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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第82話 ライナルトの初勝利を知る

 グロッセンベルグ仮設市庁舎の一室。

 本来であれば代官の執務室となる部屋は、いまやユリウスたちの臨時司令室として使われている。

 セシリアが扉をノックもせず駆け込み、手にした報告書を差し出した。


 「ユリウス、急ぎの報せよ。公爵軍が動いたって」


 ユリウスは受け取った紙束を静かに読み下ろす。


 ――『ヴァルトハイン嫡男ライナルト・フォン・ヴァルトハイン、初陣にて南境の敵対貴族デルツェン侯を撃破。領内の町ザルヴァートを制圧』。


「……ライナルトが勝ったのか」


 その声には、驚きというより、どこか安堵すらにじんでいた。


「初陣で領土を一つ押さえるとは、やるな。あいつも……立派になった」


 微かに笑みが浮かぶ。その様子に、セシリアは肩をすくめて言う。


「弟のことになると、ほんと甘いんだから」


「仕方ないだろ。あいつは僕の弟だ。どれだけ敵になろうと、嬉しくなるさ、こういう報せを聞くと」


 静かにそう告げたユリウスは、しかしすぐに笑みを収め、地図の上に手を置く。


「ザルヴァート……公爵領南方の要衝だ。ヘルマンがグロッセンベルグに取り残されたのも納得だな。そこを攻めるとなればこちらとの距離を考えても、援軍は回せない」


「つまり、こっちにはまだ本軍が来る気配はない?」


「いや……それも時間の問題だ」


 ユリウスは視線を南に滑らせ、グロッセンベルグ周辺を囲む地形に目をやった。


「ライナルトが戦果を重ねれば重ねるほど、父上は次の標的を求める。ヘルマンが敗れた今、この町の価値に気づくのも時間の問題だ」


「だったら……」


「ああ。僕たちも備えなければならない。ここを“奪われた”ではなく、“守った”と後に語られるように」


 そう言って、ユリウスはまっすぐ前を見据えた。

 かつての弟に抱いた愛情と、今ここで背負う責任。

 それらが彼の中で、静かに、確かに形を成していく。


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