当てる仕草をしながら応える。
「まあ!国王様ったら冷徹なのねぇ?私なら、その者を捕えて手籠めにしちゃうけど?」
「貴様の道楽に付き合っている暇はない。早急に刺客を送るのだ!」
「ふふっ、そう言われると思って……もう刺客を放ってあるの♪
そこの国王殺害の命を告げて、ね」
「ほう、貴様にしては気が回ったものだ。それで、首尾はどうなった?」
「うーん、それが、なんだか厄介な事になっちゃいそうなのよねぇ……」
瞬間、国王と思しき影が、何かまずいものを耳にしたように立ち上がった。
「!?まさか、“あれ”が……!」
「そうらしいのよねぇ。ちゃっかり国王と謁見しちゃってたみたい。
それと、もう一つ悪い報せがあるんだけど……聞きたい?」
「この際処分する事は明白だ、言ってみろ」
「それがね、拾われた国、あのベルグランデらしいのよ」
「何……あの『国境警備隊』があるベルグランデに、だと?」
「国王様の仰るとおり、このままじゃまずい事になりそうねぇ♪」
「……今すぐに討伐隊を編成しろ。今すぐにだ!」
その時丁度、稲光が轟き、国王の影を照らし出した。
悪魔の如き形相を顔に貼り付け、誰もが恐れおののくような怒りに満ちた城主の姿が、そこにはあった。
ルビを振るのが結構面倒で、そのために描写が至らない部分がございます。
ひとえに私の実力不足です。ご了承を。