手折られた花の、未来は一つ
「がみがみ女のくつわ」
噂好きな女を懲らしめる為の道具。
口の部分に突起があり、それが舌を抑えて喋れないようにする。
モノによっては刺がついていたりする。
ギャグボールとかの親戚。
漫画サイコメトラーエイジにも似たようなお喋りおばさんを懲らしめる道具があったけど、だいたいそんな感じ。
私も、脳みそが舌にあるようなお馬鹿さん対策に欲しいです。
そしてそれから、それからそれから。いくらか時間が経ちまして。昔の偉い人はいいました。
「天井のシミを数えてる間に終わる」
その言葉、実践しました。天井が無いので葉っぱの数を数えていました。結論、痛みは全てを凌駕する。
悲しい話、今の姿を見知った人間には見せられません。手足の爪は剥がされ~の、右足の膝は車輪で引き砕かれ~の、眼球も失明はしてないものの白目部分は瞼の上からハリネズミ。前が見えませんし、ついでに明日も真っ暗です。
気楽に振る舞ってはいますが、そろそろ限界です。実際、なんかお股湿ってるし。泣きそうってか泣いてる。血涙を垂れ流してるせいで本当の涙か解らないけど。
「は、はふへて」
もうマヂムリ、リスカしよ。勝手に口から助けを請う言葉が出てしまいました。それを聞いたガッツの表情がもう最悪最低。ぶん殴りたい、この笑顔。
叫びすぎて口も血だらけだし、腫れてるし、呂律も回っていないその言葉。相当にガッツとモルデの嗜虐心を誘った事でしょうに。ああもういっその事、屈服してしまおうか。必死に命乞いをして、涙を流して、全てを差し出してしまって。
そうすれば、少なくとも一時だけは、この拷問から解放されるのだろう。その先に、さらなる地獄が待ち構えているのだとしても、今の弱った精神では、この誘惑は抗い難い。
もう、ゴールしてもいいよね?オレ、頑張ったよね?暴力には屈しないなんて、そんな事は無かったんだ。前の世界、ジャパンでは通用した理屈かもしれないが、この異世界、この場所では暴力が全てなのだ。
……だから、もう
「はふ、はふへ…」
「ワキャキャキャキャァァアア!」
崩壊した自尊心。砕けた心から滲み出た膿のようなオレの言葉に被さって、おおよそ人の物ではない獣じみた咆哮が木霊した。
「ワキャキャキャキャ」
「ワキャ?」
「ワキャァ?」
「ええい、取り敢えずその女の子を保護しろって言ったんだよバカ!」
何かやりとりするような獣の声。それに混じって聞こえた、獣に激を飛ばす聞き慣れた声と、罵倒の言葉。やっぱお前、猿の親戚だったのか。
---
「な、魔除けの結界が突破されていただと!?」
「なぜ気づかなかったアラス!」
「おで、おで」
木々の合間合間を飛び交う、獣の影。その数はおおよそ三十。魔猿と呼ばれるその獣は魔物にカテゴライズされる中で、群れを相手取ると中位の強さに位置する魔物である。
アラス、ガッツ、モルデの三人衆はアラスの魔除けの結界が突破"されていた"という不足の自体に驚いていはいたが、その程度で浮足立って隙を見せるような雑魚ではなかった。
「俺の結界が破られたということは魔猿の上位種、それも魔法を使える奴が居るはずだ」
「そして、恐らくはそいつが群れのリーダー」
「そいつ倒すど?」
「そう言うこった!行くぞアラス、モルデ!」
自慢の拳を魔力で強化するガッツ。杖を正眼に構え魔法の準備をするアラス。自慢の拷問道具の一つの、亜人スフェールの膝を砕いた車輪を構えるモルデ。
三人は、ガッツの掛け声と同時に魔猿の群れへと攻撃を開始する。
魔猿が拳で吹き飛ばされ、鎌鼬で切り裂かれ、車輪で引き砕かれていく。それでも、魔猿の群れは引く様子を見せない。やはり、強力な個体が戦いを強要しているのだろうと、アラスとガッツは目配せで意思疎通した。
「モルデ、分が悪い!一端引くぞ!」
森がざわめいた。魔猿、もしくは他の害獣の増援が来たのだ。それを察したガッツがモルデに撤退を伝える。
「こ、こいつ」
「置いていけ。囮にして逃げるんだ!」
「勿体無いですが今の装備では仕方ありません。後で回収しにくれば良い話ですしね!あーもう、だから早く引き上げたかったんですよ!」
「ふざけんな!お前も見て笑ってた癖に良く言うよ!」
「えぇえ!楽しかったですとも。ゴミの割りにはいい声で鳴いてくれましたしね!」
仲が良いのか悪いのか、口で争いながら、わたわたと拷問道具を回収するモルデの尻を蹴って三人衆は森の外へと逃げていった。
そして、魔猿の群れと傷ついたスフェールの女性、そしてもう一人を残してその場には誰も居なくなった。
「まったく、酷い事をしやがる」
手で魔猿に下がれと指示をだし、サル顔の青年は血まみれの女性に歩み寄る。乳房を挟んで居る刃の潰された大鋏を、足に付けられた鉄の板を、瞼に刺さった針を、頭に被せられた鉄の轡を、顎に添えられた首を曲げさせないためのナイフを、手を縛る縄を。
良くも同じ生き物にココまで酷いことを出来ると、奈落の底を覗きこんだ様なおぞましい気持ちで、彼女を傷つけない様に丁寧に外していく。
傷口を、自分の服を割いて包帯代わりを作って応急処置をしていく。両手足の指に、砕かれた右膝。針のむしろだった瞼にも、目隠しのように巻く。
傷付いた乳房は、青年にはどうすることも出来ないが、目の毒なので自分の学ランを羽織らせておく。
「まったく、何と言うか。世知辛いとでも言うのかなぁ」
憂いを帯びたサル顔で、青年は女性のモノらしき破られた衣服を回収する。一先ず、彼女を休ませられる場所に。できれば傷を洗える様に水場の近くが良い。その旨を魔猿に伝え、案内させる。
やましい気持ちの欠片もなく、青年は女性を背負い、破れた衣服を脇に抱えて、前を案内する魔猿の群れを追いかける。その脇に挟んだ、女性のものらしき破れた衣服が、自分の通う高校指定の制服である事に、違和感を感じながら。
主人公らの名前、いつ出そう
タイミングを見失ったおバカさんな作者が通りますよー