第47話 目隠し
「仕方ないね……ほら、ユリウス、目つぶりな」
ミリがユリウスの目に手ぬぐいをかけて目隠しすると、本人は抵抗するでもなく苦笑いを浮かべた。
「いや、その……僕はただ、リィナの動力源の構造を知りたくて……」
「わかってるよ。でも、メイド服の下を男に見せるってのは、いろいろと問題だから」
ミリがキッと睨むと、セシリアが小さくため息をついて前に出た。
「じゃあ私が見るわ。リィナ、お願い」
「了解しました、セシリア様」
リィナは無表情のまま、自身のメイド服の背中部分の留め具を器用に外すと、ぴたりと整った白い肌と、そこに埋め込まれた魔導機構が現れた。
背中の中心にあるのは、淡い光を放つ青白い魔核と、それを囲うように精密な魔術刻印と導線のような紋様。どれも人の手によるものとは思えない、洗練された造形だった。
セシリアはその機構を見て息をのんだ。
「……これが、アルケストラ帝国の……」
「いいえ、これはユリウス様が与えてくださった、新しい“心”です」
リィナの声は相変わらず機械的だったが、どこか誇らしげでもあった。
「私は兵器として造られました。けれど今は、人の言葉に耳を傾け、人の表情を覚え、そして、人の笑顔を見たいと思うようになりました」
目隠しをされたままのユリウスが、少し俯くように言った。
「……ありがとう、リィナ。君がいてくれるから、僕は人を助ける工場を作れた。もし君のような存在が量産できたら、砦の人手不足もきっと――」
「その時は……私にも、感情をください」
セシリアとミリがハッと息を呑む。
「私は、悲しみも、喜びも、よくわかりません。でも、わかりたいと思うのです。それが“夢”というものであれば、私はそれを望みます」
その場に、穏やかで、静かな時間が流れた。
ユリウスがゆっくりと手ぬぐいを外し、ミリとセシリアがリィナを見つめる。
「リィナ……君は、もう夢を見てるんだと思うよ」
誰もが、ゴーレムという存在に、心が芽生えはじめていることを確かに感じていた。




