不細工三人衆参上-その2
「てめぇ、まだ懲りねぇのか」
オレが懲りずに睨みつけていると、ガッツは更に不機嫌になったようで握り拳を見せつける。だがオレは暴力に、理不尽に屈しない。今は好きにすればいいさ、魔力が回復すれば三人纏めて生き地獄を見せてやる。
「お前さ、自分が殺されないとでも思ってんのか?」
思ってますけどなにか?お前らオレを売りたいんだろ?なんか知らんがオレを売れば一生遊んで暮らせるらしいし。そんなモノ、オレなら殺さない。目の前の脳筋も、殺せばどれだけ損をするのかを理解できない訳ではないだろうし。
「別にその広いデコの石だけでも十分金になるんだ。確かに価値は下がるがそれでも一生遊べる事に変わりはねぇ」
あるぇー?なんか思ってたのと違うんですがー。え、なにそれ。お前らのほしい物ってオレの身体じゃなくて額の出っ張りだったわけ?
拙いな、死にかねん。不要に煽り過ぎたとは思うが、駄菓子菓子、後悔はしていない。別にこいつらに媚びなくとも生き残る方法が無いわけではないからな。
こうやって会話している間も、オレの魔力は回復している。
頭痛も、たしかに酷いがそれでも今は自殺したいとまでは思わない。
こうしてこのまま、煽り続けて会話を引き伸ばせば、逃げられる程度には魔力が回復するはずだ。多少殴られるのは些細な問題だ。とにかく今は、煽りながら、魔力の回復に努める。
「ガッツ、熱くなりすぎです。わざわざお話に付き合って、魔力を回復する時間を与えても何の利益もありません」
「なん……だとッ!?」
長身痩躯の男、アラスに諭されて、オレの目論見に気付いたガッツがオレを睨む。あのヒョロ眼鏡、余計な事言いやがって。眼鏡クイッてしてんじゃねぇよ腹立つ!
「こんの、劣等種がぁああ!」
アラスからガッツに視線を戻した刹那、ガッツの懇親のケリがオレを吹き飛ばした。腹部に刺さった重い一撃に意識が飛びかける。
予想外のダメージ。だが、だからと言ってただで転ぶ訳には行かなくなった。どうやらオレはガッツという男を完全に怒らしたようだから。ガッツさん、激おこプンプン丸なの?
おっと、フザケてる場合じゃ無かった。幸運な事に、ガッツの本気の蹴りで大分遠くに飛ばされた用で。具体的には五メートルくらい。だがコレは好都合。
「フハハ!コレが我が逃走経路だぁああああ!」
と言っても、怒りに任せたガッツのケリを食らったのはかなり拙い。正直全身がきしむが、それを堪えて叫ぶ。せいぜい悔しがりやがれ!
わずかながら回復した魔力で水を作り、それを気化させ霧にする。咄嗟の思いつきだが、存外、上手く行ったものだ。よし上出来だと、喜びを噛み締めたのもつかの間、ありったけの魔力による身体強化をかけて、オレは一目散に逃げ出した。
目指すのは森。あのサル顔をオレが蹴り飛ばした場所。合流できれば、少しは安心できる。アイツも寂しがってるだろうし。
「待ってろよ、類人猿!」
森に入れば、サル顔の友人に会える。そう考えれば、弱った身体に自然と力が籠った。なんやかんやで、いれば安心できる。再開したらおちょくって、ストレスを発散させてもらおう。
そして、数分後。なんとか森に入れたが、すでに魔力はカツカツで、息をするのも辛い。鳴り響く様な頭痛も健在である。
だが、体調に反して気分は清々しい。逃げ切れたのだ、その達成感が気分を高揚させていた。
「おーい、類人猿!いるかー!」
だから、調子に乗って叫んだりしみる。呼んで、ひょっこり顔をだすアイツを想像して、少しニヤけた。
「おう、それって俺の事か?劣等種」
「え?」
ニヤけた顔に、拳が叩きつけられた。平手ではない、握り拳が。今度こそ、意識がとんだが、すぐに叩き起こされた。
「ご丁寧に居場所を教えてくれてありがとよ」
鼻が折れたのか、鼻血で呼吸がしにくい。それでも焦りからか、呼吸が荒くなり、身体が酸素を求める。
どうして?逃げ切ったはずなのに。疑問が痛む頭に木霊する。果たして、俺は何をもって逃げ切ったと判断していたのだろうか。調子に乗って叫ばずに、身を潜めて入ればまた変わっていたのだろうか?
「ふぅ、やっと追いつきましたよ」
森の木々の枝を折りながら、風の球体に包まれた長身痩躯とチビデブが降りてきた。長身痩躯の手には杖、魔法使いだ。
「舐めた真似してくれやがって」
「殺しはなしですよ、価値が下がる」
釘を刺すアラス。その言葉にガッツは激高するでもなく、不敵に笑う。嫌な予感がした。その直後、ガッツによって俺の制服がきりさかれ、肌が露出する。
「俺とアラスは人間以外に興味はないんだがな、こいつはむしろ劣等種の方が好みって変わり物でな。普段は使えない間抜けだがこう言う時に役に立つんだよ」
モルデの両肩に手を置き、ガッツは嗤い、言う。
「こいつに一晩預けられた劣等種はな、どんな反抗的なやつでも次の朝には従順になるんだよ。
モルデ、あの生意気な劣等種にも教えてやれ。人間さまの恐ろしさをよ」