姉妹はそんないいものじゃない
思い込み激しめの姉。
そこそこの大きさのニールヘン王国、そこそこの貴族らしく中堅のハディール伯爵家に産まれた。
アキーム・ハディールお父様、ナディア・ハディールお母様、三歳上のミレーヌ・ハディールお姉様17歳、私はマリーヌ・ハディール、14歳。
お父様もお母様も私達を平等に愛してくれているし、そこそこの贅沢は許されているの。私達はとても恵まれていると思っている。
貴族に生まれたからには義務と責任がある。教育も社交も結婚もそう。難しい事じゃないはず。そう教育され皆そうしているのだから。
貴族階級ではなくても家の仕事を子供が手伝うし、大人になったら仕事を継いだりする。皆そうしてるから。
しかしながらお姉様にはそれができない。甘やかされた訳ではないのに自分がやりたくない事を意地でもやらない。頭が悪い訳では無い。ましてや口答えのやり口からして良い方のはずなのに。
でも私を引き合いに出してやる気を出さそうと比較されると、ギリギリと睨みつけ嫌がらせをしてくる。
それも年々とエスカレートするので私はお姉様が好きじゃない。
この国では10歳から15歳で、ほとんどの婚約が決まるようになっている。
10歳頃には情緒や情操が安定しているので、その歳になっても癇癪持ちや将来能力の発展が見込めない者などをふるい落とす事になる。
かと言って篩に落ちた若人の未来が絶たれる訳ではないし、お茶会は毎年催される。
この国の為に未来の外交や為政、防衛を背負っていく者を優先的に育てていく為の効率化だそうだ。
おおよその子供達は13歳には仮の婚約が最低でも決まるし、婚約が決まらなくても素質を見込まれれば、いずれかの機関からスカウトされたりもする。
実力主義であり無能は落ちぶれていく国だけど、拾ってくれる所がない訳ではない。下剋上大いに目指せる国だ。
なんでも百年程前に異世界から聖女なるものが来て、スライムをクチャクチャしながら当代の王に進言したそうだ。
因みに聖女の逸話は沢山あるが、それは別の機会に紹介しようと思う。
毎年春に王家主催で、満10歳から15歳になる令息令嬢の資質判定兼、お茶会という名のお見合い兼の交流会が行われる。
私は10歳のお茶会で婚約が決まったので、以降は行っていない。
我が家はお父様が外交、お母様が領地経営に強く、なんともバランスの取れた夫婦だった。
私は異国の文化に憧れや興味津々だったため、異国語を積極的に勉強していた。
お父様を尊敬していたし、多忙なお父様と交流できる手段でもあった。
だって私は次女だし嫁ぐ事を考えたら、親元に居られるのは限られた年だもの。
学ぶにふさわしき両親がいて有り難い身の上だった。
それに国の最南端に位置する辺境伯家の嫡男との婚約が決まっていた私は、王都になんて中々来れなくなってしまう。
結局お姉様が婿を取って家督を継ぐにも教育は間に合わくなってしまったけど、親族に優秀でやる気のある人ならは掃いて捨てる程居るのが実状。
世襲とは言え優秀でやる気ある人が継いだ方が良いに決まっている。その方が先達の為に決まっている。
私の二歳下の母方の従兄弟のダニエルが養子に入ることになって今は隣国に留学中、悔しいけどかなり優秀ね。
お姉様とは上手くいかなかったけど、可愛い弟が出来て嬉しかったわ。
婚約者のオーラン辺境伯子息のアレックスは、有難い事にハンサムだし誠実な人で、お互い憎からず想っていると思う。
私がお姉様と距離を置いていた事も理解してくれていた。
それでもミレーヌお姉様は社交に忙しくしていたから、それなりに良い人がいるのかと思っていた。屋敷で滅多に会わないのは、そういう事だと思っていた。
お姉様が成人の18歳になろうとしていたある日までは。
珍しく四人揃った晩餐で唐突にお姉様が言った。
「そろそろ結婚式のドレスを準備しなくちゃ!」
ついにお姉様も婚約どころか式の準備と聞いて驚いたけど、成人近いから即結婚も当然かと思い直した。
「おめでとうございます、お姉様!でもご挨拶するにも早いに越した事はありません。で、どちらの家のかたなんですか?」
お父様もお母様も私に教えてくれないなんて、と思ったけれど二人とも顔を見合わせて混乱してるようだった。
え?二人とも知らなかった?
