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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第70話 リィナママ

 リルケットの鋭い視線が、ヴィオレッタに突き刺さる。


 「……貴様、何者だ?」


 ヴィオレッタは笑みを崩さず、優雅に身を引いた。その足元には、こぼれた薬液が床に染みを作っている。


 「まぁまぁ、そんな怖い顔をなさらずに。わたくしはただ、彼の心を癒そうと……。疲れた彼には、少し甘い夢が必要だっただけ」


 「ふざけるな!」


 リィナの瞳が怒りに燃え、魔導出力を上げた拳を握る。彼女の身体からは、ゴーレムとは思えぬ感情の奔流があふれていた。


 「ユリウス様を――利用しようとしたこと、絶対に許さない!」


 「許すも何も……彼はもう、わたくしを『ママ』だと呼んでいたでしょう?」


 その言葉に、リルケットの表情が一瞬強張る。ユリウスの精神状態は、まだ完全には戻っていないのだ。


 「リィナ、彼を連れて下がれ。私がこいつを押さえる」


 「……了解です、リルケットさん」


 リィナは、まだ意識の朦朧とするユリウスを優しく抱え上げる。その目には、怒りと哀しみが混ざった光が宿っていた。


 「ユリウス様、もう大丈夫です。帰りましょう……みんなが待っています」


 リルケットは一歩前へ進み、腰の剣に手をかける。


 「今すぐ降伏すれば、命だけは助けてやる。グロッセンベルグの犬が、ここで何をしていたか……たっぷり報告してもらう」


 「おやおや……怖い人たちに囲まれてしまったわね」


 ヴィオレッタはくすりと笑い、袖口から小さなガラス瓶を取り出す。


 「では、また会いましょう――今度はもっと、可愛い彼に会えることを期待して」


 瓶を床に叩きつけると、紫色の煙が一気に部屋に充満する。


 「くっ、煙幕か……!」


 リルケットが咄嗟に剣を抜くが、ヴィオレッタの姿は既にその場から掻き消えていた。

 リィナは急いで窓を開け、ユリウスの呼吸を確保する。


 「ユリウス様、しっかりしてください……もう、誰にも、あなたを渡さない」


 「ユリウス!」


 ミリが駆け込んでくる。続いてセシリアも現れ、ヴィオレッタに薬を飲まされたユリウスを心配そうに見つめた。


 「ユリウス、しっかりして!」


 セシリアの声に、ユリウスがふらりと身体を起こす。そして、虚ろな瞳でリィナを見つめ――


 「……まま……?」


 その一言に、全員が凍りついた。


 「……は?」


 ミリとセシリアが同時に目を見開く中、リィナは一拍おいて――


 「まあまあユリウスちゃま、おきまちたか~? よちよち、ママがぎゅーしてあげまちゅよ~」


 ノリノリでユリウスの頬に手を添え、まるで本物の母親のような声色で甘やかしモードに入るリィナ。


 「ち、ちがっ……ちがっ……! なにやってんのよあんたはぁぁぁぁ!!」


 ミリがリィナの背中を全力で叩く。


 「や、やめてくださいミリ様っ、ユリウスちゃまの心のケアをっ、わたくしなりにぃっ!」


 「おい、ややこしくなるからやめろ! ユリウスが本気で信じたらどうすんだ!」


 「ママ~、ぎゅってしてぇ~……おなかすいたぁ~……」


 ユリウスがぐずり始め、リィナのスカートの裾を握る。


 「はうっ……これは罪悪感と幸福感の二重奏……!」


 「リィナ、ほんとにやめて! ほら、セシリア! なんとかして!」


 ミリが必死に訴えるが、セシリアは口元に手を当て、ぷるぷると肩を震わせていた。


 「ふふ……ご、ごめんなさい……だって……リィナったら……」


 「笑ってる場合じゃないでしょぉぉぉぉっ!!」


 ミリの絶叫が執務室に響き渡る中、リィナは至福の表情でユリウスを抱きしめていた。


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