鬼とカッパと三日間
「母さん行ってくる!」
「うん、いってきなぁ!沢山ね!」
「頑張る‼」
ガサガサ…
慣れた道。この森は、僕の庭みたいなもの。
僕はコタロ。カッパだけど、“人間”にばれちゃいけない。
ばれたら捕まっちゃう。
パチョン…
「……エイッ!やったァ‼」
今日はご飯の魚を取る当番。家族、と言っても母さんと妹のラズロの三人だけど。父さんは、人間に追いかけられて死んじゃったって、もう一つのカッパ族、ミソじい達がいってた。
好物のキュウリに味噌ってのを人間から奪って、食べさせてくれたから、ミソじい。
「あっ!そう言えば前、キュウリが沢山あるトコがあるって、ミソじいが言ってたっけ!…いってみよう‼」
言われた通り、大きく曲がった木を目印に左に曲がった。
けど、その先にはまた大きく曲がった木が沢山あって…
「あれ…ここ…どこだ?」
ピチャン…
バケツに入った魚達が暴れ出す…
…迷子になった…?
どうしよう…!
「わー!誰か…ダーレーカー!」
僕は叫びながら走り込んだ…
「母さんー!ラズロー!」
ガサガサっ…
ビクッとした。…今になって思ったけど、人間に会うかもしれない。
「や…」
草むらから大きな赤い姿が現れる。
怖さからギュッと目をつぶる。
「ぎゃ…ギャァー!」
「おっおい黙れ‼」
「食べないで!殺さないでー!」
「食べねーから黙れ‼殺されたくなかったら黙れ‼捕まんぞ⁉」
「お願いします‼捕まえないでー!」
「ったく‼俺は人間じゃない!でも騒いでたら、本当に人間くるぞっ!」
えっ…人間じゃないの⁇
つぶった目をそっと開く…
大きな赤い姿にニョッと出てるツノ。
怖そうで、でも優しそうな目。
…僕…知ってる…
「お…鬼さん…ですか…?」
「知ってんのか?チビ」
「ムッ…チビじゃないもん!」
鬼さんはフッと笑った。
「チビはチビだろ。…でも、カッパって、本当にいるんだな。気を付けろよ、この辺は、人間がウロウロしてっか………」
鬼さんが急に動きを止めた。
「どうしたの?鬼さん?」
「やべっ人間が来た。逃げろ、捕まるぞ、じゃあな」
「まって…!」
「何だよ、早く逃げろって」
「僕…迷子…なの…」
「……ったく、仕方ねぇな、バケツ、持ってろよ、ちゃんと」
そう言うと鬼さんは僕を抱きかかえると走り出した。
「おいっ!コッチ、音がするぞ‼早くしねーと逃げちまう‼」
人間の叫んだ声が響きわたった。
「はー…。ここでちょっと待ってろ…」
そして僕を降ろすとさっきの方へ歩き出した…。
木の影に身を隠して、険しい表情をしてる。
少しして、戻って来ると鬼さんは困ったような顔をした。
「……ヤバイな…。お前…今は動かない方がいい。俺の住みかに来い」
「うん…?」
よく分からないけど、鬼さんの後をついていった。
「入れ。俺の住みかだ」
住みかと呼ばれたそこは、僕の家のような洞くつだった。
「ひろーい。僕の家より広い‼」
「お前、名前は?」
「コタロだよ。鬼さんは?」
「俺は、テツだ。…コタロ、何があったか、教えてくれ」
「うん!あのねー…」
僕は出来事を話した。
「コタロ…残念だが、人間がこの辺を三日間探し回るらしい。…珍しい生物探しだと。だから、家に帰るのは、三日間が過ぎてからだ。いいか?」
「うん!」
「…わかったか?」
「テツ兄、ここにいていいの?」
「あぁ」
「わーい、ありがとう!」
こうして赤鬼のテツ兄との三日間が始まった。
「おい、コタロ?それ、なんだ?」