「ミレーヌ、あなた急に結婚てどういう事?お相手の両親は知っているの?」
「そうだぞ、結婚と言っても段取りがあるんだ、いきなりドレスだけ用意だなんて意味がわからない。ちゃんと説明しておくれ」
やっぱり二人とも知らなかったのね。
すでに爵位を継がれてる方とか、もしかしたら市井の方かしら?社交の好きなお姉様が市井の方と?無理ね。
そして困惑気味な私達をよそに、お姉様の爆弾発言が飛び出た。
「皆んな何を言っているの?アレックス様に決まっているわ!婚約はだいぶ前から決まっていたでしょう?」
「・・・・」
「・・・・?」
「・・・・??」
「あたくしとアレックス様は同じ歳だもの。成人したら結婚するのは当たり前じゃない」
お姉様の爆弾発言に私達は固まってしまった。
いや、固まってる場合じゃない!彼は私の婚約者よ!どうしてお姉様と結婚するのよ!
反論しようとしたら私より先にお父様が口を開いた。
「ミレーヌ、アレックス様はマリーヌの婚約者だぞ!マリーヌが10歳の時に決まった。アレックス様が婚約が決まった時にうちに挨拶に来てお前も同席しただろう?」
「そうよミレーヌ、何故そんな勘違いをしているの?」
うん、そうよね。二人の言う通りだわ。
わかっていたけど両親も同じ気持ちでいてくれた事にホッとしてしまった。
浮気…は無いわね。アレクに限って絶対にありえない。
それに辺境だもの。社交の時以外は王都に居ないもの、来た時は必ず私と会っているし。
今年から夜会が許される私は、まだ一緒に夜会に出ていないけど、アレックス様はお一人で行ってたわね。まさか…?いえ、無いわ!無いわよね?
私はきっと淑女の顔を取り繕えなくて百面相を披露していたのだろう。
お母様が気付いたのか私に聞いた。
「マリーヌ、アレックス様との仲はどうなの?手紙のやり取りを頻繁にしているって侍女に聞いているわ。貴方達、上手くいっているのよね?」
「ええ、もちろんですお母様。アレクとは上手く行ってると思います。手紙の返信も、贈り物も何度も下さってますわ」
するとお姉様が割り込んできた。
「マリーヌ!アレックス様をアレクだなんて愛称で!姉の婚約者なのよ!?手紙ですって?妹の分際で横恋慕してアレックス様を寝とる気!?」
「ミレーヌ、落ち着きなさい!何を言ってるんだ!」
お父様がお姉様を宥めるも、お姉様はヒートアップしていく。
「ふざけるんじゃないわよ!それに贈り物もですって?それはあたくしの物よ!横取りしたのね!姉の婚約者なのよ!どこの娼婦が姉の婚約者に手を出すのよ!この売女!」
「やめないかミレーヌ!」
「だってお父様、アレックス様は…」
「黙れ!!」
温厚なはずのお父様の一喝で、お姉様も何とか口を閉じたけど唇を噛み締めて私を睨みつけるのはやめない。
いい加減にしてほしい!好きになれない姉が大嫌いになったわ。
大体どんな考え方でアレクが婚約者だと勘違いしてたのかしら。この怒り方からして本気でそう思い込んでいたのね。
一体いつから…って、五年前よね。はぁ。
そしてお父様がこの場をおさめるためにお姉様を自室に行くよう侍女に指示して、私とお父様とお母様三人で執務室に移動して話し合う事にした。
「すまない、マリーヌ。あの子がどうして勘違いしたかは分からないが、落ち着いた頃にまた本人から詳しく聞いてみる。お前が居ると話が進まなくなるだろうからな」
「そうね、あの調子じゃ興奮して話にならないわ。お父様と私が話を詳しくきいてみるわ。ごめんなさいね」
「いいえ、お父様とお母様が謝る必要はありません。念のためにアレックス様にもお話を聞いた方がいいでしょうか?」
