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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第45話 魔素鋼

 ノルデンシュタイン砦の城壁には、ついに完成した魔導バリスタが据え付けられた。

 リルケットの提案により始まったこの計画は、連日、ユリウスたち技術班の努力によって実現されたものだった。


「これならクロウベアや野犬が来ても、一発で追い払えるわね」とセシリアが言うと、


「精密な狙いを付けるために魔導照準器も設けてみたんだ」とユリウスが答える。


 城壁の上には数人の住民たちも集まり、完成したバリスタを興味深げに見守っていた。


「これが……魔導の力か」とつぶやいたのは、初めて砦に来た若者の一人だった。


 リィナはバリスタの陰に立ち、魔導機構の調整をしていた。


「出力安定。圧縮魔素の供給量も適正。問題なし」


 無表情にそう言って、ふとユリウスの方を見やる。


「すごいな、リィナ。君がいたからこそここまでできた」


 ユリウスのその言葉に、ほんのわずかだけ、リィナの口元が緩んだような気がした。

 だがすぐに無表情に戻り、


「当然の結果です」


 と静かに答えた。

 ミリが


「あたしがいなけりゃ、何も完成しないんだけどな」


 とアピールすると、リィナはミリの方を見た。


「ミリの発言は自惚れ30%、嫉妬70%で構成されています」


 リィナの分析に口をパクパクさせるミリ。

 図星で何も言えなかった。

 こうして完成した魔導バリスタの試射が終わり、その威力に皆が驚嘆する中、ユリウスの表情は浮かない。


「……これが敵に奪われたらどうなる?」


 ユリウスの言葉に、リルケットがうなずいた。


「同感だ。強力な兵器は、使い手によって希望にも災厄にもなる。対抗手段が必要だ」


 ユリウスは決意したように言う。


「パワードスーツをもっと強くしよう。誰にも真似できない技術で、砦を守る盾に」


 その言葉に、ミリの目が鋭く光る。


「……だったら、試したい素材がある」


 彼女は工房にこもり、いくつもの炉に火を灯した。魔素を鋼に練り込むという、かつてドワーフ王国でのみ可能だった秘術。高温のなかで精錬される鋼に、液状の魔素がゆっくりと注ぎ込まれていく。


「……ドワーフの誇り、見せてやる」


 幾度となく炉が唸り、火花が飛び散る。ようやく鍛造された金属は、薄く青く輝いていた。魔素を宿した鋼——魔素鋼アーケインスチール


 ミリはそれを掲げ、胸を張る。


「できたよ、兄貴。これが、魔素鋼。剣でも鎧でも、思いのままに作れる……今までのスーツとは、比べ物にならないくらい、強くできる!」


 ユリウスは感嘆の声を漏らす。


「ありがとう、ミリ。君がいてくれて、本当に良かった」


 ミリは、ちょっと照れくさそうにそっぽを向きながら、ふふんと鼻を鳴らした。


 そして数日後、晴れ渡った砦の広場に、重々しい沈黙が流れていた。


 正面には、最新鋭の魔素鋼で装甲を強化されたパワードスーツが立ち、その無機質なボディは陽光を鈍く反射している。隣には魔導バリスタが構えられ、青白く輝く魔素の矢が装填されていた。


「……本当に撃つのか、これ?」

 ユリウスが額に汗を浮かべながら問いかける。


「当然だ。防御性能を証明するには、これ以上ない方法だろう」


 リルケットが腕を組んでうなずく。すでに退避区域には安全柵が張られ、周囲には住民たちが息を飲んで見守っていた。


「発射準備完了。魔素圧縮率、最大まで上昇……」


 リィナがバリスタの照準を調整しながら、淡々と報告する。


「ま、待って! さっきの調整、本当に大丈夫なの!?」


 セシリアが叫ぶが、リィナは表情一つ変えずにカウントを始めた。


「三……二……一……発射」


 青白い閃光がバリスタから放たれた。魔素の矢が音速に近い速度で大気を裂き、一直線にパワードスーツの胸部へと突き刺さる――!


 ――ドォン!!


 鈍い衝撃音とともに、煙と砂塵が辺りに広がった。観衆が一斉に身を引く。


「パワードスーツ、被弾確認……!」


 リィナの声が広場に響く。

 煙が晴れると、そこには――無傷で立ち続けるパワードスーツの姿。


「……やった……!」


 ユリウスが思わず拳を握りしめる。


「ふふっ、やったね兄貴!」


 ミリも笑顔で跳ねるように飛びついた。


「魔素鋼の強度、確認完了。撃ち抜けませんでした」


 リィナが首を傾げたまま報告するが、その頬がわずかに上がっていた――微笑んだつもりだったのだろう。


「……それ、笑ってるつもりか?」


 セシリアが呆れ混じりに尋ねると、リィナは小さく首を横に振った。


「いいえ。ただ、計算通りだというだけです」


「顔がめちゃくちゃドヤってるよ……」


「ドヤ、とは?」


「……なんでもないわ……」


 砦の住民たちは歓声を上げ、ミリはユリウスの袖を引っ張りながら「もっと撃っていい?」と興奮気味に聞いた。ユリウスは苦笑しながらもう一度パワードスーツの鎧を見上げる。


(これなら、そう簡単には砦を破られない――)


 心の中で、ユリウスは未来への希望を一つ、確かに積み上げた。


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