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7日目―1 闘技大会開幕!

ここから闘技大会編が始まります。よろしくお願いします。

 クロワール姫様の急な気まぐれによって、開催されることとなった『闘技大会』。

あまりにも急だったもので、父親である国王様はスケジュール調整に駆り出されて

手一杯の状況だったらしい。


(こんなことが毎回起こってたら、そりゃあみんな困るよね……)


と、僕は内心、姫様に振り回される城の方々に同情の念を禁じえなかった。

 警備隊はというと、大会で一層賑やかになる城下の見回りを強化したり、即席の

闘技場に使う資材を運んだりと、結構忙しい日々に追われた。それよりも、どこに

そんなものを建設する土地やお金があるのか、僕は不思議で仕方がない。

 約二週間の時間が費やされ、ついに大会開催前夜。警備隊の中でも、ある話が

持ち上がっていた。


「さあて、いよいよ明日から、我が国と蛮族の国が共同運営する『闘技大会』が

開かれるわけだが……今夜はこの中から、大会に出場する選手を決めていこうと思う!」

「隊長!一つ大事な質問がございます!」

「おう、何だマルグリット?」

「もしやとは思いますが……隊長も出場なさる気ではございませんよね?」

「え?俺出たら駄目なの?ははっ、そんな堅いこと言わないでさぁ~」

「我が『国境警備隊』の要である隊長がいなかったら、誰が大会中国境を見張ると

いうのですか!?身分を(わきま)えて下さい!」

「わ、分かった!分かったから!ったく、警備のこととなると厳しいよなぁ、お前は」


早速マルグリットさんに釘を刺されるガルゥさん。けど、絶対出場するんだろうなぁ。

 隊員の方々は、いつもの事だといわんばかりに大笑いしている。


「ごほん。それじゃあ、マモルは親善試合に出場するとして、他に誰か出場したい者は

いるか?挙手!」

「がははは!俺が出ねぇと始まらねえだろ!隊長、希望しますぜ!」


ジョーンズさんが真っ先に手を挙げると、続々と何人かの隊員さんも手を挙げた。

 そういえば、この大会武器の使用は一応許可されてるんだっけ?

けれど、肉体が既にひとつの武器と化しているジョーンズさんには、要らぬ心配だろう。

 ただ、それ以上に意外だったのが、マルグリットさんの出場志願だった。


「お?マルグリット、お前自分で言っておきながらそれは無いんじゃねえかぁ?」

「私は純粋に、日頃の警備の成果がどれ程反映されているか知りたいだけです。

お祭り騒ぎに興じる訳ではありません」

「ははっ!なんだよ、つれねえなぁ。冗談だよ、冗談。

よーし!これで全員か?んじゃあ明日の大会、俺達警備隊で総なめにしてやろうぜ!」

「「うぉおーっ!」」


更に賑やかさを増す隊員の皆さん。しかし、その中で一人、浮かない顔をしている

人がいた。僕の隣りにいたアメリちゃんだ。


「はぁ、ボクももっと戦闘に特化した術が使えれば、出場できたのになぁ……」

「あ、あの、アメリちゃんは当日怪我した人を救護するんでしょ?それも立派な役目だと

思うよ?」

「ま、マモルさん……そうですよね!ボクにはボクのやるべき事がありますもんね!」


溜め息を漏らすアメリちゃんに、僕は不器用ながら励ましの言葉をかけた。

第一、こんなか弱い女の子が出場なんかして、大怪我なんてされたらもっと困る。

 幸い、アメリちゃんは僕の言葉に共感してくれて、きらきら輝くような笑顔で

返事をしてくれた。やっぱり可愛いなぁ。

 と、その光景を背後から見つめていたサイファさんが、相変わらずの眠そうな顔で一言。


「……君、もしかしてアメリのこと、女だと思ってないか?」

「へ?」

「あいつ、男だぞ」

「……はい?」


その瞬間、僕の思考が一時停止を起こした。

 ぎくしゃくした動作で、再びアメリちゃんの方を見る。紛れもなく女の子としか

思えないその容姿。これは、あれだ。きっと僕を(だま)してからかってるんだ!


(お、男?いやいや嘘でしょ!あんなに可愛い子が男のはず……)


「?どうしたんですかマモルさん?」

「うひぃいっ!?」

「アメリ。彼、おまえの「被害者」だったらしいぞ」

「えぇえ!?ほ、本当ですかそれ!」


なぜかアメリちゃんは、サイファさんの言葉に動揺して、僕の手を握った。

え、まさか、そんな……?


