第41話 自警団設立と心の変化
ドワーフの工房火災の一件は、砦に暮らす人々に深い衝撃を与えた。
燃え残った木材と、黒く煤けた鉄骨の残骸を前に、誰もが言葉を失っていた。
「こんなこと、二度と起こしちゃいけねぇ……!」
ひとりの男が拳を握りしめると、それに賛同する声が次々と上がった。
「派閥だの順番だの、もうどうでもいい。俺たちはこの砦で生きていくんだ。だったら、砦を守るのは……」
「俺たち自身だ!」
自然発生的に広がっていった言葉が、やがてひとつの形となった。
「――自警団を作ろう」
ユリウスがその声を受けてうなずいた。
「そうだね。君たち自身でこの砦を守る意志を持ってくれれば、これほど心強いことはない」
リルケットが一歩前に出る。彼は人々を見渡し、厳しくも温かい口調で言った。
「戦場を知らぬ者を鍛えるのは容易ではない。だが――」
彼は目を細め、かすかに口元を緩めた。
「ここには、鍛える価値のある者たちがいる。希望を守る意志がある。ならば、俺が手を貸そう」
その日から、砦では毎朝、リルケットによる訓練が始まった。
木剣を振るう音、盾を構える掛け声、地面を蹴る靴の音が、朝もやのなかに響いた。
人々の顔には疲れと汗がにじんでいたが、それ以上に、確かな誇りの光が宿っていた。
――砦は、ただの避難所ではなくなりつつあった。




