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ぐらでぃえーたーず

作者: 西順

 コロシアム━━。そこでは数々のグラディエーターたちが日々しのぎを削り、それは観る者たちに興奮、感動、夢を与え、グラディエーターたちの活躍を観た数多くの幼き子供たちが、次代のグラディエーターとなる事を夢見て、グラディエーター育成機関の門を叩き、そして選ばれたグラディエーター候補生たちが、新たなグラディエーターとなって世に巣立っていく。世はグラディエーター全盛期となっていた。


 ◯◯◯◯.✕✕.△△


「さあ、今年もこの時がやってまいりました。全てのグラディエーターの頂点を決めるグラディエーターチャンピオンシップ決勝戦!! コロシアムに集まった10万人の観客が見守る中、2人のグラディエーターが入場してまいります!」


 2つの入場口にグラディエーターが現れると、10万人の観客たちの、鼓膜が破れるような大歓声が、熱気と共にコロシアムを揺らす。


「さあ、西入場口より登場したのは、今期、グラディエーター界に新たな風を巻き起こした新星、その一閃は正しく閃光! チャンピオンシップ決勝までも最速で勝ち上がってきたこの男。この決勝戦でもその神速の一閃で勝利をもぎ取るのか!? 紫電超越のブルータス!!!!」


 アナウンサーの入場コールに応え、まだ若い青年であるブルータスは両手を天に突き上げる。それを観てまた観客席から歓声が上がる。飛ぶ鳥を落とす勢いで連戦戦勝でここまで勝ち上がってきたブルータスは、まだ年若い青年や子供たち、そしてうら若き乙女たちからの支持が高く、総じて歓声の声は高い。そんな歓声の中、これまで連勝してきた自信がそうさせるのだろう。ブルータスは肩で風を切りながら、一歩、また一歩とコロシアムの中央へと歩いていく。


「対するは東入場口より登場するは、絶対王者! この10年間、この者を王座から引き摺り下ろした者はいない! その身体は正しく彫像! 鍛え抜かれたその身体が示すのは、この者の辞書に贅肉などと言う言葉は存在しないと言う厳然たる事実! その技は華麗にして鋭い刺! 蝶のように舞い、蜂のように刺すと言う言葉はこの男の為にある! その覇道を歩むは黄金の意志! 対戦者と向かい合って揺るがぬは、何があっても変色しない最高の黄金の体現! 心技体全てを併せ持つこの男を引退までに倒せる者は現れるのか!? コロシアムの皇帝シーザー!!!!」


 入場コールに、低く唸るような歓声が地を揺らす。長年絶対王者として君臨してきたシーザーのファンの多くは、年長者が多い。長くグラディエーターたちを観てきた年長者から観て、シーザーは衰える事を知らず、年を経る程に益々その技はキレを増し、10年の間に、絶対王者に手を届かせる者も現れてきたが、それでもこの絶対王者、皇帝シーザーを打ち破る者は現れなかった。年長のファンたちからしたら、今回のブルータスも、これまでのグラディエーターたち同様、皇帝を打ち破る事は叶わないと心の中では蔑んでいた。


 禿頭のシーザーは、その禿頭までも鍛え上げられた身体の一部であるかのように、分厚い筋肉の鎧を纏い、泰然自若とコロシアムの中央へと歩を進める。


「さあ、両者がコロシアムの中央へと今、辿り着きます。テーブルを挟んで視線を交差させるシーザーとブルータス。テーブルに置かれているのは皆さんお馴染みの矛と盾、ピコピコハンマーと安全ヘルメット。シーザーから見て右側にあるのが安全ヘルメット。左側にあるのがピコピコハンマーです。グラディエーターたちの戦いでは、両者の実力差を埋める為に、グラディエーターになった年代順に、ピコハンとヘルメットの置き方が変えられます。長年絶対王者として君臨してきた皇帝シーザーとブルータスでは、シーザーの左手側にピコハンが置かれます。それが伝統。しかし! しかししかししかし! それこそが罠! シーザーの利き腕は左! この伝統が皇帝に利する! やはり今年も皇帝をその座から引き摺り下ろす事は出来ないのか!? それともブルータスが絶対王者に一太刀浴びせ、最強の称号をもぎ取るのか!? 世紀の一戦が始まります!!」


 アナウンサーの声のみがコロシアムに木霊し、静まり返る観客席から、観客の熱視線がコロシアム中央に集まる。その熱で中央の2人が焦げる程の熱視線の中、その熱に負けない試合が始まる!