「ごめんなさいマモルさん!その……ボク、こんな見た目ですけど「男の子」なんです!」

「え……えぇぇええ!?」

「だから言っただろう。男だって」


衝撃の事実が明かされ、呆然と立ち尽くす僕に、なおもアメリちゃ…アメリ君は

続ける。


「ボク、背が低くてこんな顔してて、治癒術なんて使えるから、ほとんどの方は

女だって誤解してしまうらしいんです。去年開かれた『警備隊で告白したい女性大会』でも

三位に選ばれてしまって……ボクだって困ってるんです!これ以上誤解を受けたら

じょ、女装とかやらされそうで……」


頬を赤く染めて恥ずかしげに話すアメリ君は、最早、女の子のそれにしか見えなかった。

 僕がその後、男ってなんだっけ?と小一時間悩み続けることになったのは、言うまでも

ない。



 次の日、待ちに待った『闘技大会』当日。出場選手が続々と城内へ入っていく中

僕は特設された闘技場の方へ、いち早く連れてこられていた。

 この大会は、ベルグランデ王国と蛮族の国との親交を深めるのが目的であり、その

親善試合の代表として、僕の意志とは関係なく選ばれてしまったからだ。


(というより、半ば姫様のお楽しみの為だってことは分かりきってるけどね……)


闘技場の周りを見渡すと、四方八方にカメラのような球体が置かれている。

僕は同伴していたマルグリットさんに、あれが何なのかを訊いてみた。


「あの、周りにある球体って、なんの役目があるんですか?」

「ああ、あれね。あれは闘技場の様子を映し出す媒体で、そこから映像を中継して

国王様達のいる特別席や、選手たちが待機している部屋に備え付けられた装置に

映像を届けているの。マモル君の姿も、ばっちり映し出されている筈よ」

「う、うわぁ……なんだか恥ずかしいなぁ」


と、そんな事を話している間に、蛮族の国から選ばれた対戦相手が、姿を現したようだ。

いや、既に相手は決まっているようなものなんだけれど。


「マモルー!やっほー!げんきかー?ティー、さみしかったぞー」

「え、えぇー!?め、メルティーちゃん、な、何持ってるの!?」

「えへへ~。これ、ティーがうった!じしんさく!」


反対側から現れたメルティーちゃんが手に持っていたのは、自分の背丈の何倍もある

どでかい大斧だった。しかも、それをぶんぶんと振り回している。


(こないだの抱きつきから、何かあるとは思っていたけれど……メルティー

ちゃん、相当の馬鹿力なんじゃないか?)


僕の顔から、一気に血の気が引いた。

 あんなものが体に触れたら最後、僕の体が真っ二つになるのは容易に想像できる。

いや、むしろ想像したくなかった!


「ままま、マルグリットさぁあん!?」

「……やむを得ないわ。マモル君、今までの経験を最大限活かして、彼女の

攻撃を防ぎきって!それしか勝てる見込みはないわ」

「い、いや、無理ですってそんなの~!」

「自分を信じて!今のマモル君なら絶対に出来るわ!集中して!」

「マモル、ぜったい、ティーのダンナ、するー!かくごー!」


そうこうしていると、闘技場にアナウンスの声が響き渡る。


「さあさあ皆さんお待ちかねぇ!ここベルグランデ王国に建設された特設闘技場で

ベルグランデ、蛮族の国の二ヶ国が共同開催する『武闘大会』が、いよいよ開幕しまぁす!

勝敗のつけ方は至ってシンプル!相手に「参った」と言わせるか、または相手を

対戦領域外へと落とせば勝利確定!それ以外の、武器選びや術式の使用はすべて自由!

まさに、血沸き肉躍る大会となりそうでぇす!」


(こ、こっちはもうそれどころじゃないんだけど……)


「さぁてぇ、それでは大会を始める前にぃ、両国から選ばれた猛者(もさ)による親善試合を

行いましょう!まずはベルグランデからぁ!謎の力を秘めた『国境警備隊』の

ホープ・マモールゥ~!!」

「マモル君、頑張って!私も応援してるから!」

「そ、そんな事言われても……うーん、やるしかないかなぁ」


僕は覚悟を決めて、場内に足を踏み入れた。

 次の瞬間、闘技場を埋め尽くすかのような歓声が、どこからともなく聞こえる。

きっと映像を見ている観客や、出場する人たちの声なんだろう。


「続いてぇ、蛮族の国からはなんとぉ!あの『生ける宝』ゴドクの実の愛娘(まなむすめ)であり

鍛冶の腕も親譲りのおてんば娘・メェエルティ~!」

「きゃはははっ!マモルー!まってろー!ティー、かつ!ぜったい!」


(いや、お婿さんにされる前に二分割されそうなんだけど……絶対防ごう)


