らくせいや
この物語はフィクションです。実際の人物・団体・事件等とは一切関係ございません。
なお、作中の倫理観・価値観が必ずしも正しいとは限りませんので、ご了承ください。
らくせいや
楽誠也。
俺の名前だ。
流石。俺の親だ。
良いネーミングセンスだと思う。
しかし、俺の前に座っているこの女は俺の華麗な名前を聞いて、爆笑している。
その女というのは、先日、犬の散歩中に挨拶してきた綺麗な女性だ。
そんな女性が、なぜ俺の事務所に?
理由が見当たらない。
「依頼したいんですけど」
急に真顔。
やはりこの女は怖い。
あと、依頼に来たのは想像つくし。
そんな溜めなくても。くくく。
「まず、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「北野南那と申します」
どっち?
北なの?南なの?
「出身は?」
「東京です」
東か。
って、関係ない。関係ない。
「で、依頼内容を伺ってもよろしいですか?」
「言いにくいのですが」
「何でも言ってください。他言は一切しませんので」
「それでは。恥ずかしながら浮気されまして」
よし。
いい気味だ。
ざまぁみやがれ。
俺の名前を笑った罰だ。
この方向音痴女が。
「はー。それは。心中お察しします」
「ですので、彼氏を見つけ出して欲しいんです。これ、彼氏です。彼氏とは小学校からの幼馴染で3年前から付き合い始めたんです」
出た出た。
浮気調査なら探偵に行けばいいのに。
にしても、彼氏かっこいいな。
もったいない。
「僕ですか?探偵に頼んだ方がいい結果が届くと思われますが」
「あなたがいいんです。先日、浮気現場を目撃してしまいまして、悲しみに暮れていました。そんなときに、あなたのホームページを見つけました。あなたのホームページのタイトル[人助けなんかしたくない]に心惹かれました。そして、今日着てみたら、あの時、犬に吠えられまくっていた哀れな男性だったので笑いが止まらなくなってしまいました。決して、名前で笑っていたわけではないです」
良い人だ。
可愛い。綺麗だ。
ここで、一つ皆様に伝えておきたいことがある。
俺はラブコメ展開が大嫌いだ。
なので、今後俺とこの方向音痴女、オッと。北野さんとは恋愛関係になることはないので安心していただきたい。
話を戻そう。
俺は、この女性を勘違いしていたようだ。
可哀想な人じゃないか。
なんとかしてあげたい。が、
「申し上げにくいのですが、依頼を受けることは出来ません」
「何でですか?」
「お金があるので。お金が貯まっていれば、仕事をしない主義なので」
「言ってる意味が?」
「金があるのに働くなんて愚かな行為僕にはできません。なので、お帰りください。正直言って、あなた方の浮気ごとに全くもって興味がない。探偵にでも行ってください」
「本当、あなたは最低ね」
初対面に近いはずだよな。
なんか、前から知り合っていたような言い草だが。
「またお越しくださいませ」
よし。
ようやく帰ったな。
俺にはやることがあるんだよ。
……………………
なぜだ。
どうして。
分からない。
教えてくださいな。
お金を増やす方法を。
俺の貯金10万円が、5時間ですっからかん。
パチンコというのは恐ろしいものだ。
しかし、やめられそうにはない。
やめる気もない。
「くそ――――!」
この叫び癖は直すべきだろうか。
直さなくていいな。
長所と短所は表裏一体って聞いたことあるし。
そもそも短所だとも思ってないけど。
しかし、叫ぶと周囲の人に見られるのはどうしてだろう。
まあ、自明だな。
って、あらららら。
彼氏じゃありませんか。
しかも、隣にいるのは東女ではなく小柄で可愛げのある女性だ。
北野さんとは正反対だな。
あの人とは、元々の骨格が違うな。
思考を巡らしている隙に二人組はホテルに入っていくではないか。
どうしようかな。
証拠残した方がいいかな。
一応、写真でも撮っておくかな。
報酬、がっぽがっぽ貰いますか。
「あのー、楽ですが」
「はい、どうしました?」
「ちょっと、事務所に来てほしいんですけど」
「はー?」
……………………
「こちらが証拠写真となります」
北野さんは言葉を失ってしまった。
しかし、その顔があまりにも美しい。
有名人なのかな?
それくらい美しいと思ったが、有名人が美しいとは限らないのですぐに訂正した。
「どうします?この写真を見せて、お金ぶんどりますか?」
「……そうしよっかな」
落ち込んでるな。
まあ、俺には関係ないけど。
「それじゃあ、行きますか」
「え?場所分かるんですか?」
「はい」
「何で?」
「さっきGPS付けたんで」
「は?」
「なので、現在地なんてすぐに分かりますよ。早く行きましょう」
「はい」
というわけで、彼氏の所に行くまでの間に、なぜ俺が便利屋(仮)になったのか経緯を話そうと思う。
一言でいうと、就活をしていないのがばれたからだ。
理由はもうなんとなく分かるだろう。
めんどくさかったからだ。
続きを話したいのは山々だが、ホテルに着いたので一旦この話はここでやめておこう。
「ここですか」
「はい。決心つきましたか?」
「……はい!」
「それでは、行きましょうか」
「彼氏の名前って何ですか?」
「西川です」
西だ。
東西南北コンプリート!
