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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第88話 プロメテウス計画

 グロッセンベルグ・技術開発区画(仮設会議室)

 魔素炉の設置候補地を視察し終えたユリウスたちは、仮設の会議室に戻っていた。卓上には、地質図と魔素濃度分布を示す文書が並んでいる。


「……やはり地上に魔素炉を作るのは、リスクが大きいな」


 ユリウスが唸るように言った。


「この土地の魔素濃度は、荒野ほど高くないぶん、もし漏れたときの自然環境への影響が顕著に現れるでしょう」


 セシリアが冷静に言う。


「荒野化が進行すれば、居住区はおろか周辺の農地まで壊滅しますわ」


「なら、どうする?」


 ミリが腕を組んで問いかけた。

 その問いに、リィナが即座に答える。


「地下に建設するのです。古代アルケストラ帝国には、地脈の流れを利用して魔素を安定供給する〈地下魔素精製炉〉の理論が存在していました。未完成ではありますが、データは残っています」


「地上より、封じ込めやすい……か」


 ユリウスは指先で地図を叩きながら言った。


「ええ、土圧が魔素拡散を抑制しますし、地下空洞の形状次第では、漏れが発生しても自然に収束します。さらに――」


 リィナは内蔵された機能、魔導ホログラムを展開し、地下の断面図を浮かび上がらせる。


「この区域には浅層の魔素脈が走っています。補助的に精製に使える上、強度の高い岩盤が覆っており、外部への漏出も最小限に抑えられるでしょう」


「よし……スキルで、建設を補助できるはずだ」


 ユリウスは静かにうなずく。


「僕の〈工場〉で精密な魔導回路と機構を自動構築していく。問題は制御系だな」


「それなら私に任せてください」


 セシリアが一歩前へ出て、胸に手を当てた。


「もし魔素漏れが起きた場合、それを検知して即座に封じ込める結界展開装置を、魔導回路として内蔵させます」


「つまり、プラント自体が“自己封印機能”を持つってことか」

ミリが目を見開く。「やるじゃねぇか、お姫様」


「ふふ……私はただ、あなたたちの命を守りたいだけですわ」

セシリアが優しく微笑んだ。


 ユリウスは全体設計図を見つめたあと、ふと視線を上げた。


「……完成したら、名前をつけよう」


「名前、ですか?」


「うん。魔素という“神の火”を扱う炉だ。なら……“火を盗んだ者”の名がふさわしい」


 彼はぽつりと呟くように言った。


「〈プロメテウス〉――人が神に挑む、その覚悟の象徴として」


 リィナは無表情に、だがどこか誇らしげに頷く。

 セシリアは目を伏せ、ユリウスの覚悟を静かに受け止めていた。

 こうしてプロメテウス計画がスタートする。

 セシリアが設計台の上で魔導回路の構成図を調整し、ミリが素材の耐熱性を検討している隣で、リィナが無表情に口を開いた。


「設計図のエクスポート方法が確定しました。マウスデバイスによる出力です」


「マウスデバイス……?」


 ユリウスが聞き返した。


「はい。つまり、口です」


「……口?」


「具体的には、対象者と唇を接触させ、設計図データを転送する方式です」


「は?」


 その瞬間、場が静まり返った。空気が固まる。


「……ちょ、ちょっと待って! それって、つまり、キ、キスしないと設計図が出てこないってこと……!?」


 顔を赤くするセシリア。


「いや、いやいやいや、待て待て。どんな機構だよそれ!? 口で魔導USB差すのか!?」


 ミリが全力でツッコミを入れる。


「設計者としてお聞きしますが、冗談ですよね、リィナさん」


「冗談です」


 リィナは一拍置いて、淡々とした口調で言った。


「なんだよォォォォ!!」


 全員から一斉に突っ込みが入った。だが、そんな騒ぎの中、リィナは表情ひとつ変えない。


「……ですが、口づけによる情報伝達という形式には心理的効果があり、互いの信頼構築に――」


「もう黙っててくれ!!」


 今度はユリウスが、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

 プロメテウスの完成はまだ遠い。


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