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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第42話 魔素縮退炉

 ノルデンシュタイン砦の中枢、〈動力棟〉と呼ばれる一角。唸るような低音が響くその空間では、既存の魔素変換炉がフル稼働していた。


「……また停電? 洗濯物が途中で止まっちゃったわ」


「風呂の湯がぬるいんだけど!」


「昨日なんかパンが生焼けで……」


 市民たちの不満が少しずつ、だが確実に積もっていた。

 ユリウスは稼働状況を記録した魔導計器を見つめ、頭を抱えていた。


「やっぱり……人口が増えすぎて、変換炉が限界だ」


 そんな彼の後ろから、トン、トン、と軽やかな足音が近づいた。


「ユリウス様。ご相談があります」


「リィナ? 何かいい案でも?」


 ゴーレム少女は小さくうなずき、胸を張るように手を広げた。


「はい。アルケストラ帝国時代の技術を応用して、“魔素縮退炉”の建設を提案いたします」


「ま、魔素縮退炉……!?」


 セシリアが顔を強張らせる。


「それって……魔素を極限まで圧縮して爆縮的に抽出する、あの危険すぎて封印された技術……?」


「はい。しかし、構造と制御方式を改良し、暴走率を0.4%未満に抑える設計にいたしました。ご安心ください」


 ユリウスは苦笑する。


「安心……できるのかな、それ……」


 リィナはきょとんと首をかしげた。


「できます。きっと」


「きっと、か……」


 ミリは工具を肩にかけながら、ポンとユリウスの肩を叩いた。


「兄貴がやるって言うなら、あたしが作ってやるよ。設計図出しな、リィナ」


「了解です。縮退炉〈カオス・ゼロ〉、起動準備に入ります」


「なんで名前ついてんの!?」


 セシリアがすかさずツッコミを入れた。

 苦笑しながらもリィナの提案に、ユリウスは少し目を見開いた。


「カオスゼロ……。君が言っていた、古代アルケストラ帝国の遺産のひとつかい?」


「はい。魔素縮退炉カオスゼロ。詳細な設計図まではありませんが、魔素を極限まで圧縮し、膨大なエネルギーを安定供給できる装置です」


 リィナは、持っていた魔導プレートを操作し、炉心構造と魔導制御回路の仮想図面を浮かび上がらせた。


「現在の変換炉の十倍以上の効率。都市規模のエネルギー供給が可能になります」


「それが本当に完成すれば……砦じゃない、これはもう都市だな」


 ミリが息を呑んで言うと、セシリアも静かに呟く。


「けれど、それほどの出力……暴走すればただでは済まないわ」


 リィナはうなずいた。


「炉心には高純度の魔導鉱と、魔素遮断合金を使う必要があります。そして制御には、精密な魔導刻印と干渉制御機構が必要です。失敗すれば……崩壊します」


「ふっ。やりがいがあるじゃないの」


 ミリがにやりと笑った。


「素材も彫刻も、あたしが何とかする。奴隷時代に習った技術、今こそ見せてやるよ」


「ありがとう、ミリ」


 ユリウスが感謝の笑みを向けた後、真剣な表情に戻る。


計画名カオスゼロ……暴走の危険を抑える安全機構と、緊急遮断システムを僕とリィナで設計しよう。完成すれば……未来が変わる」


「はい、ユリウス様。全力でお手伝いします」


 そしてその夜、ノルデンシュタイン砦では新たな挑戦――

 魔素縮退炉カオスゼロの建設が静かに始まった。

 そしてついに完成する。


「魔素縮退炉、ついに完成!」


 リィナは自慢げに胸を張って言った。


「こちら、超高濃縮・魔素ジュースです。出力試験も兼ねて抽出してみました!」


 ユリウスは受け取ったグラスの中をのぞき込む。淡く輝く青紫の液体から、ふわりと甘い香りが立ちのぼっている。


「へえ……これ、飲めるのか?」


「もちろんです! お味は……魔素一万倍! 香りは深宇宙! 喉ごしは……重力波レベルです!」


「重力波ってどんな喉ごしなんだ……」


 と、そこへリィナが「じゃーん」と両手を広げ、どこからか取り出したのは――


 ピンクのハート型にぐにゃぐにゃと曲がる、巨大なストローだった。


「では、これでユリウス様とラブラブ共有飲みしましょう!」


「は?」


 ユリウスが凍り付く間に、リィナは手際よくそのハートストローを、二人のグラスに接続した。


 にっこり笑って言う。


「“間接キス”とはこういうことですよね? 本で読みました!」


「いや、リィナ、それは違――」


 ちょうどそのとき、背後から声が飛んできた。


「なにしてんのよ、あんたら……!」


 ミリとセシリアが、なぜか息を切らせて立っていた。


 セシリアは青筋を立て、ミリは金槌を握っている。


「ち、違う! これは実験なんだ、実験で――!」


 ユリウスの言い訳に、リィナは無邪気に首をかしげた。


「では、三人用のストローを作りましょうか?」


「余計ややこしいことすんなあああああ!!」


 砦の空に、ユリウスの叫びがこだました。


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