テツ兄の指差したのは、さっきとった魚の入ったバケツ
「魚だよー!食べる?」
「…いや、俺はいい。魚は食べない」
「美味しいよ?あっ、この辺でキュウリある所、知らない?」
「キュウリ?知らないな。俺は肉を食うから、魚はお前が食え」
「はーい」
沢山入った魚をツルンと食べると、ある事に気づく。
「あれ?テツ兄は母さんとか、いないの?」
そう言ったら、テツ兄が寂しそうな顔をした。
「いねぇよ。鬼が俺1人になっちまったからな。…俺が捕まるわけにはいかねぇんだ」
「テツ兄……」
「あー、みろ、もう夜だ。子供は寝ろ!」
「うん。テツ兄は?」
「俺も寝るよ。コタロ、疲れたろ?沢山寝ていいからな」
「……うん…ふわぁ…おやすみ…な…さ…」
僕はすぐ、夢の世界に行ってしまった…
光が差し込む朝…
僕は目を覚ました。テツ兄は大の字に寝てるから、少しだけ魚を食べる。
「……ん?誰だっ⁉…あぁー、コタロか」
テツ兄が起きた…と思ったら、いきなり叫んだもんだから、びっくりした。
「おはよ、テツ兄!」
「おぅ、なんだ、意外に早起きだな」
「うん!」
「えいっ!見て~取れた‼」
「おい、騒ぐなって‼」
テツ兄が朝ごはん食べた後、ゆっくりしていたら、テツ兄が魚が取れるとこを教えてくれた。
テツ兄はクマを前に捕獲したから当分は食に困らないって言ってた。
「ん…?おいコタロ、これか?キュウリ」
「わっ!キュウリだー!わーい」
「だから騒ぐなって…。キュウリとってけ!したら帰るから」
「うん!」
洞くつに帰ると、沢山とったキュウリを一本食べた。
「ん…、テツ兄、あーげーる!」
「キュウリ…?サンキュ。…あ、うめぇ…」
「でしょー?」
テツ兄と過ごした二日目が終わりを告げる…
「予定なら、明日人間は帰るはずだが…」
「そっかぁ、僕、明日帰るんだっけ!」
「そうだろ。ほら、早く寝ろ、母さんに会うんだろ?」
「うん!おやすみ!」
「ん。俺も寝るか」
「んー…。あれ、テツ兄…?」
「今日は俺の方が早かったな」
「負けちゃった…モグモグ…」
バケツにあった魚は空っぽになった。
「テツ兄は毎日のんびり過ごしてるの?」
「あぁ」
「へ~」
ザワザワザワ…
「…誰か来た…」
すごく低いテツ兄の声。
「…!いたぞー!何かいるー!!」
「ッ…ヤベ、逃げんぞコタロ!」
「うん!」
洞くつは入口から離れた奥に出口がある。僕たちは走った。
「いたぞー!こっちだ!」
振り向くと、人間が走って来ていた…
「コタロ…!よく聞け、出口から真っ直ぐ走れ‼お前が知ってる所に出るはずだ!」
走りながらテツ兄がいう。
「テツ兄は…⁈」
「時間稼ぐ!だからお前は逃げろ‼」
もう一度振り向くと、さらに近い人間。
きっとこのままでは捕まる…
「嫌だよテツ兄‼僕、テツ兄も一緒!逃げるの‼」
「バカっ止まるな‼いいから行け‼」
「やだ‼」
「行け‼母さんの所に帰れ‼」
「テツ兄…‼」
「いけー!!コタロー!!」
「うわぁぁぁん!」
僕は泣きながら走った。振り向かずに走った…。
言う通り、知ってる所に出た。でも、かなり走ってから、だけど。
「コタロ…⁉バカ‼何してたのよ!」
「かーさぁん!」
人間の事も、テツ兄の事も、話したら、母さんはキュウリを沢山くれた。
泣きながら、沢山。
され以来、人間にも会ってません。
テツ兄…にも…会えてない。
ありがとうも言えずに……いる
どこにいるの⁇
「テ…テツ兄…‼」
「よぉ!」
「テツ兄、……ありがとう‼」