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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第64話 撤退

 草の焼け焦げた匂いが立ち込める中、ユリウスは「オリオン」のハルバードを携えて前進する。巨大なパワードスーツの足音に混じって、疾駆するリィナの軽やかな駆動音が響く。彼女は足回りを魔導強化し、ユリウスの側面を警戒しながら伴走していた。


「ユリウス様、正面、三台目の投石機、再装填中です」


「了解、右から回り込む!」


 ユリウスはオリオンの姿勢制御を切り替え、右脚に重心をかけて加速する。全身の関節から魔素駆動の唸りが上がり、オリオンは装甲の質量をものともせず、大地を跳躍するように進む。標的は、木製フレームと石弾を抱えた投石機。組み上がったばかりのそれは、リロードの手間で完全には稼働していなかった。


 ハルバードを振りかざし、ユリウスは斜めに切り込む。


「……壊れろッ!」


 金属の塊が木の骨組みに直撃し、機械めいた破壊音と共に三台目の投石機が砕け散る。周囲の兵士たちが悲鳴を上げて散り、リィナがその隙を突いて大剣を一閃する。銀色の光が獲物に襲い掛かる蛇のように放物線を描き、次の投石機の駆動輪を切断する。


 四台目、無力化。


「順調です、ユリウス様!」


「こっちも確認。残り一台――左前方に五台目!」


 通信機越しの会話に緊張はあるが、どこか誇らしげな声が交差する。これが、彼と彼女が積み上げた信頼の形だった。

 そのとき、敵陣の奥で喇叭が鳴る。指揮官――バスラーだ。


「増援がくる……リィナ、分断されたら各個撃破される。俺が五台目を潰す、君は退避経路を確保して!」


「了解しました。どうか、ご無事で……ユリウス様」


 二人は再び分かれ、互いの役割に向けて奔る。

 これで、敵の投石機は残すところあと一台。短期決戦こそが勝利の鍵――ユリウスは咆哮するオリオンを操り、灼熱の戦場を突き進んだ。

 投石機五台目――ユリウスが巨大なハルバードを振りかざし、機構部へと叩き込む。

 衝撃と共に軸が砕け、巻き上がる粉塵の中で、最後の投石機が崩れ落ちた。


 「よし、残るは――指揮官だ!」


 ユリウスは通信機を通してリィナに呼びかける。


 「リィナ、指揮官を倒して、すぐに撤退する。混乱している今しかない!」


 「了解です、ユリウス様!」


 二人の巨影が煙と混乱を切り裂き、戦場の後方へと突撃する。

 一方、指揮本陣。


 「な……ばかな……!」


 戦場の丘から全体を見渡していたバスラーが、愕然とした表情で呟く。


 「すべて……やられたのか? 投石機が、五台とも?」


 副官が駆け寄り、震えた声で報告する。


 「はい、敵は二体。全身を金属で覆った人型の機械兵と――もう一体は、メイド服を着た少女です。信じがたい動きで投石機を破壊していきました!」


 バスラーが顔を上げた刹那、ユリウスの操るオリオンが地響きを立てて迫り、斬撃が放たれる。


 「ぐっ……!」


 叫ぶ暇もなく、ハルバードの一撃が指揮台ごと本陣を両断した。


 指揮系統を失った兵たちは、次々に後退を始める。


 「指揮官、戦死――っ!」


 「敵襲だ、退け、退けぇぇ!」


 隊列は崩れ、統率のとれない混乱が野営地を覆う。


 「リィナ、引こう!目標は達成だ」


 「はいっ!」


 二人の影は、突撃と同じ速度で戦場を抜け去っていった。


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