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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第50話 酒に弱いユリウス

 砦のあちこちで酒盛りの声が上がっていた。自警団の面々も、鍛冶屋の若者たちも、最近は争いを忘れて樽を囲んでいる。酒が人の心の垣根を壊したのだ。

 しかし、城壁の上では一人、魔導バリスタの整備に精を出すミリの姿があった。


「ったく、こんな時に限って、弦が緩んでやがる……ま、誰かがやらなきゃ、だしな」


 ぶつぶつ言いながらも、手は器用に動いている。そのとき、背後から聞き慣れた足音が聞こえた。


「……兄貴?」


「やっぱりここにいたか、ミリ。はい、差し入れ」


 そう言ってユリウスはウイスキーの瓶とカップを掲げた。顔はほんのり赤い。どうやら少し飲んできたようだ。


「いいのかい? こっちは仕事だってのに」


「仕事が終わったら、一緒に飲もうって言いに来た。でも……もう我慢できなくなって」


 ミリは苦笑しながら、バリスタの整備を一旦中断し、ユリウスの横に腰を下ろした。


「じゃ、ちょっとだけね」


 二人はウイスキーをカップに注ぎ、乾杯する。濃厚な香りが漂い、砦の静かな夜に二人の影が寄り添った。


「ふぅ……うまいな」


 ミリが満足そうに笑うと、ユリウスは小さく頷き――そのまま、こてんと横に倒れた。


「おい、早っ!? もう酔いつぶれたのかい、兄貴!」


 ミリは慌てて顔をのぞき込んだが、ユリウスは幸せそうな寝息を立てている。口元にかすかな笑みまで浮かべていた。


「……ったく、どこまで無防備なんだよ」


 そう言いながらも、ミリはそっとユリウスの頭を自分の膝に乗せた。城壁の上に吹く風が、ほんのり冷たい。

 見下ろせば、優しい寝顔。ミリは少しだけ顔を赤らめた。


「……キス、くらいなら、バレやしないよね……?」


 そう、そっと顔を近づけていく――その瞬間。


「――ミリ、手伝いに来たわよ!」


「ユリウス様に任せきりは不公平ですから」


 セシリアとリィナの声が同時に響いた。


「ぎゃあっ!?」


 ミリは慌てて飛び退き、寝転んだユリウスの頭がごとんと地面に落ちた。


「いったぁ……え? ミリ……なんで、顔赤いの?」


「ち、違うよ!? あたしは何もしてない! 膝枕してただけだってばっ!」


「妙にキス寸前みたいな体勢だった気がします」


「証拠写真があれば提出してるところよ」


 二人はミリをジト目で見た。

 ミリは顔をさらに赤くして絶叫する。


「やめろおおおお!!」


 ミリの叫びが、今夜もまた砦の夜空に響き渡った――。


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