『叩いて被ってジャンケンポン!!』


 10万人の観客たちによるコールと共に、両者が手を繰り出す。両者パー!


『おおおおおお!!』


「パー! 両者パーです! あいこです! ジャンケンの読み合いはあいこ! 流石はチャンピオンシップ、1回では終わらせないと言う2人の気概が、ジャンケンをあいこにしてみせました! さあ、30秒のインターバルの後、次のジャンケンが始まります!」


 ジャンケンがあいこと終わり、観客たちが一息吐く。ざわざわとざわめきに満たされるコロシアムの中央で、シーザーとブルータスは気を抜く事なく、相手を睨み続ける。


「さあ、30秒のインターバルが終わります」


『叩いて被ってジャンケンポン!!』


 シーザーのグーに対して、ブルータスはパー! 次の瞬間、ブルータスは正しく神速の素早さでピコハンを握り、シーザーの頭上目掛けて振り下ろした!


『うおおおおおお!!』


「避けた! シーザー避けました! ヘルメットを被る事なく、スウェーで後ろに身体を倒し、ブルータスのピコハンが空を切る!」


 閃光と称される神速のブルータスの一閃、しかしそれを華麗に躱したシーザーは、なびかれた春風で涼を得たかのように、少し後ろに倒した身体を、淡々と元に戻した。それがブルータスの闘争心を逆撫でる。


「さあ、30秒のインターバルが終わります」


『叩いて被ってジャンケンポン!!』


 シーザーのチョキに対してブルータスはパー。次も勝つ! と気負っていたブルータスは、自分がジャンケンに負けた事に動揺するも、ほんの一瞬、閃きも斯くやと言う間隙、すぐに気を持ち直したブルータスの頭上には、既にシーザーのピコハンが振り下ろされようとしていた。慌ててしゃがみながらヘルメットを被るブルータス。


 ピコンッ!


 間抜……可愛らしい音がコロシアムに響き渡り、観客たちの興奮と残念な思いがないまぜとなった歓声がすぐにピコハンの音を掻き消した。


「避けた! 避けました! ブルータス、シーザーの攻撃を何っっとかしゃがみながら避けました! 決勝戦、まだまだ決着がつきません! まだ決勝は続きます! さあ、勝つのはどっちだ!?」


 ◯◯◯◯.✕✕.△△


「お、終わりません! もう15回のジャンケンを終わらせ、あいこが7回! シーザーの勝ちが4回! ブルータスの勝ちが4回! どちらも一歩も譲りません! 勝ってはピコハンを振るい、負けてはヘルメットを被る! 最初は避けていたシーザーも、今の勝負では初めてヘルメットを被って防ぎました! 流石の皇帝もこの連戦に疲れてきたか! 両者、肩で息をしています! 今度のジャンケンで勝敗が決まるのか!?」


 アナウンサーの熱の籠もった実況に、観客たちも湧き上がる。


「さあ、16回目のジャンケンです!」


『叩いて被ってジャンケンポン!!!!』


 シーザーとブルータスの熱戦に、観客たちの絶叫の如きコールがコロシアムに響き渡り、2人が己が考え抜いた手を出した。シーザーはグー、ブルータスはチョキ。ジャンケンの勝負はシーザーの勝ちだった。しかし次の動き出しは若いブルータスが早かった。素早く安全ヘルメットを被ろうとその手でヘルメットを握った。が━━、


「ブルータス、今度もシーザーの攻撃を躱━━っ!?」


『ああああああああ!!!?』


 アナウンサーと観客席から悲鳴のような声が上がる。確かにブルータスはヘルメットを握った。しかし被ろうとしたその時、連戦の疲れから、汗で滑らせてしまったブルータスのヘルメットは、明後日の方へと飛んでいき、その若さ故の自分の失態に、「あっ」とブルータスが声を上げた時には、


 ピコンッ!


 とシーザーのピコハンが、可愛らしい音と共に、ブルータスの頭に振り下ろされたのだった。自分の失態で負けた現実に打ちのめされたブルータスは、その場で膝から崩れ落ちる。


「…………ブルータス、お前もか」


 シーザーはその言葉だけを残して、コロシアムの中央から去っていくのであった。


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