「とりあえずミレーヌの話を聞いてからだ。アレックス様と個人的に接触があったか聞いてみよう。いきなり思わせぶりな事をしたか聞くわけにはいかない」
「そうね、我が家の恥を晒すだけだわ」
「わかりました。ではお姉様のお話を聞いてから対処をまた考えましょう」
他にも心当たりを聞かれたりしたけど、全く身に覚えもないし、そもそもお姉様と私が屋敷で会う事が滅多にないのだ。
お父様とお母様が、お姉様と話し合った結果を後日またこの三人で話し合う事になり今日は終わった。
家族の晩餐がとんだ修羅場になり心身ともに疲れてしまった。それでもモヤモヤとしながら話し合いの結果を待つ事にした。
そして後日、お父様の執務室に呼ばれた。
結果、お姉様は最初からアレックス様との婚約が決まったのは自分だと思い込んでいて、屋敷に来たのもお姉様の為。
婚約が決まっても王家のお茶会に参加し続けたのは、お茶会がお見合いの場である事を知らなかったそうだ。
二人は丁寧に説明したらしい。それでもお姉様は納得しなかった。彼も自分が婚約者だと思っているはずだと言い張った。
ある夜会で彼を見かけて話しかけようとしたらしい。婚約者なのに会いにこない文句でも言おうと思ったのだそうだ。
その時彼は男友達数人と仲良く歓談していて、会話の流れからしてそれぞれの婚約者の話をしているようだった。
聞き耳を立ててこっそり話を聞いてみたらしい。
「エリザベスはプライドが高くて可愛げがないんだよな〜」
「公爵家の令嬢なんだから当たり前だろ。あんなに美人なんだからプライドが高くてもいいだろ」
「アレックス、お前は婚約者とどうなんだ?」
「俺は満足してる。初対面でビビッと来た。リーヌを目の前にすると気の利いた事もなかなか言えなくなっちゃうけどな」
「うわ、こいつノロけてやがる」
「いいじゃないか。次期辺境伯が夫婦円満なら国防も頼もしいさ」
「ハハっ。違いないな!」
そんな話を聞いていたお姉様は、自分のことを既に愛称呼びしてる事に嬉しくなって声もかけなかったと。
自分を前にすると素直になれない彼の本音を聞いたと思って満足したそうだ。
そんな馬鹿な。
そんな思い込みってある?話したことも無いのに愛称呼びって逆に失礼でしょう。それに…
「お父様、お母様、リーヌは彼だけ呼ぶ私の愛称です。アレクのお母様はマリアベル様でしょう?
だからマリーではなくて、リーヌなのですわ」
「確かにマリアンヌ様の前でマリーは無いわね」
「あぁ、それもそうだな。しかし、それでますます思い込んだ訳か…」
「お父様お母様、お手数をおかけしますが、お姉様に伝えるのはお任せしても?」
「あぁ、無論だ」
「ええ、なんとか言い聞かせるしか無いわね」
そうして話し合いは幕を閉じた。
お二人がお姉様に理解させるまでひと月かかった。
お姉様は物凄く粘って、それでも彼と結婚すると言い張り、ならば婚約者を変われと。
私がダニエルと結婚すればいいとさえ。
何度か直談判しに突撃されて、それを知ったお父様がついに特大の雷を落とした。
激怒したお父様がお姉様を私が嫁ぐまでの三年間修道院に預ける事になり、
泣き喚きながら連行されるように馬車に乗せられてお姉様は旅立って行った。
三年経って嫁ぎ先があるか不明だが自業自得だし、はっきり言ってどうでもいい。
娼婦、売女呼ばわりされたお姉様に残している情なんてないもの。
さらば、お姉様…永遠に。
そうして私とお姉様は二度と交わらない道に、それぞれ進んで行く事になった。
よし、絶対に息子を産もう!
終わり。
拙い短編を読んでくださってありがとうございました。
評価して下さった方々ありがとうございます!
聖女がスライムをクチャクチャする話を別作品で書きたいなぁ。




