第44話 パワードスーツと嫉妬
砦の西壁――。
ユリウスは完成したパワードスーツ〈オリオン〉を着込み、崩れた石材を慎重に吊り上げては、壁の補修を進めていた。ドワーフたちの手で組み上げられた新設計の魔導フレームは、彼の動作を正確にトレースし、重作業すら軽々とこなしていく。
「ミリ、そっち受けてくれるか!」
「あいよ! 兄貴、次は右側の柱だ!」
二人の息はぴったりだった。
集まった住民たちが、遠巻きにその様子を眺めていた。
「すごい……まるで巨人が動いてるみたいだ」
「あれが噂のパワードスーツか……」
「こんな砦、攻められるわけないな!」
その時――カツ、カツと足音がして、無表情の少女が現れた。
「……視聴完了。好感度上昇率、対象ユリウス様+8%。警戒指数上昇」
現れたのはリィナだった。手にはスパナと木材サンプルを抱えている。
「……やってみたくなりました」
そう呟くと、彼女は黙々と崩れた別の箇所に向かい、石を持ち上げ始めた。
「えっ、リィナさん、まさか素手で!?」
「はい。リィナ製補助関節、出力制限解除。最適重量、132キログラム」
無表情のまま、石を積み直しながら、ちら、とユリウスを見た。
「ユリウス様。人の評価とは、能力によって得られるべきです。外装で得られる評価は、まやかしです」
くすりともせず、淡々と手を動かし続ける彼女に、ユリウスは思わず苦笑した。
「……張り合ってるのか、リィナ?」
「違います。これは技術的比較です」
「ほんとに……?」
近くで見ていたミリが、くすっと笑う。
「顔に出てないけど……めっちゃ対抗心メラメラじゃない?」
「心拍数、通常の1.2倍。感情の高まりを検出しました」
「自分で言うな!」
淡々と石を積むリィナと、それを見守る住民たち。
砦には今日も平和で騒がしい、ほんのり温かな午後が流れていた。




