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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第91話 ミリと家族

 日差しの和らいだ午後、グロッセンベルグの市場近くの仮設住宅区を歩いていたミリは、ふと目を止めた。


 そこには、簡素な木陰の下、笑顔で食事を囲む家族の姿があった。父親は逞しい腕の人間。母親は小柄な体格のドワーフ。そして、その間で無邪気に笑っているのは、二人の特徴を合わせ持った、丸い顔立ちとふわふわの髪のハーフドワーフの女の子だった。


「……へえ。混血でも、こんなに幸せそうに……」


 思わず立ち止まり、ミリは目を細める。


 (……あたしが人間と結ばれるなんて、普通はありえない。だけど、もし――)


 手にはいつのまにか、ちょうど良さそうな金属片が握られていた。加工すれば小さなペンダントにもなりそうな形。それを見つめながら、ミリは口元をほころばせる。


 (もし、兄貴と……)


 ちょっと無愛想で、でも誰よりも人を思ってて、いつも自分の限界まで働いてる。あんな奴、他にいない。ドワーフとか人間とか、関係ないじゃないか――


「……で、結婚式はいつ挙げるつもりなんですか?」


 背後から突然、涼しげな声が降ってきた。


「うおぁッ!? リ、リィナ!? いつからそこに……!」


「最初からずっと。そこの路地の影で、スケッチしていたので。市場の構造、どう改良しようかと……」


 そう言いながら、すっと差し出されたリィナのメモには、なぜか“ミリ・ギルマン ユリウス・フォン・ヴァルトハイン 婚姻届案(仮)”の文字が書かれていた。

 別にミリの姓はギルマンではない。完全にリィナの創作である。


「それはっ……違っ、ちが、違うってばああぁ!」


「わかっております。すべては私の空耳、空想、空入力です」


 リィナはにこりと笑いながら、しれっとメモを自ら丸めてポケットに押し込む。


「……ふん。変なこと吹き込んだら、ホントに溶接するからね」


「はい。その際は、頭部からお願いいたします。ユリウス様が見つけやすいように」


 そう言って、リィナはくるりと踵を返し、再び市場の方へと歩いていく。


 取り残されたミリは、顔を真っ赤にしながら、小さな金属片を握り直した。


「……いっぺん、本気で溶接しようかな、あのゴーレム……」


 そう呟きながらも、その指先には、どこか名残惜しげなぬくもりが残っていた。


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