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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第84話 魔導錬金砲

 グロッセンベルグ市街の再整備が進む中、ユリウスは市庁舎の作戦室に仲間たちを集めていた。

 壁には地図。周辺の地形と敵の進行予測ルート、守備ラインが記されている。市街地の南門と西門には、砦から持ち込まれた魔導バリスタが設置されたが――。


「……想像以上に射程が短い。投石機には遠く及ばない」


 地図を前に、ユリウスは苦々しく言った。


「バリスタの矢弾は重く、大きな魔素結晶を使えば威力も出せるが……あくまで“中距離用”ってとこだな」


 ミリが肩をすくめる。


「相手がバリスタの射程外から、投石や炎弾を放ってきたら?」


「打つ手がない」


 ユリウスは静かに答えた。その目は、すでに新たな兵器を見据えていた。


「遠距離火力が要る……地形に依存せず、バリスタを超える射程と威力を持つ――新たな兵器が」


「というわけで」


 ふいに声をあげたのは、地図の傍らで魔導式の設計図を開いていたセシリアだった。白銀の髪をかき上げながら、彼女はくるりと皆に向き直る。


「〈魔導錬金砲〉を開発します」


「おお、いきなり名前決まってんのかよ!」


「仮称よ。あくまで仮称」


 セシリアは指で図面をトントンと叩いた。


「原理はこう。まず、高純度の魔素を錬金触媒で精製してプラズマ状態に近づける。そして、コイル状の魔導伝導路――要は“魔導コイル”の中で、その魔素を高速加速。最終的に、砲口から〈魔素弾〉として射出するの」


「それって……魔導レールガンみたいなもんか?」


「概念的には近いわね。ただし魔導電磁力じゃなく、魔導場の振動と干渉制御で加速するのが違い」


「難しい話だなぁ……」


 ミリが頭を抱える一方で、ユリウスはすでに目を輝かせていた。


「セシリア、素材は? あの遺跡で掘り出したアレ――高耐魔素合金の試験材。まだ残ってるな」


「ええ。砲身に使えば、初期出力でもバリスタの数倍は射程が伸ばせるはず」


「よし。開発班を編成しよう。工房のラインは魔導錬金砲に切り替える」


「やっと、戦争らしくなってきたな」


 ミリがにやりと笑った。


――――


 グロッセンベルグの中央工房では、朝から轟音が響いていた。鋳型の中に流し込まれる溶解金属、魔素を帯びて輝く工房炉の炎、そして何より職人たちの怒号と金属を打ちつける音が交錯している。

 その中央、ドワーフの少女ミリが顔を真っ赤にして鋳型に向かっていた。


「くそっ……! またヒビが入った! この厚みと精度で、しかも魔素伝導率を保てって、無茶言うなよ兄貴ぃ!」


 鋳造途中の砲身――長大な円筒状の金属塊には、かすかに縦の亀裂が走っていた。魔素を高速で通す導管構造を内部に備えた複雑な設計。通常の戦列砲とは比較にならないほどの繊細さが要求される。


「ミリ、冷却速度をもう少し遅らせた方がいいかもしれません」


 セシリアが隣から魔導計測器をのぞきこみ、落ち着いた口調で指摘する。


「魔導コイルの加速域が広すぎると、魔素が暴走して共振しやすくなるんです。だから砲身内部の密度分布が均一じゃないと……」


「理屈はわかってるってば! でもやってみろっての、この太さで溝まで作るって、神の業だろ!」


「神じゃなくてミリさんがやるんです。お願いしますね」


 にっこり微笑むセシリアに、ミリは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「うぅぅ……こういう時だけ女王様かよ、魔導士ぃ……!」


「なんか言いました?」


「言ってない!」


 そこに、図面を手にしたユリウスが工房に入ってきた。


「進捗どうだい?」


「兄貴ぃ……この砲、バケモンだぞ。精度も耐久も要求が軍用じゃない。アルケストラ帝国時代の魔導技術でも難しいレベルだ」


 ミリが頬に汗を流しながら、砲身の一部を指差す。


「ここ、魔素導管と耐熱線の複合層にしたいって話だったけど、素材自体が限界近い。下手すりゃ一発で砲身が裂ける」


「でも、それを乗り越えられたら、敵の投石機を遥か後方から粉砕できる」


 ユリウスは砲の模型を掲げ、そこに描かれた射線の軌道を指でなぞった。


「バリスタの三倍の射程、しかも直撃すれば敵の陣地ごと吹き飛ばせる威力だ。グロッセンベルグの命運を握る一手になる」


「わかってるってば……だから、やるしかないんだよな」


 ミリは息を吐き、再び溶解炉へと向かう。


「兄貴のためだもんな。あたしがやる。絶対成功させてやるよ、このクソ砲身!」


「心強いよ、ミリ。期待してる」


「あと終わったら三日休ませろ。ぜってーだからな!」


 ユリウスが笑いながら頷くと、ミリは炉の前に立ち、再び作業を始めた。火花が飛び、魔素が唸る。砦の、いや、新たな都市の未来を支える兵器が、いまここで産声をあげようとしていた。


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