「それではぁ、大会開始を告げる宣言を、両国国王から頂いたのちに親善試合を

開始するぅ!まずは、特別席へ映像を回してくれぇ!」


アナウンスの指示により、映像が切り替わる。それは闘技場にいる僕達にも

映し出された。映っているのは二人の王様。右側が国王様で、左側が蛮族の国の

王様だろう。

 お二人は、声をそろえて宣言する。


「「我々は、互いの国へ恒久の平和とよき関係を築き合い、分かち合う為、この大会を

開催することをここに宣言する。選手たちには、国の名誉に恥じない立派な戦いを

期待したい。以上!」」


再び歓声が、さっきよりも大きく闘技場へと響く。その中には拍手も交えられ、まるで

オリンピックの開会式を思い起こさせる程だ。が、僕は目の前の相手に集中しなければ

ならない。ともすれば命を奪われかねない、危険な親善試合のゴングが鳴り響こうと

していた。


「両国王、素晴らしい宣言誠に恐縮ですぅ!ではこれよりぃ、親善試合を始めることと

致しましょおう!両者、準備はよろしいかぁ!」

「は、はいっ!」

「にゃははっ!はやくはやく~、マモルとあそぶ~!」

「そぉれではぁ、マモル対メルティーの親善試合ぃ、レディー……ファイッ!!」



カァン、と鳴り響いたゴングの音。それを合図に、メルティーちゃんが全速力で

僕の方へ向かってくる。


(って、速い!速すぎるよあれ!)


「マァモルゥ~、ティーの、ダンナー!!」


と、いきなりジャンプして僕の斜め真上まで近づいたメルティーちゃんは、そのまま

大斧の重さを利用して自由落下の体勢に入った。


(くっ、こっちだって命がかかってるんだ!絶対守りきる!)


僕の意志に応じるかのように、周囲を「壁」が覆い、彼女の不条理な一撃に備える。

 彼女の斧と僕の「壁」が触れ合った瞬間、闘技場一帯を煙が覆う。おそらくは

衝撃によって、闘技場の一部に(くぼ)みが出来上がったんだろう。

 目を開けた僕が最初に目にしたのは、自分の足元が漫画の戦闘シーンさながらに

えぐれている光景。そして、煙が晴れてきた時に見えてきたものは……大斧を

闘技場へ突き刺し、今にも踊り出しそうにはしゃいでいるメルティーちゃんの

姿だった。


「きゃはははっ!マモル、すごーい!ティーのあれ、はじくの、どうやったー?」

「メルティーちゃんこそ、なんでそんなもの(かつ)いできたの!?それ当たったら

僕死んじゃうかもしれないよ!?」

「えー?んーと……なんでだろー?」

「な、なんの考えもなしに持って来てたの!?」


恐ろしい。蛮族の女の子、改めて感じるけどマジで恐ろしい。正直逃げたい。

 けれど、相手はそんなことお構いなしに、次の行動に打って出る。


「んー、じゃあー、こんどはこっち、いく!」


メルティーちゃんがそう言った、次の瞬間。彼女の姿がまるでぶれているかのように

映る。まさか……これが彼女の「通常速度」!?


(けど、この速さで突っこんでくるなら……!)


僕は前方周辺に「壁」を発現させ、彼女が殴りかかってくるのを待ち構える。

と同時に、メルティーちゃんの拳による一撃が、斜め左側から炸裂した。


「んあ?うひょおおぉぉぉぉぉー!?」


僕の「壁」に攻撃を阻まれ、そのまま場外へと吹き飛ばされてゆく彼女。


(やった!これで僕の勝ち――)


僕は勝利を確信したが、それがぬか喜びだということが瞬時に明らかになる。

なんと、彼女は刺してあった大斧の持ち手を両手で掴み、そのままぐるぐると

回り始めたではないか!


「ぅわんぅわんぅわん……ふぅ~。マモルぅ、ティーうれしい!たのしい!

けど、ちょっとくらくら~」


(う、嘘でしょ!?まさかあのスピードで弾かれて反応できるなんて?)


