ヌヴェル18 不格好な恋のはじまり
健一は、低山ハイキングが趣味だ。
私も低山を登ってみたいという同僚の明子を誘い、××山をハイキングすることになった。
前日に雨が降るも気持ちよく晴れ上がった休日。今日は素敵な日になる予感があった。
××山は低山と言えども600メートルを超える山である。当然急峻な坂もあった。
健一は、慣れから普通のスニーカーを履いてきていた。これが良くなかった。
雨上がりの登山道はところどころぬかるみ、ミドルカットのトレッキングシューズを履いている明子も度々滑る悪路となっていたが、そこに倒木があった。それを避けて上を目指したところ、明子が滑りかけた。
その手をつかまえ明子を救った健一だが、踏ん張った足が滑り、そのままぬかるんだ山肌を滑り落ちた。
明子の「大丈夫ですかぁ」という声が聞こえている。
健一は「大丈夫」と言いながら、身体をおこした。打撲も捻挫も骨折も擦り傷も切り傷もないようだ。
ただ、身体全体がべちょべちょの赤土でどろどろになっていた。
これを動画で撮影していたら、さぞかし不格好なシーンが撮れたんだろうなと苦笑しながら、明子に手を振った。
その後は、何事もなかったように登頂。眼下の町並みを眺めながら昼食を取り、二人は会話を弾ませた。
下山する頃には、赤土もはたけば落ちるぐらい乾いていた。これなら電車にも乗れると笑いあった。
健一と明子は互いに距離が近づいたように感じた。
健一は、電車に揺られながら思った。
人生、何が起こるか分からないなぁ。(あそこで滑るとは)
それにしても不幸中の幸いだったなぁ。(怪我無くてよかった)
初心忘るべからずだな。(せめてローカットのトレッキングシューズかな)
そして彼女ができた。(また低山ハイキングに誘ってみよう)
予感というのは、あたるものだな。(今日は素敵な日になる予感があった、確かにあった)
刻々と色を変えていく夕焼け空を見ながら、健一は一人ほくそ笑んだ。
不格好だったけど、結果オーライだったなぁ。




