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抱きしめる

なんか書いてて蕁麻疹起きそうだった。


 一体、どうなったのだろう。気を失う最後の時は覚えている。ゴリラのドラミングが聞こえて、オレは恐怖で気を失ったはずだ。断じて、アイツの声を聞いて安心したからという訳ではない。断じてない。オレの砕けた自尊心に誓って断言しよう。


 「おう。目、覚めたか」

 「うわぁあああ!な、なんだ!」


 寝起きで、もぞもぞとしているといきなり声をかけられて驚いた。声からしてサルの様な顔をしているだろう男性だった。

 そして、目が見えないせいか余計に驚いた。あのチビデブ、止めろとあれだけ言ったにも関わらず、人の目ん玉に針なんか刺しやがって。一生恨んでやる。


 「安心しろ、失明はしてない……と思う」


 オレが目を抑えたからだろう。申し訳なさそうにサル顔の男は言う。さいごの「と思う」が無ければ最高だったんだがな。

 「チクショウ」と一人ゴチて、立ち上がろうとして躓く。右足に上手く力が入らない。自分の身体に肉の棒がくっついただけ、と、そんな違和感があった。


 「だ、大丈夫か?」


 躓いた所を、サル顔に支えられる。何たる屈辱。さて、どさくさに紛れて胸を鷲掴みにされたのだがオレはコイツを殺しても良いのだろうか。いや、良い。今オレが決めた。


 「すすす、すまん。事故だ!」


 触れ合っていた感じから予測して水の砲撃を放つ。何事も無かったかのように謝られたのだから、避けられたのだろう。目さえ見えていれば逃げた先に別の魔法で追い打ち出来たのに。


 オレの怒りはさておき、動かない癖に痛みだけはハッキリしている右膝が「もうムリっす」と悲鳴を上げている。

 耐え切れずにオレは尻もちをついた。


 「落ち着いてくれ。無茶はしない方が良い」


 安心しろ。それはオレが一番理解している。口の中の腫れも引いていないし、爪を剥がされた痛みも強い。胸も、たった今鷲掴みにされたお陰で余計に痛みを増した。右足に関しては後遺症が残るだろうし、視力も下がっているだろう。

 

 そんな状態をベストコンディションだと言い張れる輩がいるのなら、そいつはとんだ天邪鬼だ。


 「安心しろ、ベストコンディションだ」


 かくいうオレも、このサル顔の前で弱い部分を見せる気は微塵もない。意地があるのだよ、漢には。


 意地を張って、ムリして立ち上がろうとする。呆れた様なため息が聞こえたが、だから何だと身体を奮い立たせる。が、ダメ。


 「その無駄な虚勢を張る所、俺の知り合いにそっくりだよ」


 それはオレの事か?目の前にその知り合いが居るというのに、嫌味かこのヤロウ。とココで気付いた。今のオレの姿は、傷まみれの弱った女なのだ。普通の人間、ましてや人よりサルに近いこの男に、目の前の可憐な美女が元根暗系男子高生だとは解らないだろう。


 オレだってゴリラが美女になったら気づけ無い自信がある。


 なんだ。なら今のオレとコイツは初対面なのだ。今ココにいる美女が、サル顔の中にあるオレとイコールで繋がる事はありえない。だとしたら、別に強がらなくて良いのだ。


 強がらなくて良い。


 砕けた自尊心を支えに立ち上がらなくても、コイツにはオレがあの三人衆に屈服した事は、バレない。


 自分に起きた理不尽を嘆いて、叫んだとしても、このサル顔友人に同情される事を恥じる心配など無いのだった。


 気がつくと、涙が出ていた。


 必死に止めようとして、どんな下手糞が巻いたのかクレームを付けたい雑な包帯の上から、瞼をこする。どんなに涙を止めることに努めても、涙が止む気配は一向に無い。


 オレは既に限界だったのだ。耐え切れずに、溜まった膿を吐き出す様に、オレは友人の事もはばからずに声を上げて泣きじゃくった。


 ---


 どうしようかと、彼は悩む。自分の胸で、変わり果てた姿の友人が泣いている。子供の様に、声を上げて。


 きっと、限界だったのだろう。でなければ、あの屁理屈好きで、意地っ張りで、負けず嫌いな。人を煽る事が生きがいと公言するこのバカが、俺に縋り付き泣きわめくなんてありえないのだから。


 上半身の布は全て包帯に換わったため、上半身素っ裸の彼としては、鼻水が気持ち悪くて仕方ないのだが。それでも、弱り切った彼女を引き剥がすような無粋な真似はできなかった。


 今は気の済むまで、だから我慢してやろう。


 弱々しく、震えて、声を大にして、彼女は彼の胸の中で泣き続ける。不謹慎ながら、彼女が自分を頼ってくれて少し嬉しかった。だから、少し彼の頬が緩む。

 同時に湧き上がってくる血が沸騰するような怒りも感じたが、を飲み込んで、絶える。今は、彼女の傷を癒やす事が先決だから。

上げて落としたい。

けどハッピーエンドにしたいジレンマ。


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