「あのー。この男性がこのホテルにいると思うんですけど、どこの部屋ですか?」
「分からないんですよね。というか、教えることが出来ないので」
「あのですね。僕はこの男性、西川とは小学生からの幼馴染なんですよ。実は西川、今日誕生日なんです。なので、サプライズをしたくて」
「あー、そういうことですか。分かりました。503です」
「ありがとうございます」
「よし、行きましょうか」
「はい」
楽勝だな。
「すんなり入れましたね」
「こんなもんですよ。彼氏に会ったらどういう仕打ちをお見舞いする予定ですか?」
「一発ぶん殴ろうかな?」
やはり、北野さんは怖い。
お金じゃなかったんだ。
身体的罰なんだ。
きっと精神的罰も与えるんだろうな。
この人、ちょっと怖いし。
「着きましたね。503」
「はい」
「それじゃあ、開けますよ」
「お願いします」
「オープン!」
俺は心の中で、祝いの音を流した。
「てめぇ、ふざけんじゃねぇよ」
北野さんは、一目散に彼氏に殴りかかった。
恐ろしいな。
人は見かけによらないというが、ここまで見かけによらないことも中々無い。
しかし、北野さんは殴る前に動きを止めた。
そして、浮気相手を見つめている。
「可乃……」
「南那……」
え?
どういうこと?
知り合い?
「北野さん、お知合いですか?」
「はい。小学校からの幼馴染で」
「ポー!」
テンション上がってきたー!
「南那、すまない」
彼氏よ。そりゃ謝るよな。
「許すわけねぇだろ」
口調何なんだよ。
変わりすぎだろ。
俺に影響されちゃったか?
それなら申し訳ない。
「いつから、浮気してんだよ」
「いや、可乃とは5年前から付き合ってるんだ」
オッと。
「だから、どちらかというと、南那が浮気相手なんだよ」
まさかまさかの大どんでん返し。
彼氏凄いな。
グロいわ。
小学校からの幼馴染と付き合って、小学校からの幼馴染と浮気する。
尊敬します。
俺、誰とも付き合ったことないけど。
ホテルにも今日初めて入ったけど。
仕事以外で女性と口きいたことないけど。
「そんなの関係ねぇんだよ。てめぇの目線で喋んな。私はてめぇが可乃と付き合ってるなんて知らなかったんだよ。だから、私にとっては可乃が浮気相手なんだよ」
「でも、事実だから」
「事実なんか関係ねぇよ。そんなくだらないもので言い返してくんじゃねぇよ。感情で喋ってんだ。だからてめぇも感情で喋れ」
良いね。
俺、そういう屁理屈好きよ。
まあ、でも一応俺も話に噛みますか。
仕事だし。
この後、金貰わなきゃいけないし。
「あのー。盛り上がってるとこすいません」
「いえ、助かりました」
「助かったってなんだよ」
「ちょっと。北野さんは黙ってて」
「初めまして。僕は楽と申します。西川さん、あなたはなぜ浮気を?」
「ただのお遊びです」
「清々しいですね。気持ちいい。あっ、変な意味じゃなくて」
「ああ、ありがとうございます」
「褒めては無いんですけども。そして、可乃さん?でしたっけ?」
「川西可乃です」
西川と川西か。
「川西さん。失礼ですが、川西さんのどこに惹かれたんですか?僕からすると、良い所が一個もないんですけど」
「私、すぐに自分を責めちゃうんですよ。なので、このくらい何にも考えてない人といるので安心で」
楽せいや。
「なるほど。合理的ですね」
「北野さん。どうします?」
「可乃。西川。幸せになれよ」
かっこいい。
感服です。
ずっと口調が意味分かんないけども、かっこいいな。
「楽さん、行きましょうか」
「……はい!」
一生ついていきます。
それはないけど。
というか、出来るだけ関わりたくないけど。
……………………
「北野さん、何言ってるんですか?」
「だから、お金は払いません」
「何でですか?」
「今日、楽さん何か仕事しましたか?」
「いや、彼氏の居場所を突き止めましたけど」
「今日、楽さん何か仕事しましたか?」
怖い。
戦々恐々とはこのこと。
「なにも……してません」
「ですよね。なので、お金を払う必要ありませんよね。あなた、私の依頼を断りましたし。ボランティアでしょう?」
「ですが、何のお礼もないんですか?ボランティアの人にも優しくした方があなたのためになりますよ」
「それもそうですね。……じゃあ、私をここで雇ってください」
は?
ありがとうございました。




