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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第48話 ウイスキー工場

 ある日、砦の訓練場にて。

 号令の声と、木剣の打ち合う音が乾いた空に響いていた。


「よし、そこまで! 気を抜くな、もう一度やるぞ!」


 リルケットの力強い声に、自警団の面々が大きく返事をした。


 その様子を見守っていたユリウスは、思わず口元に笑みを浮かべる。鍛錬を重ねる彼らの動きには、かつての混乱も迷いもなく、確かな覚悟があった。


「よくここまで鍛えたね、リルケット。彼らの顔つきが違う」


 そう声をかけると、リルケットはふと眉を上げ、にやりと笑った。


「いや、俺だけの力じゃない。皆、この砦のことを真剣に考えてる。それに、お前の工場や街づくりが、やる気を引き出してるんだ。だからこそ……」


「だからこそ?」


「そろそろ酒が要るな」


「……え?」


 ユリウスがきょとんとした顔をすると、リルケットは肩をすくめた。


「戦友と語り合うには、杯がいるって話さ。訓練の後に飲める酒があれば、団の結束はより深まる」


 すると、それを聞いていた自警団の一人が手を挙げた。


「隊長の言う通りっす! オレたち、砦での生活には満足してますけど、やっぱり酒は欲しいッス! 祭りもしたいし!」


「そうそう、でもこの砦じゃ、酒なんて手に入らないからなぁ」


「行商人も、ここまで来る物好きはいないからねぇ……」


 あちこちから声が上がる中、ユリウスは周囲を見渡してうなずいた。


「……なるほど。そうだよな。人が集まる以上、楽しみも必要だ」


 そう呟くと、目を細めて、決意をにじませた。


「よし、だったら作ろう。僕たちの手で、この砦に……ウイスキー工場を!」


「おおっ……!」


「ユリウス様、マジで作るのかよ……!」


 歓声と驚きの声が上がる中、ユリウスは拳を握りしめた。


 住まいがあれば衣服がいる。服があれば道具がいる。そして――心を繋げるためには、酒がいる。


 こうして、ノルデンシュタイン砦の次なる挑戦、ウイスキー工場の建設が幕を開けたのだった。


 ウイスキー工場の建設を宣言したユリウス。その言葉に、砦の空気がざわめいた。


「おおっ、本当か!」


「飲みてぇ、マジで飲みてぇ!」


「ここ、寒いからなあ。ちょっと引っかけたい夜もあるってもんよ!」


 住民たちの期待が高まる中、突然、勢いよくミリがユリウスの前に飛び出した。


「兄貴、それ、マジか!? ほんとに酒、造るのか!?」


 目をキラキラさせ、握り拳を胸の前でぶんぶん振るミリ。その表情は、武器を作っているときよりも真剣だった。


「えっ、う、うん……そのつもりだけど」


 圧に気圧され気味にうなずくユリウスに、ミリはまさに飛び跳ねる勢いで叫んだ。


「やったあああああああああああ!! あたし、酒、大好きなんだよ!! ドワーフだもん!! 飲まずにやってられるかっての!」


 その勢いにセシリアが目をぱちぱちと瞬き、リィナが「また心拍数が上昇しています」とメモを取った。


「ミリさん、あなた、そんなにお酒好きだったの?」


「もちろんさ! ドワーフの誇りは、金属と酒と――そして宴よ!!」


 自慢げに胸を張るミリの背後で、リルケットが


「まったく……ドワーフはこういう時だけ元気だな」


 と苦笑した。

 かくして、砦に新たな夢が加わった。

 鉄と魔導と酒の香りが混ざる、自由の街への第一歩だった。


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