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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第62話 グロッセンベルグ、出撃

 重厚な扉が軋む音を立てて開かれ、軍議室に兵士たちが続々と集まってくる。代官ヘルマンは上座に座し、眼前の地図を見下ろしていた。砦とその周囲、村落、補給路が描き込まれた地図には、いくつもの印が刺さっている。


「……揃ったな」


 ヘルマンの低く落ち着いた声が、室内に静けさをもたらした。


「ノルデンシュタイン砦が、予想以上の速度で勢力を拡大している。これは放置できる問題ではない。すでに工房や冷却装置、訓練された自警団……我々が把握していた以上の組織力を持ちつつある」


 ヘルマンは、砦の位置に指を置いた。


「このまま放っておけば、いずれ公爵閣下の耳にも入る。そうなる前に、我々の手で潰す」


 部屋の隅で緊張した面持ちの将校たちが頷いた。


「遠征軍の総指揮は、ヴィクトール・バスラー中隊長に任せる。正規兵三百名に加え、徴兵八百、弓兵二百、工兵百。投石機は五基。補給はこの街の備蓄から出す」


 バスラーが一歩前に出て、拳を胸に当てて敬礼する。


「はっ。必ずや、反乱の芽を刈り取ってみせます」


「良いか、これは討伐ではない。摘発だ。荒野に巣くう叛徒共に、秩序の重みを思い知らせてやれ」


 ヘルマンの口元が引きつる。焦りは隠しきれていなかった。


「手早く終わらせろ。投石機を前線に展開し、砦を崩してから突撃。民は恐慌に陥るだろうが、構わん。砦を落とした後は、反乱分子は処刑。それ以外は奴隷として再編成する」


 バスラーは黙って頷く。背後の将兵たちにも、ただならぬ空気が伝わっていた。


「出撃は三日後。それまでに準備を整えろ。……以上だ」


 兵たちが敬礼とともに退出していく中、ヘルマンはひとり地図を見下ろしていた。


(潰さねばならん。今ここで、芽のうちに……)


 ノルデンシュタイン砦の南方、荒野の丘陵地帯を哨戒中のリルケット率いる自警団。

 その一人が、地平線に舞い上がる土煙を見つけた。


「……隊長、あれ……!」


 リルケットは静かに望遠鏡を構え、土煙の先を見据える。整然と並ぶ歩兵、荷車を引く工兵部隊、そして後方に設置される投石機――。


「間違いない、軍勢だ。数百……いや、それ以上。まっすぐこちらに向かっている」


 すぐに魔導通信機を取り出し、砦との回線を開く。


『こちらリルケット、南方哨戒隊。敵軍を発見。大規模な部隊がこちらに向かって進軍中。正規兵と思われる装備に加え、投石機も確認。指揮官の詳細は不明』


 数秒後、通信機からユリウスの声が返ってきた。


『了解。全軍に警戒態勢を。自警団は距離を保ちつつ、敵の速度と規模を記録してくれ』


『任せてください。リルケット、これより敵軍の追跡に移る』


 通信を切ると、リルケットは馬を翻し、部隊に命じた。


「いいか、無理に接触するな。敵の数は多い。こちらは監視に徹するぞ!」


「了解!」


 薄い砂煙の向こう、敵軍はゆっくりと確実に、ノルデンシュタイン砦へと迫っていた。


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