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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第89話 プロメテウスと膝枕

 地下深くに設置された魔素縮退炉の発する、微かな振動と光。それは安定稼働の証であり、いまやこのグロッセンベルグでも魔素エネルギーを利用した産業革命が幕を開けようとしていた。


「ケーブル、固定完了。これで縮退炉とプラントの魔素供給ラインが接続されるよ」


 鋳鉄製のケーブルを握るミリが、汗を拭いながら報告する。巨大なコネクターが、魔素の脈動を伝える管のように、地中を走る設備へとつながっていく。

 一方、少し離れた場所では、セシリアが周囲の地面に等間隔で魔導回路を描いていた。小型の魔導炉を用い、魔素漏れに対応した結界生成装置を慎重に設置していく。


「これで万が一、魔素が漏れた場合も、即座に結界が展開されるはずです。……あとは、ユリウス様次第ですわね」


 セシリアが顔を上げると、ユリウスが中央の開けた地面に立っていた。


「始めるよ。スキル〈工場〉、発動――」


 ユリウスの体から、銀光の輪が放たれた。地中を震わせ、空間そのものを揺らすような感覚。荒野で経験したのと同じ、空間転写型の構造形成。彼のスキルが、古代アルケストラ帝国でも成し得なかった“自動魔素循環型”の地下施設――〈プロメテウス〉を、構築し始めたのだ。


 だが――。


「……っ、は……」


 その場に膝をついたユリウスの顔色が、見る見るうちに青白くなっていく。頭から力が抜け、ふらりと前のめりに倒れかけた、その瞬間。


「ユリウス様!」


 リィナが駆け寄り、その身体をしっかりと抱き留めた。そして、ためらいなく自分の膝の上に彼の頭を預ける。


「魔力の急激な消耗です。肉体的な負荷はなくとも、意識の断絶が生じます。……今、回復モードに入られています」


 冷静な口調で言いつつも、リィナの手は優しくユリウスの額の汗を拭っていた。

 その姿に、結界の設置を終えたセシリアと、ケーブルの固定を終えたミリが視線を向ける。


「……セシリア様、ミリ。こちらは私が対応しますので、ご自分の任務にお戻りください」


「なっ……」


「ちょっ……何、さりげなく膝枕しながら主導権握ってるのよ!?」


 ミリが頬を赤くしながら身を乗り出しかけるが、セシリアが片手で静かに制した。


「……今は、任せておきましょう。ユリウスの回復が最優先ですわ」


「ぐぬぬぬ……リィナのくせにぃ……!」


「ありがとうございます、セシリア様。ミリも、冷却パイプの点検をお願いします」


 仮面のように冷静な声だが、どこか勝ち誇ったようなニュアンスすら感じるリィナの声音。

 地下の施設で、次なる技術の基礎が静かに構築されていく中――。

 その中心に、ユリウスは仲間の手に支えられながら、再び目覚める時を待っていた。


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