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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第77話 狂乱の市庁舎

 市庁舎の応接室は、妙に静かだった。外から見れば和平交渉の場だが、その内実は、刃のように張り詰めた空気で満ちていた。

 応接室の椅子に座っているのは、ヴァルトハイン公爵家の長男――ユリウス……に見える人物。

 だがその正体は、最新鋭の変装機構で姿を偽ったゴーレム、リィナだった。


「本日はお招きありがとうございます。和平のための話し合いができるのは喜ばしいことです」


「ふん、余裕の態度だな。敗者がよく言ったものだ」


 ヘルマンの使者を名乗る男が皮肉交じりに笑い、手を振る。従者が銀盆を運び、二人分の茶を差し出した。

 小者のヘルマンはこの場に姿を現さなかった。万が一を考えると、自分の身を晒すなどできなかったのだ。


「毒など入っておりませんので、ご安心を。お互いの信頼を示す儀式として、まずは一口どうぞ」


「では、遠慮なく」


 リィナは目を細め、器を手に取った。だが口元に運ぶ直前、ほんのわずかに手を止める。


――今。


 その瞬間、天井の彫刻の隙間から、弦の軋む音とともに、矢が放たれた。

 だがリィナの反応は一拍も遅れない。茶器を盾にして弾き、椅子ごと横に飛ぶと同時に、床を蹴って距離を取る。


「やはり……罠でしたね」


「くっ、やれッ!」


 応接室の壁の一部がガタンと開き、隠れていた兵士たちが飛び出してくる。毒矢と煙瓶を手にした刺客たち。だが、リィナはすでに彼らの動きを先読みしていた。

 最前列の兵士が煙瓶を投げる動作を見せた瞬間、リィナはカップを彼の額に投げつけ、動きを止めさせる。


「こちらリィナ。襲撃を確認。セシリア様、ミリさん、突入をお願いします」


 グロッセンベルグの外で待機していたセシリアとミリに、魔導通信機からリィナの声が聞こえた。


〈了解。こちらセシリア。突入開始する〉


 応接室の窓の外――城壁の上に、蒼銀の閃光が駆ける。

 それは、PS-01「オリオン」。セシリアとミリが同乗し、突入を開始したのだ。

 爆音。轟く魔導加速ブースターの咆哮とともに、オリオンが城壁を飛び越える。

 それは刺客たちの目にも映った。


「な、なんだあれは……!?」


 怯える刺客たちを尻目に、リィナは静かに、微笑んだ。


「作戦完了まで、あと少しです――ユリウス様」


 応接室はすでに修羅場と化していた。

 床を転がる茶器。飛び交う毒矢。隠し扉から溢れ出る刺客たちは、十名を超えていた。

 だが、それでも。


 「数が多いですねぇ。やりがいがあって、楽しいです♪」


 微笑みを浮かべるリィナは、まるで舞うように戦っていた。

 矢をひょいとかわし、床を蹴って背後に回ると、兵士の兜を叩いて意識を飛ばす。さらに前蹴り一発で二人まとめて吹き飛ばし、着地と同時にテーブルを跳ね上げて盾代わりに使う。


 「ひ、人間じゃない……!」


 「ゴーレムですから♪」


 その頃、市庁舎の裏手では。


 「ふぅ……そろそろ頃合いかな」


 外で待機していたユリウスが、様子を伺う兵士に気づいた。


 「やあ、いい天気だね」


 笑顔で歩み寄ったかと思えば――そのまま膝を入れて兵士を昏倒させ、剣を奪い取る。


 「さて……僕もそろそろ、主役の時間かな」


 そのときだった。


 〈セシリアです。突入します――っ……きゃああああああっ!?〉


 〈わああ!?バカ、セシリア止まれ止まれ、建物壊れる!おい、やべえぞ、崩れるって!!〉


 魔導通信機から聞こえてきたミリの悲鳴。


 直後、市庁舎の正面玄関が――爆発した。


 ドォォン!!


 蒼銀のフレーム、PS-01「オリオン」が全速力で体当たり突入。セシリアの慣れない操縦によって、扉どころか柱まで粉砕され、天井がガラガラと音を立てて崩れ始める。


 〈うわあああ!?なんか屋根落ちてくる!?〉


 「……やっぱり、こうなると思ったんです」


 リィナは、壁を蹴って応接室から跳び出した。


 降り注ぐ瓦礫の中、スカートをたなびかせながら(※変装中)軽やかに回転し、器用に着地。


 「セシリア様、オリオンは突撃槍じゃありません! どこに突っ込んでるんですかっ!」


 〈わ、わざとじゃないのよ!?あ、あれ、ブレーキどこ……!?〉


 〈ブレーキないの!?おい、もうやめてくれマジで!?〉


 市庁舎は悲鳴と振動に包まれながら、いよいよその構造的限界を迎えつつあった――。


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