このままでは持久戦に持ち込まれて、最悪彼女の拳が僕を直撃。死にはしない

だろうけど、確実に重症は(まぬが)れない。

 この状況で、何か打開策はないものか……僕は頭を捻って必死に考える。


「ふぅ、くらくら、やっともどった!んじゃー、もいっちょ、いくぞー!」


またメルティーちゃんが、猪突猛進(ちょとつもうしん)に駆け出してくる。そこで僕は……


「おおっとぉー!?先程まで同じ場所に留まっていたマモルが、急に前へ出たぁーっ!」

「にゃはっ!マモル、ティーともっとあそぶか?」


(避けられないなら……)


僕は、全力で闘技場の中央まで走る。その間にも、メルティーちゃんが距離を詰め、蹴りの

動作を始めていた。


(よし、このタイミングで!)


僕はその場で、勢いをつけて跳び上がった。数拍おいて、彼女の蹴りが僕の両脚に

触れるかという所で、ぶつかるであろう一点に意識を集中させる。

 すると、僕が発現させた「壁」が光を放ち、ピンポイントで彼女の蹴りを受け止めた。


「にゃっ!?」


発現する場所を出来る限り小さくすると、その反動も大きいようで、メルティーちゃんは

驚きの声を発したのちに、反対方向へ猛スピードで吹き飛ばされる。

 勢いよく闘技場の壁にめり込んだ彼女を、着地した僕はただただ呆然と見ているしか

なかった。


「おおっとぉー!これはまた何が起こったんだぁー!?

マモルの放った光にメルティーが触れた途端、場外へ吹き飛ばされたぞぉーっ!」


アナウンスが言う通りの光景が繰り広げられ、観客や出場者さんたちの声も一瞬にして

消え失せた。そんな中、壁から自力で飛び出してきたメルティーちゃん。


「うぉおー!マモル、すっごいー!それ、どうやるんだ?きゃっほほーい!」


う、嘘……あそこまでの衝撃に耐えて、しかもかすり傷くらいしか目に見えるダメージが

無いだなんて……これじゃあ負け確定、と思った瞬間。

 彼女の服が、上だけはらりと破れ、健康的な素肌が(あら)わになった。


「お、おおーーっとぉ!?こちらでは確認できませんが、今!メルティーの上着が

はだけたようです!加えてぇ!彼女が立っているのは惜しくも場外だぁーっ!

よって、親善試合の勝者はぁ……ベルグランデのマモルに決定ぃーっ!」

「んあ?」

「え?じょ、場外……?」


次の瞬間、僕の頭上から溢れんばかりの歓声と「マモル」コールが降り注いだ。

マルグリットさんも、闘技場へ上がってきて僕を抱きしめる。


「マモル君、お疲れ様!本当に……。最初はどうなるかと思ったけれど、怪我が無くて

素直に嬉しいわ!」

「わ、ま、マルグリットさん!まずいですよ、こんな所で……」

「マーモールぅーー!」


僕達が抱き合っている中、メルティーちゃんも勢いよく突っ込んできて、僕は二人に

挟まれる形で倒れこんだ。人肌の温もりが、僕を包み込む。


「えへへー。すごいなマモル!ティー、くやしい!」

「あ、あはは……今回はまぐれで勝てたようなものだし、もしメルティーちゃんが

場内まで飛んできてたら、勝てる自信がなかったよ」

「けど、ティーまけた、じじつ!マモルつよい!」

「そ、そう思ってくれると、嬉しい、かなぁ?」

「こほん、マモル君?目の前にいるレディが今、どんな格好をしているか分かっていて?」


マルグリットさんの一言で、はっと我に返った僕。目の前を見ると、そこには――


「う、うわぁぁぁぁああ!!」

「んあ?マモルどうした?め、いたいのか?」

「め、メルティーちゃん、頼むからそれ以上近寄らないでぇえー!」

「どうして?ティー、マモル、ぎゅーってする!それまで、もどらない!」

「ちょ、ちょっと、ほんとにやめて……ぎゃーーっ!?」

「え?マモル君……?大丈夫!?しっかりして!マモル君!」


先日のように、熱い抱擁(ほうよう)を受けながら、僕はその場で気絶した。

おそらく集中力が限界に達していたんだろう。メルティーちゃんの抱きつきを耐える

力も、残されていなかったらしい。

 取りあえず、命の危機がかかった親善試合は、両者とも目立った怪我なく終了した。


ご一読頂き、ありがとうございました。

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